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イケメン妖狐に憑かれて困っています  作者: 白紅魔
第二章

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 昼下がりの学校の屋上で。

 藤白音々は私に呼び出されていた。


 秋の屋上は秋の匂いがして、風でサーッと枯れ葉が舞う音が聞こえてくる。


 音々は後ろで手を組み、少し昔のことを思い出していた。


 黄昏たそがれる彼女はうれいを帯びた目をしていて、切ない。


「まだかな……」


 そう呟くと同時、屋上の扉が開かれた――。



 ***


 ――1時間前。

 三時間目の授業が終わった後のこと。


「君は藤白をちゃんと呼び出したんだよな?」


 そう問う声は私に憑いてるあやかし――京のものだ。


「呼び出した、というか机にメモをしのばせておきました」

「はああああ?」


 だって、しょうがないじゃん。恥ずかしいんだもん。

 由那ゆなと一緒なら分かるけど、ひとりで一年生の教室に行くのは緊張する。


「前回は俺が行ったから今回は叶の番だぞ」

「分かってます……分かってますけど…………」


 私は引っ込み思案で恥ずかしがり屋だ。大人しい女の子だ。

 京みたいにずんずん突き進んでいく度胸は無い。

 注目されるとすぐ、どこかの穴に入りたくなる。

 行けるなら、彼に行ってもらいたいが順番というものは譲れないらしい。ホント、変な所で頑固なんだから。


「そのメモに藤白が気づいてくれなかったら、どうするんだよ」

「その時はその時で」

「せっかく二人で神社行ったのにか?」

「京さんが笑い上戸なのは意外でした。可愛かったです」

「てめええ……!」


 今度は京が恥ずかしくなる番だったらしい。京は羞恥しゅうちのあまり、どんどん小さくなって……。穴に――は入らなかったが、小さくなってしまった。


 え!? まじで小さくなってるし。

 いや、どうやって元に戻るの?


 ミニチュア楪葉さんとか可愛すぎてやばいんだけど。小狐かよ。


「楪葉さん、まじで小さくならないで下さい。何やってるんですか」

「術を使った。かなり体力消耗する術を」

「それ、こんな所で使っていい術じゃありませんよね? いい加減にして下さい」


 ――五分経過。

 依然として京のサイズは変わらない。これから音々に会いに行くというのに焦りとかは無いのだろうか。


「叩けば直りますかね」

「叩くなよ」


 ボスボスボス。ぺしぺし。


「叩くなよ。痛いだろ」


 ――直らない。


「これから音々ちゃんと会うんですよ? その姿でいいんですか?」

「元に戻らなくなっちまった……」

「なにやってるんですか」


 アホらしい。

 ちなみに術の効果が切れるまで、一日は掛かるらしい。てことは、あと一日はこの可愛らしいお姿の楪葉京をでられるってことか。


「音々ちゃんに『かわいいー!』って言われて抱きつかれて頬ずりされても知りませんよ」

「それは嫌だな。……叶だったらいいんだけど」

「何か言いました?」

「いや、なんでも」



 ***


 屋上で音々は二人を待っていた。


「まだかな……」


 キイイィ――


 扉の向こうで話し声が聞こえる。


「楪葉さんが先行って下さいよ」

「馬鹿。俺が行ったら不審者だと思われる」

「じゃあ同時に出ましょう」


 しばらくして――。


「叶先輩! ……と…………楪葉さんの弟さん? それか、お子さん……?」


 音々と京は目を合わせる。京は目を点にさせている。


「楪葉京だ。見ての通り」


 堂々と胸を張る京。恥じらいや焦りは置いてきてしまったらしい。完全に開き直っている。


「かわいい……! 私、弟欲しかったんですよね」

「おい、聞いているのか、藤白。俺は楪葉京の弟じゃない」

「叶先輩はあやかしと仲、深めすぎです。キスとかしたら、人間じゃいられなくなるのに、子どもだなんて……早すぎません?」

「おい、待て。君は何か誤解している」

「うん。してると私も思う」

「あ! ご、ごめんなさい。叶先輩と楪葉京さんの子どもなわけ、ありませんよね。失礼しました」


 誤解が早いうちに解けてよかった……。


「――じゃあ、あなたは一体誰なのですか?」

「楪葉京だとさっきからそう言っているだろ」


 …………。


「かわいいです」


 セリフと同時、音々は彼に飛びついた。


「げ」


「んふふふんふ」


 顔を彼のもふもふにこすりつける音々。両手でぎゅっと抱きしめ、狐耳をむ。


「んんんんん」

「やめてくれ」


 本気で彼が嫌がったところで、もふもふタイムは終了した。


「ごめんなさい、人のパートナーに。こんなことして。でも、可愛かったからつい……」

「いいよ。音々ちゃん。楪葉さんの自業自得だから」

「違う! 叶が悪いんだ。恥ずかしくなるようなことをしてきたから」

「え――」


 あ、また誤解、始まった?


