表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メモリー・リコンストラクター 〜後悔修復の世界で〜  作者: 空腹原夢路


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/21

【第12話】ユキとの関係

光が収まると、そこは見覚えのある廊下だった。


中学校の廊下。放課後の静けさ。窓から差し込む夕日が、床に長い影を作っている。


体が、中学三年生になっていた。制服の感触。少し重いカバン。


視界の端に、ホログラムが浮かんだ。


《ステージ:ユキとの関係》

《目標:向き合えなかった後悔と、ちゃんと向き合ってください》


(この頃か)


文化祭が終わって、ユキと付き合い始めたばかりの頃だった。


俺の体が、廊下を歩いていく。


教室の前を通りかかると、中からユキが出てきた。


「あ、未来くん」


ユキが、笑った。


「帰り、一緒でもいい?」


「……ああ」


二人で並んで、廊下を歩いた。


嬉しかった。本当に嬉しかった。


だけど同時に、ずっと胸の奥に何かが引っかかっていた。


ケンタの顔が、頭をよぎった。


あいつは今、どんな気持ちでいるんだろう。教室で俺とユキを見かけた時、どんな顔をするんだろう。


「最近、なんか元気ない気がして」


ユキが、ふと言った。


「え?」


「ちゃんと眠れてる?なんか、ぼーっとしてることが多い気がして」


「……別に、普通だよ」


「そう?」


ユキが、少し首を傾げた。


「なんか気になることがあったら、話してね」


「うん」


だけど、話せなかった。


ケンタへの罪悪感を、ユキに話すことができなかった。話したところで、何になるんだという気持ちもあった。


そうして、俺はまたはぐらかした。


光と共に場面が動いた。


それから数週間後。昼休みの教室だった。


ユキが、俺の席に来た。


「ねえ、今日の帰り、時間ある?」


「……ごめん、今日はちょっと」


「そっか」


ユキが、少しだけ表情を曇らせた。


「最近、あんまり一緒にいられてないね」


「忙しくて」


「うん……」


ユキは、それ以上何も言わなかった。


俺も、それ以上何も言わなかった。


ユキが自分の席に戻っていくのを、俺は見送った。


(ごめん)


心の中でだけ、謝った。


声には出なかった。出せなかった。


場面が、また動いた。


放課後の教室。ほとんどの生徒が帰った後だった。


俺が荷物をまとめていると、廊下の向こうにユキの姿が見えた。


そして、その隣に。


ケンタがいた。


二人が、何かを話している。ユキが何かを言って、ケンタが頷いている。ケンタの表情は、いつもの明るい笑顔じゃなかった。真剣な顔で、ユキの話を聞いていた。


俺の体が、固まった。


(やっぱり)


頭の中で、何かがぱちんと弾けた。


そうか。そういうことか。


俺の体が、廊下とは逆の方向へ向かった。二人に気づかれないように、静かに教室を出た。


それから、連絡の頻度が減った。


ユキからメッセージが来ても、返信が遅くなった。会おうと言われても、理由をつけて断るようになった。


ユキが何かを察したのか、向こうからの連絡も少なくなっていった。


そうして、二人の間の時間が、ゆっくりと、静かに、消えていった。



場面が強制的に戻り、廊下の向こうで話しているユキとケンタの姿が見える。


声をかけろってことか?


ユキに、何か言えるか。


俺は、ユキの方へ歩き出した。


「ユキ」


ユキが振り向いた。


その瞬間、ケンタの姿が消えた。記憶の中の、ユキだけが残った。


「……未来くん」


「俺、ちゃんと向き合えてなかった。ごめん」


ユキが、俺を見た。


いつもの柔らかい目じゃなかった。何かを、ずっと堪えていたような目だった。


「なんで」


「え?」


「なんで、あなたは私を見ようとしなかったの」


その言葉が、静かに、だけど真っ直ぐに刺さった。


「俺は……ケンタへの罪悪感があって」


「それは、わかってた」


「わかって……」


「わかってたよ。ケンタくんのことを気にしてるのは。だから私も、強く言えなかった」


ユキの声は、怒っていなかった。


だけど、その分だけ、重かった。


「それでも」


ユキが、続けた。


「私は未来くんと話したかった。未来くんに、ちゃんと見てほしかった。でも未来くんはいつも、勝手に決めつけて、私のことを見てくれなかった」


「……ごめん」


「ごめんじゃなくて」


ユキの目が、真剣になった。


「なんであなたは、私を見ようとしなかったの。ちゃんと答えてほしい」


言葉が、出なかった。


ケンタへの罪悪感があったから。自分を責めていたから。向き合うのが怖かったから。


全部、本当のことだった。でもそれは、ユキへの答えじゃなかった。


ユキが求めていたのは、言い訳じゃなかった。


俺がなぜ、ユキではなく自分の罪悪感と向き合い続けていたのか。その答えだった。


「……わからない」


正直に言った。


「わからない、か」


ユキが、小さく息を吐いた。


「それが、一番つらかったよ」


その時、ユキの輪郭が揺れた。


影になっていく。


ユキの形をした影が、俺の前に立っていた。


【後悔のかけら——見ようとしなかった日々】


手のひらに、光を集めようとした。


集まらなかった。


「なんで……」


『あなたは私を見ていなかった』


影が、ユキの声で言った。


『あなたはいつも中途半端』


「違う、俺は」


『ケンタくんのことばかり考えて、私のことは見ていなかった』


「……っ」


否定できなかった。


ユキと一緒にいた時間、俺はどれだけユキを見ていたのか。ユキが何を考えていたのか、何を感じていたのか、ちゃんと聞いたことがあったか。


なかった。


ずっと、自分の罪悪感の中にいた。


光が、消えた。


《修復失敗》

《現在の修復率:85%(変動なし)》


メモリーシティに戻ると、夜の空気だった。


広場のベンチに腰を落とす。


「……ダメだった」


めもりんが、黙って隣に浮かんでいた。


「ユキに、なんで私を見ようとしなかったのかって聞かれた。答えられなかった」


「うん」


「ケンタへの罪悪感があったのは本当だ。でも、それだけじゃない気がする。俺、ユキのことをちゃんと……見ていなかったのかもしれない」


「うん」


「ユキとケンタが話しているのを見た時も、勝手に結論を出した。ユキの気持ちを、一度も確認しなかった」


めもりんが、静かに頷いた。


「……ねえ、未来くん」


「なんだ」


「ユキちゃんがケンタくんに話していたこと、実は知ってるんじゃないかな」


「え?」


「記憶の中に、あるはずだよ。ただ、認めたくなかっただけで」


俺は、めもりんを見た。


「封印してたのか、俺が」


「うん。向き合うのが怖かったから」


俺は、空を見上げた。


メモリーシティの夜空が、静かに広がっていた。


遠くで、あの音がまだ聞こえていた。


ピ、ピ、ピ……。


「……もう一度、行く」


俺は、パネルに手を伸ばした。


【ユキとの関係】(難易度★★★)《再挑戦》


視界が、白く染まっていく。


光が、俺を包んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