弁護士先生お見送り後、ちょっかいかけたキャバ嬢に釘を刺す。横からアルカちゃん、さきちゃんが合いの手入れる。博子ちゃんのお客さんは癖強いwww
博子は弁護士先生をお見送りしたあと、さっき先生にちょっかいをかけていた女の子に、
ちょろっと声をかける。
女の子は、さっきのやり取りが思ったより刺さっていたらしく、少しだけへこんだ顔をしている。
軽い冗談のつもりで「私とも遊んでくださいよ」と言っただけやのに、弁護士先生から思った以上に
真正面で返されてしまった。
しかも、美人だけではなびかない、プランが刺さらない、というような話までされてしまったので、
そりゃあ少しは傷つく。
博子は、その様子を見て、少し迷いながらも声をかけた。
「さっきの件やけどさ。」
「はい……」
「先生、ああやって流すというか、真正面に断らはったけど。」
「あれで関係性が変になるまであるからさ。」
女の子は、少し顔を上げる。
「変になる?」
「うん。こっちは軽く言ったつもりでも、はたから見たら“博子の客を横から触られた”って受け取る
可能性もあるし。」
「はい。」
「別に私は怒ってるわけじゃないけど、その辺のところは気をつけてくれたらありがたいわ。」
博子としては、責めたいわけではない。
ただ、弁護士先生みたいな客は、軽く揺さぶったつもりが、機嫌が悪くなる可能性がある。
それを伝えたかっただけである。
けれど女の子は、少し悔しそうに言う。
「博子さんは余裕ですよね。」
「余裕?」
「だって、私がいろいろちょいちょいやっても、先生全然なびかなかったし。」
「なんか、博子さんとの差を思い知らされて、私的には結構心にくるものがあったんです。」
「いやいや。」
「ちょっと悔しいです。」
その言葉に、博子は一瞬返しに困る。
そこで、横で聞いていたアルカちゃんが口を挟む。
「いやいや、それはな。」
「博子ちゃんのお客さんが、一癖も二癖もあったりとか、ちょっと変なお客さん多いのよ。」
「変って。」
博子が思わず笑う。
「変やろ。」
アルカちゃんは即答する。
「だっておかしいやん。」
「何がよ。」
「“お前の最強カード出してくれ”って言って、女の子たち一周させる人とか。」
「それは……まあ。」
「あと、集団で来てさ、女の子たちつけて、ドリンクも出さずに、くるっと
交代させる社長さんとかさ。」
「いたね。」
「普通に考えたら、まあまあ変やで。」
さきちゃんも横から頷く。
「それはそう。」
「博子ちゃんの周り、普通に見えてだいぶ濃い。」
博子は少し戸惑う。
「そんなに?」
「そんなに。」
アルカちゃんは続ける。
「そういう人たちを相手にしてると、やっぱり変な経験値もつくし。」
「変な経験値。」
「うん。普通の営業トークじゃ刺さらん客が多いやん。」
さきちゃんも言う。
「あと、ヒロコちゃんにもあるよ。」
「何が?」
「勢いだけで飲んでる人は多分苦手やと思うしさ。」
「ああ、それはある。」
三人の間に少し笑いが起きる。
でも、話の本筋はわりと真面目である。
アルカちゃんは、へこんでいる女の子に向き直る。
「とりあえずな。」「博子ちゃんのお客さんを、なんかどうこうするのはマジでやめといた方がいい。」
「そんなにですか。」
「取った後も多分やっかいよ。」
「やっかい?」
「うん。満足させるのが大変やと思う。」
博子は少し慌てる。
「いやいや、そんな言い方せんでも。」
「でも事実やん。」
さきちゃんも頷く。
「私らも座組入れてもらってるけど、毎回毎回めちゃ気使うし。」
「そうそう。」
「ただ可愛く横に座ってニコニコしてたらええって感じではない。」
「確かに。」
博子はそこで、ふと思い出したように言う。
「ああ、そういえば、この前のお手当ての話とかしてなかったから、また後で話するわ。」
その一言に、さっきの女の子が目を丸くする。
「え、お手当てまで出てるんですか?」
アルカちゃんが、少し苦笑いする。
「そりゃね。」
