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――件の小学校が隣接する通学路に辿り着いた。
切り裂き女らしきあやかしはどこにもいない。
代わりにイケメンあやかし二人が楪葉京と何やらコソコソと喋っていた。
一人は《《過去に会ったことがありそうな》》蛇のあやかしで、一人は全く知らない狗のあやかし。
二人とも若い男だった。身長は殆ど京と変わらない。
あやかしの話って長いのか、10分くらいはずっと喋っていた。
音々ちゃんと私と咲倉は立ち尽くして、終わるのを待っているだけ。
長い間待っていると段々肌寒くなってきた。京の術である火鳥の効果が薄まってきたのかもしれない。
「――ちは、少女」
少女!? 新しいパターンか……。
しかもなんで、『こんにちは』の『ちは』だけ抜き取ったの??
そう宣うのは狗のあやかしだった。
「「「こんにちは」」」
「初めまして。狗のあやかし――狗神と申します。人を騙して不幸にさせるのが趣味です。妖狐みたいに優しくないので、無闇に関わらないほうがいいよ?」
人を騙して不幸にさせるのが趣味!?
やばい奴じゃん…………。
それに楪葉さんはあれで優しいの?
これから関わろうとしてるのに、関わらないほうがいい、だなんて普通言うかね。
このあやかし、ツッコミどころが多すぎてツッコミが追いつかないんだけど。
「狗神さんはどうして『人間』という呼称じゃなくて、『少女』って言うんですか?」
「俺は『女』とか『男』とか『人間』が嫌いなんだ。現世のあらゆる生き物全てが少女になればいいと思っている……」
「ごめんな、こいつロリコンなんだ」
人を騙して不幸にさせるのが趣味で尚且つロリコン!?!?
めっっっちゃやばい奴じゃん!!
「狗神さんっていま憑いてる少女?とかっているんですか?」
もしいるのなら、その『少女』とやらを守る必要がある、と思い聞いてみた。
「俺が憑いた奴は俺が憑いてから一週間もしないうちにみんな謎の死を遂げている。なんでなんだろうな」
「それは狗神さんのせいだと思います! もう二度と少女?に憑かないとお約束して下さい!」
「それじゃあこれからは少女の実家の和菓子に憑くよ。妖狐から聞いたぞ。少女の家である和菓子屋の和菓子は美味しいんだってな。今度、食べさせてくれよ」
あやかしってみんな、和菓子が好きなの!?
それと和菓子に憑くって何!?
狗神さんが憑いた和菓子、なんか不味そう……。
「――俺の話はもういいから。夜刀神」
今度は蛇のあやかしに話が振られた。
「《《初めまして》》。僕は夜刀神。年齢は妖狐より四つ年上だ。話すこと無いから話すけど僕がいると妖狐の様子がおかしくなるんだ。人間たちはどうしてか、分かるかい?」
京より四つ年上ということは……29歳ってことか。
「様子がおかしくなるのはお前がここにいるからだよ」
京は夜刀神に対して鋭く睨む。
「ほらそうやって僕を睨む。酷いと思わない?」
「楪葉さん。いくらなんでも夜刀神さんに失礼です!」
私が口を挟むが、京は言い返してこない。
「ホントに覚えてないんだ……」
――そう呟くだけだった。
実際は夜刀神と私たちは『初めまして』ではない。彼はあの時、咲倉の御屋敷を守っていて、私たちが近づこうとしたら攻撃してきた。
彼は私たちにとって《《敵》》なはずなのだ。でもどうして、そんな彼がいまここに……?
「――夜刀神。ちょっと来い」
夜刀神さんは京に連れられて遠くのほうに行ってしまった。
あやかしは足も透けていて、ほぼ浮いてるに等しい。その為、動きが速い。
当然ながら、私が二人の跡を追うことは不可能だった。
「……夜刀神。何故お前がここにいる」
「依頼を受けたからさ。先に言っておくが、僕は君たちの味方でも敵でもない。あくまで中立の立場だ」
――夜刀神の話によると上の者に咲倉の御屋敷の警護を依頼され、任務遂行していたが、妖狐に倒され、御屋敷全体にかけられていた呪いも全て解呪された。その後、用済みとなった夜刀神は捨て駒のように捨てられたらしい。
そんな時、『切り裂き女を探す』という任務を遂行中の狗神がその依頼を夜刀神に持ちかけたそうだ。要するに狗神に誘われた、と言いたいのだろう。
「とにかく協力するからさ。そんな顔しないでくれたまえ」
「……まあいい。戻るぞ」
――しばらくすると、夜刀神さんと楪葉さんが帰ってきた。
二人が居ない間に狗神さんから凡その話は聞いた。女子三人は狗神さんの話をうんうん、と頷きながら聞いていた。
「楪葉さん! さっきここに切り裂き女が出たって本当ですか!?」
「……そうだ」
「《《少女》》はまだそう遠くには行っていない。少女をひたすら歩かせれば自然と寄ってくるだろう」
狗神さんの口から出た、「少女」という言葉。まさか――。嫌な予感がした。
「狗神さん。一応、お聞きしますがその《《少女》》って誰を指しているんですか?」
「切り裂き女に決まってるだろ」
「狗神さんにとって切り裂き女もロリなんですか!?」
「あれはロリだろ」
