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ひだまり商店街の小さな奇跡 〜海辺の雑貨店と、言葉にできない贈りもの〜  作者: ゆうぎり
第2章「居場所の芽生え」

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雑貨に触れる

 カップの中身が、ゆっくりと減っていく。


 モチオは、最後の一口を飲み終えると、静かに息を吐いた。


 あたたかさが、まだ少しだけ体の中に残っている。


 カップを見つめる。


 空になった中に、ほんのわずかな湯気が揺れていた。


 そのまま、そっとカウンターに戻す。


 小さな音がして、すぐに空気の中に溶けていく。


「ごちそうさまでした」


 小さく言う。


 カリーナは、やわらかくうなずく。


「うん」


 それだけのやりとり。


 けれど、それで十分だった。


 モチオは、ゆっくりと視線を店の中へ戻す。


 さっきまでと同じ景色。


 棚に並ぶ雑貨たち。


 けれど、その見え方が、少しだけ変わっていた。


 ただ眺めていたときよりも、少し近い。


 “ここにあるもの”として、ちゃんと感じられる。


 モチオは、近くの棚へと歩く。


 足取りは、もう迷っていない。


 自然に、その場所へ向かう。


 目の高さに、小さな布のかたまりがあった。


 手のひらに収まりそうな、大きさ。


 色は淡く、触れるとやわらかそうに見える。


 モチオは、ほんの少しだけ手を伸ばす。


 指先が、布に触れる。


 思っていた通り、やわらかい。


 軽く持ち上げてみる。


 ふわり、とした感触。


 重さはほとんどない。


 それでも、ちゃんと形がある。


 モチオは、それを少しだけ手の中で転がす。


 触れているだけで、落ち着く感触だった。


「それね」


 カリーナの声がする。


 モチオは、顔を上げる。


 カリーナは、カウンターの向こうからこちらを見ていた。


「中に、少しだけ重りが入ってるの」


 説明は、短い。


 でも、ちょうどいい。


 モチオは、もう一度、その布のかたまりを見る。


 さっきよりも、少しだけ重さを感じる。


「……ほんとだ」


 小さくつぶやく。


 軽いのに、手の中で安定している。


 その感覚が、不思議だった。


「置くと、ちょっとだけ転がらないの」


 カリーナが、少しだけ言葉を足す。


 モチオは、そっと棚の上に戻してみる。


 布のかたまりは、少しだけ揺れて、すぐに止まる。


 転がらない。


 そのまま、静かにそこに収まる。


 モチオは、その様子を見つめる。


 さっきよりも、このもののことが、少しだけわかる。


 それだけで、距離が近くなった気がした。


「……いいですね」


 思ったままを、声にする。


 カリーナは、小さくうなずく。


「うん。触ってもらうと、わかることもあるから」


 その言葉は、この店全体のことを言っているようにも聞こえた。


 見るだけじゃなくて、触れてみる。


 そうすると、少しだけ違って見える。


 モチオは、ゆっくりと周りを見る。


 他の雑貨たちも、同じようにそこにある。


 見ているだけでもいい。


 でも、触れてもいい。


 その選び方も、自由だった。


 モチオは、別の棚へと歩く。


 今度は、木でできた小さな箱に目が止まる。


 表面には、細かな模様が刻まれている。


 モチオは、それに指を這わせる。


 少しざらついた感触。


 でも、どこかやわらかい。


 削られた跡が、そのまま残っている。


(……作った人がいる)


 ふと、そう思う。


 誰かが、これを作った。


 形にして、ここに置いた。


 それを、自分が今、触れている。


 そのつながりが、少しだけ実感として残る。


 モチオは、箱を開けてみる。


 中には、何も入っていない。


 空っぽ。


 けれど、それでいい気がした。


 閉じて、元の場所に戻す。


 その動きも、自然だった。


 モチオは、小さく息を吐く。


 さっきよりも、この場所に関わっている感じがする。


 ただ見ているだけではなく、

 少しだけ触れて、確かめている。


 それが、この店で許されていることだった。


 カリーナは、何も言わない。


 でも、その沈黙は、変わらずやわらかい。


 モチオがどうするかを、そのまま見守っている。


 モチオは、また別の雑貨に目を向ける。


 今度は、迷わずに手を伸ばす。


 触れて、感じて、少しだけ考える。


 その繰り返しが、自然に続いていく。


(……ここ、いいな)


 また、小さく思う。


 見るだけでもいい。

 触れてもいい。


 何かを選ばなくてもいい。


 それでも、この時間はちゃんとある。


 モチオは、そのことを、少しずつ理解していた。


 この場所は、ただ“ある”だけじゃない。


 少しだけ関わることができる場所。


 そして、その関わり方も、やわらかく許されている。


 モチオは、手を止めて、店の中を見渡す。


 さっきまでよりも、ほんの少しだけ近くなった景色。


 その中で、自分も、少しだけそこに含まれている。


 そんな感覚が、静かに芽生えていた。

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