九月二週目水曜日。おじいちゃんとハマチのカマ焼きを待ちながら近況報告
おじいちゃんは相変わらず、一品一品つまみながら、博子の近況を聞く。
まだ、メインのはまちのかま焼きが焼ける前。
先に出てきた、なすの煮浸しとか、小鉢のあれこれをちょこちょこつまみながら、
おじいちゃんは、いつもの雑な入り方で話を振ってくる。
「で、最近どうなんや。」
「雑いなあ。」
博子は笑うけど、もうそれがいつもの合図みたいなもんである。
ここから、今週の流れをほどいていく。
「おじいちゃん帰った後にね。」
「薬品会社の社長たちが、ばーっと来て。」
「ほう。」
「最初フリーでついてはったけども、誰も指名せずに。」
「私らの座組が、丸ごとハマって。」
おじいちゃんは、そこでちょっと面白そうに口の端を上げる。
博子は、そのまま続ける。
「で、昨日。」
「言うたら、座組で山崎のウイスキー工場行って。」
「西中のご飯屋さん食べに行って。」
「また次やりましょう、っていう形で、座組が回ったと。」
「なるほどな。」
「これで、東京の座組が二つと、大阪の座組が二つで、四つ回してる。」
おじいちゃんは、そこで小鉢をつまみながら頷く。
「だいぶ増えたな。」
「増えた。」「で、私的には。」
博子は、少し肩をすくめる。
「出勤が結構増えてるから。」
「もう、言うたら指名と同伴以外は、さっさと帰るようにして調整してんねん。」
「なるほど。」
おじいちゃんは、そこをすぐに拾う。
「まあ、調整の仕方も、なかなかうまい具合にやってるし。」
「しばらく潰れへん設計でええんちゃうか。」
「そうかな。」
「そうやろ。」
言い方は雑やけど、見てるところはちゃんと見てる。
博子も、そこはやっぱりこの人にはかなわんなと思うのである。
「それにしても。」
おじいちゃんは、少しだけニヤッとする。
「やっぱり、きちんと取れるところは取っていくっていうのは、あれやな。」
「博子らしいな、っていうところやし。」
「うん。」
「多分博子、自分としてはあんまり取りたくなくても。」
「女の子たちに仕事振る、っていう意味でも取ったんやろ。」
博子は、その一言に思わず苦笑いする。
「ほんま、おじいちゃんにはかなわんなあ。」
「そら見てるからな。」
「いや、でもそうやねん。」
博子は、そこで素直に認める。
「無理に取りに行くところやなかったけども。」
「特に、一番下のカレンちゃんとの座組の関係もあって。」
「落とすには惜しいなっていうところがあったんや。」
「なるほど。」
「道修町の、言うたら飲み慣れた社長さんたちやったから。」
「落とすのはもったいないし。」
「座組を回すっていう意味では、他で三つ回してるから。」
「一回、さらっと、二、三回は鉄板で回せる絵が見えたから。」
「まあまあ、とりあえずそこからかな、みたいな。」
おじいちゃんは、そこで少しだけ真面目な顔になる。
「でもまあ。」「あんまり抱え込みすぎず、やけども。」
「一つか二つぐらいは、取りこぼしてもええや、ぐらいの感じで回しといたらええんちゃう?」
その言い方が、博子にはわりと響く。
「どれもこれも。」
おじいちゃんは続ける。
「ガッチガチにやると、どうせ負担になりやろし。」
「それぐらいの余裕は、今の博子にありそうやしな。」
「まあ、そうやな。」
博子も、そこは静かに頷く。
全部を完璧に拾う必要はない。
でも、拾えるところはちゃんと拾いたい。
その間の塩梅を、今ちょうど探ってるところやなと思う。
で、話はそこから、また少し別の方向へ流れる。
「あと。」
博子は、小鉢をつまみながら言う。
「会計士先生に、言うたら。」
「チークタイムのある十三のキャバクラに行かせてみたりとか。」
おじいちゃんが、そこで笑う。
「なんやそれ。」
「いや、そういうのがあるんよ。」
「へえ。」
「もう、自分だけで囲い込んでやるのはやめて。」
「外遊びさせたりとかしてんねん。」
その話をすると、おじいちゃんはちょっと呆れたような、でもおもしろがってるような顔になる。
「外遊びさせる方はええけどもやな。」
「そんなん、ウッキウキで行ってしまう会計士先生も、それかわいそうなところあるよな。」
「出た。」
博子が笑う。
「いや、でも。」「それは経験値をやっぱ積んどかんとさ。」
「結局、私は私で、ガチ恋になられたとしても。」「レベル低い状態で来られるよりも。」
「レベル上げて、なんかいろんな手を考えてきてくれる方が。」
「私としてはやっぱり、男として面白くなってるから。」
「なるほど。」
「そういうのがええかな、みたいな。」
おじいちゃんは、その理屈を聞いて、少しだけ感心したように笑う。
「うん。」「なかなか本当にあれやな。」「むちゃくちゃな育て方してんな。」
その言い方に、博子も声を出して笑う。
「いや、でも、そうやっていろいろ見たり。」「経験してきた方が、話も厚み出るし。」
「こっちも聞いてておもろいやん。」
「まあ、それはそうや。」
そうやって、はまちのかま焼きが来てからも、二人は朗らかに、
二時間ぐらいベラベラ喋るのだった。
おじいちゃんにとっては、こういう時間がやっぱり心地いい。
ただ飯を食うだけやない。
博子の一週間を聞いて、
ちょっとした経営判断みたいなことに口を出して、
時々呆れて、時々感心して、
最後には「まあそれでええんちゃうか」で落ち着く。
そういう水曜日の同伴の時間やった。