 みるみる顔を赤くする音々。ついには顔を手で覆ってしまう。


「違うよ、音々ちゃん。私が過去の彼の失態を掘り返したことで、恥ずかしくなったのか体力消耗する大がかりな術をこんなところで彼が使っちゃったの。アホらしいでしょ」

「え、それホントですか」

「ホント」


 呆れたまなざしを女子ふたりは京に向ける。さほど反省はしていないのか、やはり開き直っている。


「かわいいので許しましょう」

「そうだね」


「――それで、何故わたしを呼び出したんですか?」

「音々ちゃんに渡したいものがあって……」


 ポケットからお守りをひとつ取り出す。


「これ……」


 出てきたのは『恋愛成就』のお守り。これは音々に渡す用ではない。


「へっ?」

「あ、違う。これじゃない」

「藤白。これだ。カバンとかにつけるといい」

「楪葉さん! 私が渡したかったのに。はっ、さてはすり替えましたね?」

「すり替えてない。いつもの君のドジだろう」

「うう……」


「――でも、なんで『悪霊退散』のお守りを私なんかに?」


 怪訝そうに俯く音々。


契約者パートナーが不在の視える者は狙われやすい、と前に言っただろ。神様曰く、悪いあやかしが藤白の近くに2体いるらしい。だから一応、猫神神社でお守り貰ってきた」

「……! ありがとうございます」


 早速、彼女は学生カバンに『悪霊退散』のお守りをつけた。


 何故、私が『恋愛成就』のお守りを持っているのか、までは深く踏み込んでこなかった。きっと薄々勘づいているのだろう。



 昼休みがまもなく終わる。予鈴チャイムが鳴る。


「おーい、叶、行くぞ」

「叶先輩、授業始まっちゃいますよ」


 ここで音々ちゃんとはさよなら――するはずだった。


 でも何か言い忘れたことがある。まだ話足りないことがある。もっと音々ちゃんと仲良くなりたい。お守りをあげる、とかそういうのじゃなくて。ちゃんと友達らしいことがしたい。


「あの、連絡先交換しない?」

「いまじゃなきゃ、ダメですか?」

「あ……放課後でもいいよ。ごめんね」

「はい。よろこんで」


 こうして放課後、昇降口で待ち合わせの約束をした。ついでに一緒に帰ることにもなった。



 授業中――。

 この時間は現代文をやっていた。


 あの黒板に書かれた文章、全部板書(ばんしょ)するとかめんど。もう既に指、めっちゃ痛いんですけど。あー、目がしょぼしょぼしてきた……。


 寝るか。


(じー)


 何で寝ようとすると、いつも京はにらんでくるわけ?


「――藤白は危険だし、一石二鳥かもしれねーな」


「ぶふっ!」

「桜戸さん?」


 京のせいで劣等生の私の評価が更に下がった。


「集中して下さい」

「はい、すみません」


 いきなり音々ちゃんが危険、とか言わないでくれる? びっくりするでしょ。

 京はいつも何の前触れもなく、突飛とっぴなことを言ってくるんだから。


 しかももっとマシな言い方、無いわけ?

