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イケメン妖狐に憑かれて困っています  作者: 白紅魔
第二章

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9


 教室のベランダにて。


「はあああぁぁー…………」


 ひとりの少女が盛大に溜息をこぼす。


 秋が深まり、夏の暑さも忘れ、過ごしやすい気温になったから――気が抜けて溜息が出た? いや、違う。


 誰かに面倒事を押し付けられてストレスが溜まって、ストレス発散の為の溜息でもない。


 はたまた隣でたたずむ妖狐に揶揄からかわれてムカついたから出たものでもない。


 理由は他にあるのだ。


「――40.02秒」

「何ですか、それ」

「君の溜息の長さをはかっていたんだ」

「そんなくだらないことしてないで、ちゃんと仕事、して下さい!!」

「んー、暇だったんで」


 手を後ろで組み、飄々《ひょうひょう》と佇むきょう。その表情からは余裕さが窺える。それがまたムカつく。


「――で、何に悩んでるんだ? ひょっとして俺のことか?」

「自意識過剰です」

「あ! 分かった! 来週の中間試験が不安なんだな!」

「分かってるなら、聞かないで下さい」

「え!? まじかよ。正解しちまったよ……」


 どうやら、当てずっぽうだったらしい。そう、何を隠そう私は勉強が苦手なのだ。いつも赤点で。毎回補習受けて。だから、テストなんて無くなってしまえばいいのに、と思う。だけど、無くならないから今こうして悩んでいる。


「やだやだやだぁー。試験なんてやだぁー。はああぁ――」

「――溜息新記録更新しようとしなくていいから」

楪葉ゆずりはさんが代わりに中間テスト受けてくれればいいのに……」

「シャーペンが浮いて、テスト用紙も浮いて……恐らく翌日には学校七不思議殿堂(でんどう)入りしてるだろうな。て、忘れたのか。君と藤白くらいしか俺が視える奴がいないことを」

「楪葉さんの役立たず。ぷい」


 可愛らしい私の仕草に彼は微笑をたたえる。


「そんなことより……もっと…………音々《ねね》ちゃんと仲良くなりたいです……」

「ほう」


 彼は頷く。


「そうだな。藤白ふじしろは記念すべきかのの一人目の友達だもんな」

「……」


 ツッコむのも面倒くさくなって、私は黙った。


「……違うのか?」

「違います。私にだって友達なら沢山います」

「そうか」


「――というわけで、楪葉さん。音々ちゃんがどこのクラスに所属しているか、調べてきてくれませんか?」

「えっ?」


 心底イヤそうな顔をする京。

 でも私からの頼みなら断れない。


「私、勉強頑張るので。お願いします」



 ***


「……とは言われたけど」


 すぐに見つけてしまった。一瞬、目が合った時は気まずかった。そう、音々も《《人ならざる者》》が視えるのだ。


 音々のクラスは一年A組だった。


 ――そんなことより。

 この、胸のざわめきはなんだろう。


(いちゃうな……。男だったら、既に抹殺してるだろうな)


 どうやら京も意外と独占欲が強かったらしい。


 叶に仲良い人が出来るのは喜ばしいことなのに、心からは喜べない。


 叶と二人きりでいられる時間が減るのはつらい。


 叶に音々が一年A組に所属していることを伝えた――。



 ***


 ――私の提案で放課後、京と音々と私の三人で図書室で勉強会を開催することになった。

 京は終始、ゆがんだ表情をしている。


「君って勉強苦手じゃなかったか? 藤白に勉強教えるとかどういう風の吹き回しだよ。まさか……! 君は叶本人じゃなくて、叶の双子の妹!? 俺は双子の妹より叶のほうが好――」

