博子が店内に入り着替えている間に弁護士先生が他のキャバ嬢にちょっかい出される。弁護士先生が真正面から芽を摘んでしまいぐぬぬとなるキャバ嬢www
店の中に入って、博子が着替えに行っている間。
弁護士先生は、いつものように席に通されて、軽く水割りを作ってもらいながら、
博子が戻ってくるのを待っていた。
そこへ、店の女の子がさらっと一人つく。
「先生、いつもあれですね。」
「はい?」
「博子ちゃんばっかり遊んでるけど、たまには私たちとも遊んでくださいよ。」
そう言って、女の子は少し茶化すように笑うのでございました。
弁護士先生も、最初は軽く笑って返す。
「いやいや、それはね。」
「博子ちゃんが、やっぱいいのよ。」
「またまた。」
女の子は少し身を乗り出す。
「でも博子ちゃん、最近めちゃめちゃ忙しいじゃないですか。」
「それはそうですね。」
「私やったら暇してるし、USJとか行けちゃいますよ。」
「USJですか。」
「あと、最近やったら、いいお寿司屋さんとか。」
「空中庭園でご飯とかも、なんか素敵じゃないですか?」
女の子としては、軽い営業のつもりである。
博子にばかり通っている常連を、ちょっと揺さぶってみよう。
少しでも自分に興味を持ってくれたらいい。
そんな悪気のない、でも少しだけ雑な一言でございました。
ところが、弁護士先生の顔が少し曇る。
「それって。」
「ヒロコちゃんに言うたら、失礼なんじゃないですか?」
女の子は、思ったより真面目に返されて、少し戸惑う。
「いやいや、別にあれですよ。」
「指名替えしてくださいって話じゃなくて。」
「時々遊んでくれたらいいんですよっていう話で。」
「うーん。」
弁護士先生は、グラスを置いて少し考える。
「いや、あのね。」
「はい。」
「正直なところ、そのプランが魅力的じゃないの。」
そのタイミングで、着替えを終えた博子が戻ってくるのでございました。
「先生、何なんですか?」
博子は、空気を見てすぐに気づく。
「誘惑されてるんですか?」
弁護士先生は、少し困ったように笑う。
「まあ、誘惑はされてるけども。」
「ちょっとプランが面白くなかったから、あんまりかなっていうところかな。」
女の子は慌てて手を振る。
「いやいや、別にそんなつもりもなかったんですけど。」
「ちょっといたずら心で。」
ヒロコは苦笑いしながら、横に座る。
ただ、弁護士先生はそこで、少しだけ姿勢を正す。
「いや、ここはもうちゃんと言っとかなあかんなと思って。」
「え、先生、何をですか。」
博子が少し驚く。
弁護士先生は、女の子の方を見る。
怒っているわけではない。
でも、言葉はわりとまっすぐや。
「正直なところ。」
「それって多分、あなたが行きたいところであって、僕が行きたいところじゃないんだよね。」
女の子の顔が、少し固まる。
「USJとか、空中庭園とか、いいお寿司屋さんとか。」
「もちろん、それ自体が悪いわけじゃないです。」
「でも、それを僕に出すには、ちょっと早い。」
「早い?」
「うん。」
弁護士先生は、言葉を選びながら続ける。
「たとえばUSJって、めちゃめちゃ関係性を作らないとしんどいんですよ。」
「そうなんですか?」
「そうです。」
「長時間一緒に歩くし、待ち時間もあるし、テンションも合わせないといけない。」
「そこで、まだ関係性ができてない相手と行くって、こっちからしたら結構リスクなんです。」
女の子は、少し黙る。
「空中庭園も、お寿司屋さんも。」
「僕のためというより、あなたが連れて行ってほしい場所に見える。」
その言葉に、女の子は少しぐぬぬ、という顔になる。
博子は、横で黙って聞いている。
先生がここまで言うのは珍しい。
でも、言っていることはかなり的を射ている。