「藤白は狙われてるわけだし」とかでもよくない? まるで音々ちゃんが危ない人、みたいじゃん。


 授業中は喋れない為、心の中で毒づく。


 そうやって、京と敵対してるといつの間にか授業は終わっていた。


 ――昇降口に着くと、既に音々ちゃんはそこにいた。


「お疲れ様です、叶先輩。帰りましょうか」

「お疲れー、音々ちゃん」

「あれ? 俺の存在、忘れてない?」

「楪葉さんに『お疲れ様』を言う意味が分からないです」

「俺は君たちや学校を悪いあやかしから守る役目を果たしているのに……」

「「何を言っているのかさっぱり」」

「ひどくね?」


 私と音々は京のもふもふな頭を撫でる。

 さっきよりちょっとは大きくなった気がするが、まだ子どもサイズだ。かわいくて愛着が湧く。


「「かわいい」」


 ナデナデ。


「俺は『お疲れ様』を言われたいのであって、『かわいい』と言われたいわけじゃねー」

「ミニチュア楪葉さんになってるの、忘れてました?」

「ちょっとな…………」


「――あ、君たちの本題、連絡先交換じゃなかったのか?」


「「そうでした」」


 邪魔者は消える、とでもいうように京は影を薄くする。空気とす。そういう妖術も使えるらしい。

 影を薄くする妖術は割と簡単らしく、身体への負担も少ないらしい。


 さて、彼もいなくなったところで――。


「LIMOでいいんだよね?」

「はい。お願いします」

「QRコードで読み取って……」

「私、やり方知ってます」


 もう何も言うことはなさそうだ。音々ちゃんは友達も沢山いるらしい。


 無事、友達登録完了。


「叶先輩のアイコンの猫ちゃん、かわいいですね」

「あーこれ? アズキっていうの。うちで飼ってる猫。かわいいでしょ? 今度家に遊びに来た時、触らせてあげるよ」

「ありがとうございます。かわいいです」


 音々のアイコンは桔梗ききょうだった。雰囲気とは似合っているけど、少し意外だった。本とか栞とか好きなモノを使用するのかと思っていたから。

 でも、音々ちゃんのことはまだ少ししか知らない。もしかしたら、桔梗が好きな花なのかもしれない。そう思って聞いてみると――


「――いえ、当たり障りの無いアイコンにしたかったので」

「そっか。でも、オシャレで良いと思うよ」


 そう告げると彼女は俯いてしまった。触れてはいけない《《何か》》がありそうだ。


「それじゃあ早速、スタンプの送り合いしよっか」

「ですね」


 音々ちゃんはLIMOスタンプ廃課金者のようでありとあらゆるスタンプを沢山送ってきた。


「沢山持ってるね。『こんにちは』だけでよかったのに」

「ええ。月10万は余裕です♪」

「買い過ぎだよ!」


 気に入った、うさぎの『よろしく』スタンプ以外は全部纏めて削除した。これは音々ちゃんには内緒。


「これからも沢山送ってね!」

「スタンプをですか?」

「違うよ、メッセージをだよ」

「うふふ」

「これからもよろしくね、音々ちゃん」

「こちらこそ、です……」


 スマホを制服のポケットにしまった。閉じている今も歩数計の数値は上昇し続けている。この前は奥宮おくみやまで行った為、気づけば凄い数値になっていた。


 て、あれ? 誰かの存在を忘れているような。


「――藤白。咲倉の家が何処にあるか、知ってるか?」

「うわあ!! びっくりした……!」


 ちなみにリアクションしたのは音々ではなく、私である。


「驚きすぎだろ。俺を何だと思ってるんだ」

「空気」


 即答。


「傷つく。それで藤白――」

「――咲倉の家ならこの角を右に曲がってすぐの所にありますよ」

「マジか」


 そして本当に咲倉の家の前まで来てしまった。


 表札には『岩田』の文字。

 へー、咲倉さんってフルネームで岩田咲倉いわたさくらさんっていうんだ。


 でも、ここにいるとなんか――。

 気分が悪くなってくるというか、何かにつかまってないと立っていられなくなるような、そんな感覚に襲われる。

 隣にいる、音々ちゃんも顔色悪そうにしている。


 この家からとんでもないほどの瘴気しょうきが漂っている。


 《《ここにいてはいけない》》。


 本能がそう、警鐘けいしょうを鳴らしている。


 黒に近い、紫色のもやが家の周りを覆っていた。


 中にいる咲倉はきっと――。この先は言わなくても分かるだろう。

 咲倉の親も少なからず、影響を受けている。


「帰るか」


 ボソッと京が呟いた。


 コクリ、と二人は頷く。


 咲倉の家から離れて、五分以上が経過すると徐々に体調は安定してきた。


「――それで、何故私に咲倉の家の場所を聞いてきたんですか」

「それはね、この前神様に『楪葉さんと一緒に咲倉の様子を見てきてほしい』って言われたの。もしよかったら、音々ちゃんも一緒に行かない? 楪葉さんだけだと心細いし」

「おい」

「うーん。あまり、賛成は出来ませんね……。さっきの感じて分かったでしょう。あの家は《《呪われています》》。もっと強力なあやかしを連れていかないと……」

「俺は強力なあやかしだ」

「だから、楪葉さんクラスのあやかしを三体以上連れていかないと――」

「音々ちゃん。大丈夫。楪葉さんを信じましょう」

「楪葉さんだと心配です。ちっちゃくなっちゃいますし」

「だそうです」

「藤白も結構忌憚(きたん)ないよな」

「えへへ」

「そこ、照れるところか? ドMかよ」


 そうして、週末《《三人で》》咲倉の家に行くことになった。不安しかないけれど。



 ――桜戸家の洗面所にて。

 手を洗いつつ、鏡に映った京を見やる。ミニチュアサイズの楪葉さんなら、本来は背の高さ的に鏡には映らないはずである。なのに……《《映っている》》。

 これが何を意味するのかというと――京が子どもサイズではなくなった、ということだ。


「楪葉、さん……?」

「なんだ?」

「何でミニチュア楪葉さんじゃなくなってるんですかー! 術が切れるまで一日は最低でも掛かる、って言いましたよね?」

「俺も大人になる。もしかすると瘴気に触れたからかもしれねーな」

「まったく」

「ん?」

「家に帰ったら、存分に可愛がろうと思ってたのにー! せっかくの計画が台無しじゃないですか。どうしてくれるんですか」

「俺に言われても……」

「楪葉さんの…………バカぁ!」


 べしべし、と京を叩く。


 桜戸家全体に私の絶叫が木霊こだましていた。



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