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キャバクラ店内に戻りワンセット目。空気が出来上がる中次回にも期待。せっかくならボトル卸してくださいとの博子の要求にあっさり森伊蔵と百年の孤独が下りる

お店の中に着いてからも、まだまだ空気は切れへん。

山崎のウイスキー工場から西中島の小料理屋、そこからまた店に戻ってきてるから、

普通やったらもうだいぶお腹いっぱいになってもええ頃合いやねんけど、今日はむしろ逆である。

外である程度空気ができてるがゆえに、店の中に戻ってからの方が変に気を遣わずに喋れる。

そんな感じで、またひとしきり、わちゃわちゃおしゃべりする流れになる。

その中で、誰かがふと、今日の座組全体を見渡すような感じで言うのでございました。

「でもさ。」

「うん。」

「こういう座組がいいがゆえに、なんか恋愛とかそういうのには、なかなか難しそうやな。」

その言い方に、女の子たちも社長たちも少し笑う。

たしかに、今日みたいに男女四対四で、しかも“ちゃんと回る”感じができてしまうと、

誰か一人だけが急に抜け駆けして何か、というのはやりにくいようにも見える。

でも、そこは博子がすぐに切り返す。

「いやいや。」

「うん?」

「別でこっそり会ったり。」

「ほう。」

「なんか色々どっか行ったとかっていう話も、いいじゃないですか。」

社長たちが、おっとという顔で笑う。

「当人以外のところで、めっちゃ盛り上がりますし。」

その言い方に、今度は向こう側からも返しが来る。

「それは嫌やな。」

「出た。」

「何が嫌なんですか。」

博子が笑いながら聞くと、社長も少し照れたように笑う。

「なんかこう、裏でやられてる感じあるやん。」

「いやでも。」

博子は、そこを軽く押し返す。

「やましいことがなければ、全然それも私ら女性陣からしたら経験値じゃないですか。」

「経験値。」

「そう。」

「やり逃げはあれですけどね。」

「そこは怖いな。」

「いや、だから。」

博子は、そこをちゃんと整理する。

「出来ちゃったとか、やり逃げはちょっと許さないところはありますけど。」

「ははは。」

「そこは急に現実的やな。」

「いやいや。」「それはちゃんと責任取って、アフターサービスするとか。」

「アフターケアね(笑)。」

「それやったら何とかなることですし。」

「何とかなるのか。」

「いや、ならな困るんですよ。」

そのへんの話になると、女の子たちもいきなり妙に乗ってくる。

「それはそうやな。」

「そこはちゃんとしてもらわんと困ります。」

「やり逃げはあかん。」

そんな感じで、妙に生々しい倫理観みたいなんが卓に出てきて、逆にそれがまたおもろい。

社長たちも、笑いながらもわりと真面目に聞いている。

「でも、それ以外のところはね。」

博子が、そこでまた話を戻す。

「言ったら、こういう店に来てる時点で。」

「いろんな人とも遊んでるでしょうし。」

「まあ、それはそうやな。」

「その辺のところは、ある程度お互いわかった上で。」

「ご飯に行くなり、どっか行くなりは、全然いいんじゃないですか。」

すると、今度は社長たちの方も少し乗ってくる。

「なんか、むしろ。」

「そういうので、内々で盛り上がっても楽しいと思いますしね。」

博子がそう言うと、卓がぐっと盛り上がる。

誰と誰がどうやねん、みたいな具体の話までは行かへん。

でも、“この会の中からこっそり何かが起きても、それはそれでええやん”というニュアンスを、

博子がわざと先頭切って開けたことで、空気がちょっと柔らかくなる。

「なんかこういう。」

博子が、少し笑いながら言う。

「“仲良くなりましょうの会”で。」

「変に気ぃ遣いすぎるのも、どうかなと思って。」

「なるほど。」

「私がちょっと先頭切って、こじ開けてみたんですけど。」

その言い方に、社長たちも女の子たちも声を上げて笑う。

「こじ開けるなあ。」

「博子ちゃん、ほんまその役回りやな。」

「誰かが言わんと、ずっと上品な顔したまま終わるやん。」

「それはある。」

「たしかにな。」

そんなふうに、いい意味で少し下世話な話までできるようになると、

“ただ接待っぽく整った会”から、

“ちゃんと内輪の熱がある会”に一段変わる。

そこが今日の博子の狙いでもあった。

で、その流れの中で、社長の一人がかなり素直に言うのでございました。

「いや、でもこれは継続的にやりたいな。」

「それはありがたいですね。」

「それやったら。」

博子は、そこを逃さへん。

「もうちょっと私らの顔も立ててもらうということで。」

「何本か下ろしていただいたらありがたいです。」

すると、社長たちも少し笑いながら顔を見合わせる。

「出た。」

「ちゃんと回収するやん。」

「いや、そこは必要です。」

「そらそうやな。」

で、そこまで言われたら、向こうも話が早い。

「じゃあ。」

一人がさらっと言う。

「とりあえず、百年の孤独と、森伊蔵。」

その言い方が、また妙に軽い。

でも軽く言えるのが、この人らの強さでもある。

その瞬間、黒服が、もう隠しきれんぐらいの満面の笑みで近づいてくるのでございました。

「ありがとうございます!」

その勢いがあまりにもわかりやすすぎて、博子がすかさず突っ込む。

「あからさますぎますよ。」

黒服も少し笑うけど、喜びは隠せない。

「いや、でも、ほんまありがとうございます。」

その顔を見ると、女の子たちも社長たちもまた笑う。

店としても、こういう“外で回して中に戻す”流れがちゃんと形になると、

やっぱり嬉しいのである。

「黒服さんの喜び、ひとしきりやな。」

「そらそうやろ。」

「今日ここまで回して、最後それ入ったらな。」

そうやって、酒も入り、会話も入り、ボトルも入る。

うまい具合に、全部が回る。

誰かが得しすぎるでもなく、誰かが無理するでもなく、

ちゃんとみんなに意味がある形で、この会が閉じていく。

それが、今日の一番ええところやなと博子も思うのだった。

社長の一人が、最後に改めて言う。

「これ、次以降もなんかやっていこうよ。」

「ぜひぜひ。」

「また違う球もありますんで。」

「まだあるんや。」

「めっちゃあります。」

そんなふうに、次の話まで軽くしながら、

でも今日は今日でちゃんと着地して、

ワンセット目が気持ちよく終わるのだった。

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