「博子さんは。」
弁護士先生は、そこで博子の方を少し見る。
「どっちかって言ったら、こっちに気づきをくれるんです。」
「気づき?」
「そう。」
「そんな高くなくても、こっちが『あ、これは面白いな』と思えるところを出してくれる。」
「うん。」
「男性が楽しいと思えるところを、ちゃんとチョイスしてくれるんです。」
博子は少し照れたように目を逸らす。
「先生、持ち上げすぎです。」
「いや、事実です。」
弁護士先生は続ける。
「たとえば、なすの煮浸しと出しまきが美味しい店でもいいんです。」
「麻雀同伴の話でもいい。」
「うん。」
「十三の変なチークタイムの店の話でもいい。」
「それは会計士先生ですけどね。」
「そういう、“何それ”って思える球を投げてくる。」
「それが面白いんです。」
女の子は、少し口を尖らせる。
「でも、私も別に考えてないわけじゃないですよ。」
「もちろん。」
弁護士先生は、そこは否定しない。
「ただ、今の提案は、僕には刺さらなかった。」
「別に、ルックスは確かに美人だと思います。」
女の子は一瞬だけ表情を戻す。
「でも。」
先生はそこで軽く言い切る。
「美人だけでは、なかなかなびかないんだよ。」
その一言に、女の子は完全にぐぬぬ、となる。
「そんなにはっきり言います?」
「ごめんなさい。」「でも、言わないとわからないかなと思って。」
「先生、なかなか厳しいですね。」
博子が横から少し笑う。
「厳しいというか。」
先生は苦笑いする。
「僕も、博子さんに慣らされてしまってるんでしょうね。」
「それは良くないですね。」
「良くないかもしれません。」
「でも、嬉しいですけど。」
女の子は、少し悔しそうにしながらも、完全に空気が悪くなる前に笑いに戻そうとする。
「じゃあ、先生には何を提案したらいいんですか。」
弁護士先生は、少し考える。
「僕が知らないけど、行ったあとに話したくなるところ。」
「難しいですね。」
「難しいです。」
「だから博子ちゃんに負けてるってことですか。」
「そうかもしれません。」
女の子が、今度は博子を睨むように見る。
「博子ちゃん、ハードル上げすぎですよ。」
博子は、慌てて手を振る。
「いやいや、私ももう玉ないから。」
「また言うてる。」
「ほんまにないねん。」
先生は、そのやり取りを見ながら少し笑う。
「でも、そういうところなんですよ。」
「何がですか。」
「玉がないと言いながら、絞り出してるところ。」
「先生、また変なこと言う。」
「それが面白いんです。」
女の子は、まだ少し悔しそうではあるけれど、さっきよりは少し納得したようにも見える。
単に美人だから選ばれるわけではない。
行きたい場所を並べれば刺さるわけでもない。
相手が何を面白いと思うか、どこで気が緩むか、何を持ち帰って話したくなるか。
そこまで考えられるかどうか。
それを、目の前で弁護士先生に言われてしまったのでございました。
「勉強になりました。」
女の子は、少しだけ拗ねたように言う。
博子は笑う。
「先生、後輩教育までしてくれてありがとうございます。」
「教育したつもりはないんですけどね。」
「でも、めっちゃ刺さってますよ。」
女の子は、ぐぬぬとした顔のままグラスを整える。
「今度、ちゃんと考えてきます。」
「それは楽しみにしてます。」
先生がそう言うと、場はようやく少し柔らかく戻る。
博子は、その横でなぜか少しだけ誇らしいような、でもちょっと申し訳ないような気持ちになる。
自分のやってきたことが、知らん間に客の判断基準を上げている。
それは嬉しいことでもあり、同時に店の女の子たちにとってはやや厄介なことでもある。
そういう、ちょっとした緊張と笑いの混ざったワンシーンやった。




