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トラブルがありながらも博子と弁護士先生との会話がはずみ穏やかなニセットが流れる。先生が黒霧島入れてくれる

女の子が席を外れたあと、少しだけ空気が落ち着く。

さっきまでの、ちょっとした緊張感。

女の子が軽く茶化して、弁護士先生が思ったよりまっすぐ返して、

結果として「美人だけではなびかない」という話まで出てしまった。

それはそれで、博子としては少し申し訳ないような気持ちもある。

博子は、グラスを置いてから、少し柔らかい声で言う。

「でもね、先生。」

「さっきの女の子の言うことにも、一理あるんですよ。」

弁護士先生は、少しだけ首を傾げる。

「一理ですか。」

博子は、ゆっくり続ける。

「なんていうかな。」

「私自身が忙しいから、先生のすべてを受け止めきれてるっていうわけでもないですし。」

「外遊びもね、他の女の子と遊ぶとかも、諸々考えたら、まあいいかもなあとは思うんですよ。」

「なるほど。」

「それこそ、会計士の先生みたいにね。」

そう言うと、弁護士先生は少し苦笑いする。

「いやいや、それはね。」

「面白ければいいですけども。」

「なんて言うんですかね。」

先生は、少し言葉を探す。

「ピンとこないんですよ。」

「ピンとこない。」

「USJとか、空中庭園とか、お寿司屋さんとか。」

「それ自体は悪くないんですけど。」

「うん。」

「僕が今求めてるものとは、ちょっと違う感じがするんです。」

博子は頷きながら聞く。

「じゃあ、百歩譲ってあれですね。」

「同伴の時に、私となんかどっか遊びに行ける、みたいなのはありかもしれませんね。」

「それはありですね。」

博子は、少しだけいたずらっぽく笑う。

「マジックバーとか。」「オカマバーとか。」「熟女キャバクラとか。」

「また変な球出してきますね。」

「その辺の玉、考えてるんで。」

「はい。」

「一緒に調査しに行きませんか?」

弁護士先生は、そこで少しだけ顔を明るくする。

「あ、それはそれでありかもしれませんね。」

「でしょう。」

「それは、博子さんと一緒に行って、あとでああでもないこうでもないって話すのが面白そうです。」

「やっぱりそこなんですね。」

「そこですね。」

先生は、グラスを持ちながら少し真面目に言う。

「でもね。」「こうやって、ヒロコさんが皆さんの話をなぞるように一週間話してくれるのって、

結構整うんですよ。」

「整う。」

「はい。」「僕的には、これだけでも結構面白いなと思ってて。」

博子は、少し黙って先生を見る。

「普段、僕の時は。」「言うたら、ヒロコさんが一週間をずらっと話してくれるじゃないですか。」

「そうですね。」

「それだけでも、いっぱいイベントごとがあるんですよ。皆さん。」

「まあ、ありますね。」

「麻雀同伴とか、東京の社長さんの大阪遠征とか、会計士先生の十三の話とか、

おじいちゃんの話とか。」「それを聞いてるだけでも、すごく勉強になるというか。」

「はい。」

「気づきがあるというか。」

「そんな気がするんです。」

先生は、少し照れたように笑う。

「だから僕的には、それで一応満足はしてるんですよ。」

その言葉に、ヒロコは胸の奥が少し緩む。

「満足できなくなったら。」

先生は続ける。

「その時は、ちょっとまた誘ってくださいよ。」

「わかりました。」

「マジックバーでも、熟女キャバクラでも。」

「オカマバーでも?」

「それは少し勇気いりますけど。」

「先生、そこは行きましょうよ。」

「考えておきます。」

そうやって笑い合ううちに、さっきの少し引っかかった空気は、だいぶほどけていくのだった。

博子としては、穏やかな気持ちになる。

自分が全部を受け止められないことも、先生はわかってくれている。

そのうえで、今は博子の話を聞くことそのものを楽しみにしてくれている。

無理に外へ引っ張らなくてもいい。

必要になったら、その時に一緒に動けばいい。

そういう距離感が、今はちょうどいいのかもしれない。

そうこうしているうちに、二セットほど時間が流れる。

話は、麻雀同伴の続きになったり、東京社長の話に戻ったり、

さっきの女の子の話を少し笑いに変えたりしながら、ゆっくり続いていく。

やがて、弁護士先生がグラスを見ながら言う。

「じゃあ、とりあえず黒霧でも下ろしとこうか。」

「え、いいんですか。」

「今日はなんか、いろいろ話せましたし。」

「ありがとうございます。」

「そんな高いものじゃないですけど。」

「いやいや、十分ありがたいです。」

黒霧のボトルが一本入る。

派手なシャンパンではない。

けれど、こういう形でちゃんと店にも戻してくれるのが、弁護士先生らしいところでございました。

「来週もまた来るんで。」

先生は、軽く笑って言う。

「ありがとうございます。」

「そんなにバカバカ下ろしちゃうわけではないですけど。」

「こうやってゆっくりお話ができて、結構楽しいなと思ってるんです。」

その言葉に、博子は少しだけ目を細める。

「今日みたいな多少のトラブルもね。」

「トラブルでした?」

「まあ、ちょっとしたスパイスです。」

「スパイス。」

「それなりに楽しめるから、ありがたいです。」

博子は、少し笑いながら頭を下げる。

「いやいや、お金払って来てくれてるのに、そこまで言ってもらえるのは、私としては

めっちゃ嬉しいです。」

「ほんまですよ。」

「普通、面倒くさいってなってもおかしくないですから。」

「いや、僕はそれ込みで面白いです。」

弁護士先生は、そう言って穏やかに笑う。

「だからまた、時間空いたら。」

博子は少し姿勢を正す。

「ちょっとお声がけするというか、軽いランチとかも、またちょこちょこ入れていきますんで。」

「よろしくお願いします。」

「今日はちょっと無理ですけどね。」

「今日は無理でしょうね。」

「私、さすがにもう脳みそが限界です。」

「それは休んでください。」

そう言って、二人は少し笑う。

最後に店の外まで見送ると、弁護士先生はいつものように穏やかな顔で手を振る。

「じゃあ、また来週。」

「はい。またお待ちしてます。」

ヒロコは、先生の背中を見送りながら、少しほっとする。

派手ではない。

大きくお金が動くわけでもない。

けれど、こういうふうに毎週話を聞いてくれて、少しずつ店にも戻してくれて、

時々外遊びの話もできる。この関係もまた、ちゃんと大事にせなあかんなと思う。

そんな月曜日の夜やった。

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