「いやいや、切り裂き女はただのおぞましい妖怪でしょう! どこからどう見ても!!」
「――確かに狗神の気持ちも分かるな。切り裂き女の髪は艶々で綺麗に整えられているし、あの華奢な体躯、色白な手足……普通に美人だよな。わかるわかる」
「夜刀神さんまで何言ってるんですか!!」
誰かツッコミ役代わって。疲れた。
それはそうとてロリ……こほん、少女を探すのが得意な狗神さん曰く、切り裂き女は割と近くに潜んでいるらしい。
でも一つ、疑問が残る。
何故ここだけ他の場所より出没しやすいのか――。
それをあやかし達に聞くとこんな答えが返ってきた。
「切り裂き女にとってこの場所はきっと大事な場所なんだろう」
「事故に遭ったとか刺されたとか、《《切り裂き女が死んだ場所》》の可能性は極めて高い」
「執着してんだろ、この場所を」
あやかしってなんでこんなに頭が良いんだろう……。惚れちゃうじゃん。
みんなの答えを聞いてちょっと納得した。
でもこれから心霊スポットを咲倉に歩かせるのは、不憫でしかなかった。
***
――あやかしが一箇所に集中していたら、来るものも来ないのであやかし3体はそれぞれに捌けた。
楪葉さんは私と一緒。音々ちゃんは狗神さんと夜刀神さんのほうへ行ってしまった。
私はスマホの設定を連写モードに切り替える。
あくまで本日の目的は切り裂き女の写真目的。切り裂き女を倒したり、成仏させたりはしない。狗神さんにさっき聞いたら、切り裂き女は逃げ足が速く強いから、妖狐、夜刀神、狗神だけじゃ恐らく倒せない、と言われた。
「――咲倉、歩いていいぞ」
「分かった」
――切り裂き女が現れたのは三十分以上が経過、咲倉が同じ道を十往復くらいしてからのことだった。
「来ましたっ!」
遠くから微かに聞こえる音々ちゃんの声。
その声を夜刀神さんと狗神さんが拾い、すぐに京まで伝播したのか、気づいた時には「叶」と名を呼ばれ、肩を叩かれていた。
――切り裂き女が咲倉を頭から侵食していく。なかなかにグロい絵面。
私はそれをスマホのカメラに収めなきゃいけないのに――。
あれ? 連写が出来ない……というか、スマホがフリーズしてる。
「楪葉さん!」
助けを求めるが段々と周りの音が遠ざかっていくように感じる。何も考えられない。
連写が出来ないのは単なるスマホの不具合だと私は思っていたが、実際は違う。
《《辺り一帯に漂う瘴気が》》人を、物をおかしくさせているのだ。
「――呪縛」
「――破断」
侵食されていく咲倉を放置するわけにもいかないので、夜刀神と狗神が術を使って咲倉の負担を最小限に抑える。
術の効果なのか、切り裂き女は時折うめき声を上げていた。
だが、咲倉の身体から頑なに離れようとはしない。
――と、その時後ろから誰かの走る足音が聞こえてきた。
「待て! 切り裂き女!!」
その叫び声を聞き、あれだけ咲倉の身体から離れようとしなかった切り裂き女が我に返ったかのように咲倉の身体から離れていった。咲倉に纏わりついていた、白い帯をスルスル、と解いて。
切り裂き女とその《《誰か》》は音々ちゃんたちがいるほうへ向かっていったが、当然捕まえることも出来ず、何処かへ消えていった。
――カシャ。
今更ながら、カメラが作動した。
――え、なんで……? なんで今頃?
なんでいまになってスマホの不具合が解消されたんだろう……? それとも、一時的に直っただけ?
そう私は純粋に思うが、実際は『切り裂き女』という邪悪なあやかしがいなくなったことで、ここ一帯に漂っていた瘴気が薄れただけなのだ。瘴気が薄まると、人も、物も正常に動くようになる。だから、先ほどまで瘴気に囚われていたスマホが正常に動き出した。
いま撮れた写真を確認しにフォトフォルダを開く。最後に撮った写真をタップすると――――《《切り裂き女が写っていた》》。残像だけど。
――青白く光る、光。その光に包まれた、人間のような身体。人間のようだけど人間じゃない。
あまりにもブレすぎてて、切り裂き女の髪の色が黒髪に視えなくなってしまっている。
ただの光にしか見えない。
ただの光にしか見えないその一枚を楪葉さんに見せようと彼を呼んだが、あいにく彼は電話中だった。
電話が終わるまで、音々ちゃんたちと雑談する。咲倉の治癒は主に夜刀神さんがやってくれていた。狗神さんの術は攻撃術と呪術しかないらしく、治癒術は持ち合わせていないらしい。
――楪葉さんの電話が終わり、再び彼に訊ねる。
「楪葉さん。気になってましたけど、さっきから誰と電話してるんですか?」
「――紙島涙。俺と同じ妖狐であやかしを追跡出来るあやかしだ」
「なんかゲシュタルト崩壊しそうですね……」
名前なんて覚えられなかった。
その後に続くセリフの理解が追いつかなくて。
なんで私は『妖狐』というと、すぐに京を思い浮かべてしまうのだろう。妖狐なんて幽世に山ほどいるはずなのに。
でも紙島涙に会いたいと思った。興味が湧いた。
いや、彼は《《さっきまでこの場所にいた》》のかもしれない。
私が気づかないだけで――。
このエピソードで第二章[前編]が完結します。