「面倒くさいお客さんとか、一癖も二癖もあるお客さんっていうのは、自分を満足させてくれる
女の子がいないっていうことがわかってるから。」
「財布の紐はね、結構緩いのよ。」
「緩いんですか。」
「緩いというか。」
さきちゃんが言い直す。
「価値のあるものにしか出さへんって感じやな。」
「そうそう。」
アルカちゃんも頷く。
「言ったら、十万でも二十万でも、その子の時間は買う。」
「でも、本当につまらんと思うものには、一文も払わん。」
「えぐいですね。」
「謎のえぐい金銭感覚の人とかもいるからさ。」
博子は、少しだけ苦笑いする。
「まあ、そこは本当にありますね。」
「だから、それがいいか悪いかは別やで。」
アルカちゃんは、きちんと釘を刺す。
「たまたま博子ちゃんはそれが当たってるからいいけど。」
「そうじゃない人だってたくさんいるし。」
「お客さんだって、別にそんな厳しい目線でやってる人ばっかりじゃないしさ。」
さきちゃんも続ける。
「だから、博子さんはどっちかって言ったら。」
「うん。」
「お客さんの要求が強すぎるがゆえに、どんどんどんどん要求に応える形になってるから、
ハードル上がっちゃってるんやと思う。」
「それはある。」
「最初から博子ちゃんがすごかったというより、客が変やから、博子ちゃんも変な進化してる。」
「変な進化って。」
博子が笑うと、アルカちゃんも笑う。
「でも、そうやと思うで。」
「お客さんが普通の人やったら、ここまで座組とか麻雀同伴とか、第三ビル放流とか、
札幌分析とかならんやろ。」
「ならんね。」
「だから、真似するにしても、表面だけ真似したら危ない。」
その言葉に、さっきの女の子は少し黙る。
最初は、博子ばかりが客を掴んでいて悔しい、という気持ちが強かった。
けれど、聞いているうちに、どうやら自分が思っていたよりずっと面倒くさい世界らしい、
というのが少し見えてくる。
「じゃあ、私が先生にUSJって言ったのは、やっぱ浅かったですかね。」
女の子がぽつりと言う。
博子は、少し柔らかく返す。
「浅いというより、まだ先生に対して早かったんやと思う。」
「早い。」
「うん。」「USJって、関係性ができてから出すカードやと思う。」
「なるほど。」
「最初は、相手が何を楽しいと思うかを聞く方がいいかもしれん。」
アルカちゃんも頷く。
「“私ここ行きたいです”じゃなくて、“先生ってどういう休日が楽しいんですか?”から入るとかね。」
「それは大事。」
さきちゃんも言う。
「で、その人の返しを聞いてから、じゃあこういうのどうですかって出す。」
女の子は、小さく頷く。
「勉強になります。」
博子は、少し笑う。
「私もまだ全然勉強中やで。」
「嘘や。」
「ほんまに。」
「玉ない玉ない言うてるし。」
「それはほんま。」
そこにみんな少し笑う。
待機スペースの空気は、最初の重さから少しずつ柔らかくなっていた。
博子は最後に、少しだけ真面目な顔で言う。
「まあ、でも、悔しいって思うのは全然ええと思う。」
「私もずっと売れへんかったから、そういう気持ちはあるし。」
「ただ、お客さんを横から触る時は、相手の関係性と空気だけはちゃんと見た方がいい。」
「はい。」
「それだけ気をつけてくれたら、別に怒ってるわけじゃないから。」
女の子は、少しほっとしたように頷く。
「ありがとうございます。」
アルカちゃんが、最後に軽く茶化す。
「まあでも、博子ちゃんのお客さんは取り扱い注意やで。」
「やめてよ。」
「ほんまやん。」
さきちゃんも笑う。
「高単価やけど、癖強い。」
「それ、褒めてる?」
「褒めてる。」
「たぶん。」
博子は、なんとも言えない顔で笑う。
待機スペースの中で、女の子たちは少しずつ自分たちの距離感を確認していく。
誰の客をどう触るのか。何を提案すれば刺さるのか。
美人だけでは足りない客がいること。
でも、全員がそうではないこと。
そんな話をしながら、また夜の店はそれぞれの卓へと戻っていくのだった。




