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博子が東京イキリ社長に対して腹の中を多少ぶっちゃける。色々ほしいものはあるけど次が無くなる方が怖いですwww

肉を焼きながら、博子は少し言葉を選ぶように続ける。

網の上では、薄く切られた肉がじゅうっと音を立てている。

個室の中は、昼の大阪駅ど真ん中とは思えないぐらい落ち着いていて、外のざわつきが遠い。

その空気の中で、博子は社長たちに向き合う。

「それは私だって一応ね。」

「キャバ嬢の端くれですから。」

「端くれって。」

社長が笑う。

「いや、端くれですから。」

博子も少し笑いながら返す。

「たくさん下ろしてもらいたいし、たくさんいてもらいたいし、お手当てももらいたいし、

っていうのはあります。」

「正直やな。」

「ありますよ、そら。」

そう言いながら、博子は焼けた肉を一枚、皿に移す。

「やけど、私はね。」

「売れなかった時期が長かったので。」

「うん。」

「そもそも来てもらえなくなるっていうのが、一番まずいと思ってるんですよ。」

社長たちは、そこで少し真面目な顔になる。

「なるほどな。」

「次は、ただアフターを楽しむっていうのも。」

「ちょっと私たちの労力的にどうなの、っていうのはあります。」

「私が座組んでる身からしたら、他のメンツにも悪いなっていうのはある。」

「そらそうやな。」

「で、ボトルやセットも、ワンタイで帰られたら困るなっていうのはあります。一応。」

「一応な。」

「一応です。」

博子は少し笑う。

「だけど、今のところは。」

「個別のお客さんもちゃんといて、座組も四つ回してて。」

「ここ以外でも、いろいろ回ってるんです。」

「すごいな。」

「むしろ初期の頃よりも、多分熱量的にはちょっと下がってると思うんですね。」

「下がってる?」

「個別でみんなでアフターデート行くっていうのじゃなくて。」

「こうやって集団で取るというか、座組で回すようにしたりとかしてるから。」

「なるほど。」

「だから、その辺はバランスかなと思ってます。」

博子は、そこで社長たちの顔を見る。

「それでも社長たちは結構楽しくやってくれてるし。」

「むしろ私が放り投げた外遊びの話も、結構楽しんでやってくれてるじゃないですか。」

「まあ、確かにな。」

東京イキリ社長が笑う。

「その辺は勝手に俺ら遊んでるしな。」

「そうなんですよ。」

「第三ビルも勝手に行ったし、北海道も勝手に行ったし。」

「そういうことです。」

博子は頷く。

「だから、そういうところも考えたら。」

「やっぱりまず一番に考えなあかんのは、次がないっていうのを避けることなんですよ。」

「うん。」

「そこのところで、あんまり私も強くは言わないです。」

「なるほどな。」

「だけど、店的には多分、ボトルがとか、、、。」「まあ、でもボトルぐらいですかね。」

「本当に言うたら。」

博子は少し首を傾ける。

「セット的には、多分ちょうどいい遊び方してると思うんですよ。」

「そうなん?」

「同伴のことも考えたら、これぐらいでいいと思うんです。」

「でも、多分そのシャンパン的なものは、店側としては思わはるんだと思うんですけど。」

「うん。」

「それはちょっとまた、度が過ぎると私たちの寿命が短くなるような気がして。」

社長たちは、その言葉に少し黙る。

“寿命が短くなる”という言い方が、妙に腑に落ちたのかもしれない。

「シャンパンでドーンってやると、その時は見栄えいいですけど。」

「次もそれ、みたいになるじゃないですか。」

「なるな。」

「それで、疲れて来なくなる方が怖いです。」

「たしかに。」

「やったら、次に響とか、白州とか。」

「そういうのをトントン置いていってもらいながら。」

「ゆっくりしてもらって。」

「年単位で遊んでもらえて。」

「うん。」

「私も、うんうん言いながら、年単位でいろいろ案を考えてやるっていうのが、

ええかなと思ってるんです。」

その話を聞いて、社長の一人が感心したように笑う。

「博子ちゃん、ほんま長期目線やな。」

「いや、そうしないと無理です。」

博子は少し苦笑いする。

「今なんか、他の座組でも困ってるんです。」

「何に?」

「球がないんです。」

「出た。」

「熟女キャバクラとか、オカマバーとか、マジックバーとか。」

「また変な球出してきたな。」

「いろいろ考えながらやってますけども。」

「まだまだ私も発展途上ですから。」

「うん。」

「その辺は、ボトルがそんなお値段しない分ね。」

「ちょっと多めに見てもらいながら。」

「及第点を少し下げてもらいながら、やってもらったら嬉しいです。」

博子がそう言うと、社長たちは、少し顔を見合わせてから笑う。

「いや、博子ちゃんは本当に謙虚やな。」

「謙虚なんですかね。」

「謙虚やし。」「なんか、そういう腹の内まで。」

「全部ボロンと出してるかはわからへんけど。」

「出してるかもしれませんよ。」

「そうやって言ってくれるから、なんか来ててほっとするわ。」

その言葉に、博子は少しだけ照れる。

「ほっとする?」

「うん。」

「人間らしい。」

「ああ。」

「東京で飲んでた時だってさ。」

社長は、肉をひっくり返しながら続ける。

「やっぱり、ここでドーンみたいなのもあったし。」

「誕生日月がどうとか。」「そういうのもあったけど。」

「なんかその辺のやり取りで、大きくお金が動かへんっていうところが、

こっちも安定してるかなって感じる。」

「なるほど。」

「むしろ、それがちょっと普通になってきてるのが、逆に怖いぐらいやわ。」

「怖いですか。」

「だって、東京で遊んでた時の感覚からすると、だいぶ違うからな。」

博子は黙って頷く。

「札幌では。」「さすがにそこまでのやつよりも。」

「どっちかというと観光とかご飯とかが強いから。」

「そっちの方で、ある程度点数低めに考えるけども。」

「ヒロコちゃんは、やっぱりそうやって色々考えてくれてるのが。」

「多分、優先度的におじさんたちは上に来るんやろな。」

そう言われて、博子は少しだけ目を伏せる。

嬉しいような、申し訳ないような、でもやっぱり嬉しい。

「まあ。」

社長は、焼けた肉を取りながら言う。

「うまい具合に回ってるんやったらええんちゃう。」

「ありがとうございます。」

「むしろ、そういう、なんていうのかな。」

「いろいろ考えてくれるのを、長期でやってくれるのがマジ嬉しい。」

「長期で。」

「そう。」

「だから、これからもよろしくな。」

その言葉で、博子の中の緊張が少しほどける。

「こちらこそ、よろしくお願いします。」

さきちゃんとアルカちゃんも、横でそのやり取りを聞きながら、少しほっとしたような顔をしている。

ボトルの話、店への戻し方、外遊びの負担。

そのあたりを避けずに話したうえで、社長たちがちゃんと理解してくれた。

それだけでも、今日の焼肉には意味がある。

「まあ、とりあえず。」

社長が笑う。

「肉食おう。」

「そうですね。」

「この二千円のランチ、普通にうまいし。」

「でしょ。」

「大阪駅のど真ん中でこれなら、かなりええわ。」

そうやって、少し真面目な話を挟みながらも、焼肉の時間は穏やかに終わっていくのでございました。

派手な酒もない。

大きな事件もない。

でも、長く付き合うための感覚をすり合わせる。

博子にとっては、こういう日こそ大事なのかもしれない。

網の上の最後の肉が焼ける頃には、

社長たちも博子たちも、妙に落ち着いた顔になっていたのだった。

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