「私、双子の妹なんていません! ちなみに一人っ子です。どうして、頑張ろうとしている私を素直に認めてくれないのですか」


 音々に勉強を教えてあげようとしただけでこのざまだ。絶対、信頼されてない。私だって……勉強くらい教えてあげられるのに……! きっと一年生の範囲なら。《《多分》》。


「私だって……音々ちゃんに勉強、教えてあげられます! ……《《多分》》」

「その『多分』という自信のなさにより、藤白は赤点取るんだろうな。藤白が可哀想だ」

「むー」


 抵抗は無意味に終わり、京は私から顔を逸らす。


 今は一年A組に向かっている最中だ。

 二人とも不機嫌でお互いの顔を見ようとしない。


 ――教室のドアを開ける。

 下校する生徒が多く、人がどんどんけていっている。

 音々は教室の中央でカバンに手を添えて、立ち尽くしていた。私たちと目が合うと瞳を大きく見開いた。


「音々ちゃん!」

「叶先輩! ……と楪葉さん!」


 音々がこちらに近づいてくる。


「音々ちゃん、この後図書室で一緒に勉強しない?」

「いいですけど……。さっき楪葉さんが教室に来た件ってこの為だったりします?」

「うん、そう」

「そうだ。叶にパシリにされててな」

「……」

「ふふ」


 私は無言をつらぬき、音々は微笑む。


「私、音々ちゃんともっと仲良くなりたくて……」

「そう言ってもらえて、嬉しいです。私も叶先輩ともっと仲良くなりたいです」

「それじゃあ、図書室行こっか」

「はい!」



 ***


 図書室で本を読んでいる人は依然としていなかった。しかも、今日は勉強している人も少ない。


 ノートと教科書を開く音々と私。


 いざ、勉強会を開始する。

 でも――徐々に自信が無くなってきた。始まる前は(なんか出来そうな気がする!)って思ってても、現実に直面した瞬間(やっぱ無理)ってなることあるよね。いま、まさにそれ。


 もういっそのこと、カミングアウトしちゃった方が心が軽くなるのではないだろうか。



「……私ね、実はね……勉強が苦手なの」

「は? それなのに私に勉強を……?」

「ほら、言われてやんの」


 私はそうからかう京を睨む。


「多分、高校一年生の範囲なら教えられると思うから……自信無いけど」

「私も自信無くなってきました……」


 隣では「ククク」、「ケラケラ」と馬鹿にする京。他人の滑稽なやりとりがそんなに面白いか。京だって勉強、教えられないくせに。忘れてるくせに。


「藤白が赤点取って補習受ける姿が見たいんだって。他人の不幸は蜜の味っていうもんな」

「違います! 私はただ――」

「――ただ?」


「音々ちゃんと仲良くなれる方法がこれしか思いつかなかったんです」


「叶先輩らしいですね。なんか嬉しいです。で、でも、一緒に遊園地に遊びに行く、とか休み時間にお喋りする、とかもっと色々方法はあるんじゃないですか」

「確かに」

「でも、せっかく図書室まで来たんだし、勉強しようよ」

「そうですね」


 ――30分後。

 窓の外が徐々に暗くなってくる頃。それでも二人は変わらず勉強に集中していた。京は遠くから見守るだけ。


「――過去分詞……現在完了…………なんだっけ。あ! 多分、ここが――だから、ここは――じゃない?」

「うーん。多分、叶先輩が言いたいのはこの前のページの答えであって、ここは――が正しいんじゃないでしょうか」

「あ! そうだね。多分音々ちゃんが正しいよ。ありがとう」

「いえいえ」


(立場逆転してね?)


 そう京は思うが、黙っておく。


 それからも音々が勉強を《《教える》》側で私が不本意ながらも勉強を《《教えてもらっている》》側という構図で勉強会が進行していった。


「はー疲れた。音々ちゃん、頭いいね」

「それほどでも……」

「期末試験の結果、学年何位くらいなの?」

「この前は15位でした」


 !?!?


 え、てことはそんな優等生に勉強嫌いな私が勉強を教えようとしてたってこと!?


 恥ずかしい……。今すぐにでも死に――いやいや、死んじゃダメだ。


 だけど、いくら仲良くなる為とはいえ『勉強を教える』という選択肢を選んだのは間違いだったのだろう。


「そういう叶先輩は学年何位だったんですか?」

「聞かないで。知らない。覚えてない」

「――学年173位だ」

「ふぎゃあああー」


 猫が鳴き叫んでいるような声を出す私。

 彼は透視能力を使って知ったらしいが、極刑きょっけいしょすべきだと思う。今すぐにでも殴り倒したいが音々がいるから我慢する。


「今度は私が勉強、教えてあげましょうか?」

「屈辱……うう…………」


 逡巡しゅんじゅんしながらも最後には頷いた。


「それはそうと、音々ちゃんとより仲良くなれたかな? 勉強会を通して、私的にはもっと音々ちゃんのことが好きになったんだけど」

「はい。私もです。先輩が『勉強が苦手』という新たな一面を知ることが出来て、良かったです。頼りない叶先輩は可愛らしくて、愛着が持てました。私も叶先輩は友達として好きですよ」

「音々ちゃん!?」


 音々はこう、突拍子もなく、忌憚きたんないセリフを放つのだ。京ほど毒舌ではないが、裏表が無い。

 でもそんな音々の笑顔を見るとホッとした。



「――じゃあ夜も近いし、帰るか」

「ですね」


 暗い夜道に三人の影が浮かぶ。三人の足取りはゆっくりでのんびりしている。


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