13
あれは確か夏の頃。
期末テストの補習を終えた咲倉は放課後、友達の海藤なぎりと図書室を訪れていた。
なんの変哲もない図書室。いつもと変わらない図書室。
でも時間が経つにつれ、徐々に図書室の雰囲気は《《変わっていった》》。
「――咲倉、寝てるの?」
そう、なぎりは問いかける。
「あとちょっとだけ」
「もう! 本読んで寝落ちするとか漫画の世界じゃないんだから」
なぎりは呆れる。
でも咲倉の睡魔が親友の声に勝ってしまい――彼女は完全に寝てしまった。
「先、帰るね。咲倉」
――咲倉が目を覚ましたのは空が夕焼け色に染まる頃。つまり、夕方だった。
あれから三時間以上が経過している。図書室に来たのは12時くらいだったから、結構な時間寝ていたことになる。
なぎりはそんなに長時間待ってくれるほど、お人好しじゃない。
そもそも待つくらいなら、友達の為を思ってとっくに起こしているだろう。
だから、なぎりは《《この図書室にいるはずがない》》。
なのに。図書室のカウンターの奥にいる、なぎりに似た影は誰だろう……。なぎりって図書委員だったっけ?
図書室に来たのに、本を一冊も借りないのは申し訳ない気がして、咲倉はカウンターに向かった。
「あの、この本借りたいです」
「いいよ」
そう図書委員は言うが、一向に貸し出し処理をしない。
「あ、なぎり……? 借りたいのですが……」
「……栞」
「栞?」
「栞が欲しいの」
「いいですよ」
借りる本の栞が無くなるのは不便だ。だから、告げてから少し後悔した。
けれど、彼女の声色から伝わる必死さに気圧されている自分がいた。
なぎりに似た少女の表情は窺えない。だって、黒に包まれているから。
「そうじゃなくて。……もっともっと……栞が欲しいの。七夕に使う…………短冊。これは作戦……神々の……命…………人間の……命」
「……ん?」
もう既に異変には気づいている咲倉だったが、頭が上手く回らなかった。逃げることも出来ないし、何も出来ない。
咲倉は図書委員、否、なぎり、否――切り裂き女に頼まれた通り、図書室にある全ての本から栞を抜き取り、切り裂き女に渡した。
「ありがとう…………人間よ。この事は誰にも口外するな。いや、その必要は無いか。人間の記憶を抹消してやる」
咲倉の額に彼女が手を翳すと咲倉の意識は一瞬で無くなった。
咲倉はいつの間にか図書室のカウンター前で倒れていた。
その一部始終を藤白音々は見ていた。でも、音々は何もせず、《《逃げた》》。
怖かったから?
いや、見ていたことが妖怪にバレたら後々《のちのち》面倒なことになるから。
自分まで呪われてしまったら、栞事件を解決する人がいなくなってしまう。
それは避けたい。
だから、逃げた。
次に倒れている咲倉に気づいたのは警備員。けど、どんなに警備員が揺さぶっても咲倉の意識は一向に回復しない。
後日、彼女は自宅のベッドで目覚め、あの時の記憶も無くし、友達の名前も言えなくなっていた。
気持ちも鬱っぽくなり、ご飯も食べれない日々が続いた。
寝れはするけど、見る夢は全部悪夢。
学校にも行けない。
――彼女は部屋から出ることさえ、許されなかった。
でも、もうじき助け舟がやってくる。




