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サッ、サッ、ビリ、サッ…………。
《《何か》》が切られる音。裂かれる音。破られる音。
暗闇の空間でそんな音が反響する。
床に落ちるのは《《何か》》と血液。
その血液が誰のモノかというと、人ならざる者――切り裂き女――のモノだった。前回の戦闘で傷を負ったのか、はたまた切り裂く時に一緒に皮膚を切ってしまうのか。きっと後者だろう。でも、こんな暗がりだから真相は分からない。
もし、仮に前回の戦闘の時に負った傷なら、不可解なのだ。何故なら、あやかしは再生能力と治癒力を持ち合わせている。だから、戦闘時の傷はもう治ってないとおかしい。
切り裂き女は自分の血を舐める。
彼女はなんともいえない表情をする。美味しいとも美味しくないとも感じていないような、そんな表情。
――切り裂き女は目をほんの少し瞑った。切り裂き女曰く、多少の月明かりさえも眩しいらしい。
「まぶしっ……!」
切り裂き女はカーテンの隙間を完全に閉ざした。これでここはもう真っ暗闇。
《《永遠の》》夜の世界。そう、この空間は夜しか訪れない。お気づきかもしれないが、《《ここは人間が暮らしている世界じゃない》》。冥界と現世の狭間。いま、ここには切り裂き女しかいない。
さっきまで月明かりに照らされていた、光沢のある、長い黒髪。瞳の色は勿論、黒だが、《《白目が無い》》。肌の色も全身、濃い赤紫がかった黒色である。
そんな彼女がどうして咲倉の前に現れることが出来たのか――。あやかしにとって変化は序の口だからだ。
でも、彼女、夕陽の光だけはキツかったらしい。
床に落ちた《《何か》》を踏まないように歩く。そして、彼女は《《何か》》を拾う。
――そう、拾ったそれは人間にとって大事な大事な《《栞》》だった。跡形もなく、栞の形じゃなくなった栞。面影を失った栞。
「この《《作戦》》が成功したら……大御神さまに認めてみらえる……!」
「あはははは。さいこう、さいこう。あははははっ……」
サッ、サッ――。
気分が乗ったのか、さっきよりもテンポよく切り裂いていく。
切り裂き女のいう、作戦が何なのか。それを知るにはまだ早い。
でも、その作戦が恐ろしく、怖く、卑劣で悲惨な作戦だということは身にしみて実感しなければならない。否、京と叶、音々と咲倉は目を背けたくても、恐怖にさらされることになるだろう。




