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山崎のウイスキー工場を出て西中島の小料理屋に向かう。到着時間を予想しあらかじめ先回りして料理の手配をする博子の小気味よさを社長達が褒める

お土産コーナーに寄ってみても、やっぱり山崎や白州の18年は置いてなかった。

「まあ、ないよな。」

社長の一人が、少し笑いながら言う。

「時々、置いてるんですけどね。」

博子がそう返すと、別の社長がすぐに頷く。

「さすがに、この時間帯には残ってないでしょう。」

「それはそうですね。」

「朝イチで消えるやつやろ。」

「そうそう。」

そんなことを言いながら、みんなで少しだけお土産コーナーを流して、

それからウイスキー工場を出る。

で、帰りもタクシー二台をチャーターして、山崎駅へ向かう流れになった。

行きと同じように、博子がまた配置をざっくり決めて、

もたつかへんように乗り込ませる。

このへんはもう、向こうも半分“お任せモード”に入ってるから早い。

で、帰りの車の中で、博子はすかさず次の段取りに入る。

「ちょっと、お店電話しときますね。」

そう言ってスマホを取り出しながら、まずは社長たちの方へ軽く聞く。

「なんか嫌いなもんあります?」

すると、向こうはわりと気楽に返してくる。

「いや、特にないで。」

「酢の物ぐらいは嫌やな。」

「出た。」

博子が少し笑う。

「わかりました。」

そう返して、そのまま小料理屋へ電話をかける。

前から八人で予約はしてある。

でも、予約してるだけで全部うまく回るわけではない。

今日行く店は、個人店に近い小料理屋で、大将がほぼ一人で回してる。

そういう店は空気がええ代わりに、急に八人がどっと押し寄せた時の最初の回転がちょっと大事になる。

「もしもし、すみません。」

博子は、すっと仕事の声になる。

「今日八人で予約してる博子ですけど。」

「はい。」

「今、山崎にいるんで、あと三十分ぐらいしたら着きます。」

「出し巻き卵と、海鮮のひととおり盛り合わせと。」

「あと、揚げ物何品かとか、ちょっと見繕っておいてもらえますか。」

「はい。」

「八人で行くので、最初の何品かだけ先に出せるようにしてもらえたらありがたいです。」

そうやって、必要最低限だけ、でもちゃんと先回りして伝える。

電話を切ると、車内の空気が少しだけ感心した感じになる。

「博子ちゃん。」

「はい。」

「要領良すぎやろ。」

社長が笑いながらそう言うと、博子も少し肩をすくめる。

「いや、これ含めて四つ座組回してますから。」

「そういう問題か?」

博子は、そのまま説明する。

「お店自体が、ちょっと個人店なんです。」

「半分貸し切りみたいになるんです。」

「なるほど。」

「大将一人で調理場回してはるから。」

「そんな、言うたら融通がバカバカ利くわけじゃないので。」

「最初の何品か作っといてもらった方がええかなと思って。」

「ほう。」

「特に、お造りとか。」

「揚げたてじゃなくてもええものは、先言うといた方がええでしょう。」

その説明を聞いて、向こうがさらに感心する。

「なるほどなあ。」

「そこまで考えてるんや。」

「いや、でも八人おったら。」

「最初の十五分、二十分で空気決まりますから。」

「それはあるな。」

「そこで“まだですか?”ってなったら、ちょっとしんどいじゃないですか。」

「確かに。」

そうやって話してるうちに、タクシーは山崎駅へ着く。

そこからまた電車に乗って、新大阪へ戻る。

移動の時間はそれなりにあるけど、今日はもう八人の空気がだいぶできている。

山崎のテイスティングで少し文学者になって、

レンガの外観に“おお”と言って、

タクシーの采配に感心して、

今度は小料理屋の段取りまで見せられる。

もう“接待っぽい顔”だけやなくて、

完全に“今日は博子たちに運ばれている日”みたいな感じが出てる。

新大阪に着いてからは、西中島の小料理屋まで五分ほど。

そこをだらだら歩く流れになる。

「近いんですね。」

「近いです。」

「これもええな。」

「新大阪からすぐ動けるように、っていうところです。」

「出張族に優しい。」

「そういうことです。」

博子が笑いながら返すと、社長たちもわりと機嫌がいい。

さっきまでウイスキー工場で、ちょっと大人っぽい空気を吸ってたのに、

今はもう西中島の雑居ビルの方へだらだら歩いてる。

その温度差も、今日の流れとしてはちょうどええ。

女性陣も、後ろでわちゃわちゃしながらついてきている。

カレンちゃんはまだちょっと勉強モードやけど、

アルカちゃんとさきちゃんは、こういう“遠足から居酒屋へ流れる”感じにもだいぶ慣れている。

「お腹すいたな。」

「さっき飲んだのに。」

「酒は酒やし。」

そんなことを言いながら、みんなで歩く。

新大阪から西中島へ向かうあの短い道のりが、

今日はなんだか妙に“打ち上げ前”みたいな空気になっている。

博子としては、

電話を入れたことで、あとは店に着けば最初の何品かはもう出てくるはずや、という安心感がある。

こういうのがあるだけで、自分の中の負荷がだいぶ減る。

何もかも店任せにせず、でも全部を抱え込みすぎもせず。

そのへんの塩梅で回していくしかない。

「まあ、ここまで来たら。」

博子は、少しだけほっとしながら思う。

「あとはゆっくり飲んでもらうだけやな。」

そんなふうに、八人はだらだらと歩きながら、

西中島の小料理屋へ向かうのだった。

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