表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

804/839

山崎ウイスキー工場のテイスティングの場で博子お勧めの呑み方で進める。18年を呑むとみんな詩人になる(笑)

博子は山崎12年、山崎18年、白州18年っていう流れの味は、もう何度も経験してるから知っている。

せやから、自分自身がそこでめちゃくちゃ驚くというよりは、

むしろ今回は、社長たちや、女の子たちがどういう反応をするかを、横で見てる方が面白い。

まずは山崎の12年から始める。

グラスを受け取って、くるっと香りを回して、ひと口飲む。

すると社長たちの方から、わりとすぐに声が上がる。

「あー、これはまあ、よく飲むやつやな。」

「なるほど。」

「やっぱりここから入るのが王道か。」

その言い方が、やっぱり飲み慣れてる人たちのそれである。

博子も、それを聞いてちょっと感心する。

「さすがに、いいもん飲んではりますね。」

そう言うと、向こうも少し笑う。

「いやいやいや。」

「でも、普通これ、12年飲むだけでも結構テンション上がるで。」

「上がりますよね。」

「その辺、やっぱ舌肥えてはるなあ。」

そうやって、最初の山崎12年の段階で、すでに場の空気はだいぶほどけてくる。

ただ“高い酒を飲んでる”という感じではなくて、

ちゃんとそれぞれが、自分の言葉で味を探り始めるのである。

で、次に山崎18年へ行く。

博子としても、ここはやっぱり一段上がると思っている。

だから社長たちにも軽く振る。

「でもやっぱり、18年とかはさすがにあれちゃいます?」

「ちょっと一段上がるんちゃいます?」

すると社長たちも、そこは素直に頷く。

「それはさすがに上がる。」

「だって、ここのテイスティングでも三千円やろ。」

「そうですよね。」

「18年、普通にキャバクラで飲むとボトルで何十万もするしな。」

「そうなんですよ。」

そんな話をしながら、今度は香りを少しちゃんと嗅いでから飲む。

すると、さっきの12年よりも、みんなの言葉が少しゆっくりになる。

「……ああ。」

「やっぱ、12年に比べて味が深いな。」

「角がない。」

「丸い。」

「一回飲んでから、もう一回飲むまでの間に。」

「うん。」

「味が整って、舌の中で消えていく感じするな。」

その言い方が、だいぶ“それっぽい”。

でも、実際たぶん、ほんまにそう感じてるんやろう。

博子は、その言葉を聞きながら、ああ、この人らちゃんと味わえる人らやなと思う。

「そんな感じ、やっぱたまらんな。」

誰かがそう言うと、また他の誰かが頷く。

言葉数は多くない。

でも、その少ない言葉の中に、ちゃんと“ええもん飲んでる”実感がある。

そのあと、白州18年へ行く。

これはこれで、また山崎とは違う。

同じ“18年”でも、向いてる方向が違う。

だから、その変化もまた面白い。

「これも、やっぱり貴重やけど。」

「うん。」

「味、全然ちゃうな。」

「どっちかっていうと爽やかやね。」

「そうそう。」

「ハイボールでは飲むけど。」

「うん。」

「これを原液で、しかもこういう場所で飲むって、なかなかないよな。」

「ハイボールで飲んだら、ちょっともったいないですよ。」

博子がそう言うと、社長たちも笑う。

「それはもったいないな。」

「これは、そのままやな。」

そうやって、山崎18年と白州18年を飲み比べながら、

みんなそれぞれに言葉を探す。

こういう時って、不思議と語彙が文学寄りになる。

「どっちも丸いけど。」

「うん。」

「深さの方向性が違うよね。」

「それはある。」

「山崎の方が、もうちょっと粘る感じというか。」

「白州は、抜け方がきれいやな。」

「爽やかさの奥に深さがある感じ。」

そんなふうに、言葉を足したり引いたりしながら、

八人がそれぞれ、酒を前にして少しずつ文学者みたいになっていく。

「やっぱり。」

ヒロコが少し笑いながら言う。

「この山崎18年と白州18年は、みんなを文学者にしますよね。」

すると、その一言に場がふっと盛り上がる。

「それやな。」

「急に比喩が増えるもんな。」

「わかるわ。」

「酒が人を詩人にするやつやな。」

みんなでそんなことを言って、また笑う。

で、カレンちゃんはというと、そこまで明確に味の違いを言語化できるわけではない。

でも、それでもちゃんと参加している。

「私、あんまりわからないんですけど。」

「うん。」

「これがすごい酒だってことだけはわかります。」

その言い方に、みんながちょっと笑う。

でも、それがたぶん一番素直で、正しい。

「それでええねん。」

アルカちゃんが笑う。

「まず“すごい”がわかるのが大事。」

「そうそう。」

博子も頷く。

「無理にわかったふりせんでええし。」

「でも、こういうの知っとくと強いよ。」

「勉強になります。」

カレンちゃんは、ほんまにちょっと恐れ入ったような顔でそう言う。

そういう素直な反応も、今日の空気にはよく合っていた。

で、そうやって飲んでいる時の空気感そのものが、またよかった。

テイスティングルームの天井の高さ。

窓の向こうの光。

少し静かで、でも静かすぎへんざわめき。

グラスを持ったまま、立ったり、少し寄ったりしながら、

八人でだらだら喋ってる。

これはほんまに、“大人の遠足”という感じである。

騒ぎすぎない。

でも、ただ見学して終わりでもない。

ちゃんと味わって、言葉にして、笑って、

その場そのものを楽しんでいる。

博子は、その風景を見ながら、やっぱり一回目にここを選んで良かったなと思うのだった。

まだこれから先にも種はある。

京都の日本酒飲み比べもあるし、別の座組に流せる球もある。

でも、初手としては、

この“レンガの建物に入って、大人っぽい酒を飲んで、みんなで少し賢そうなことを言う”という

流れは、だいぶ綺麗やった。

社長たちも、女の子たちも、

ちゃんとその場を楽しんでいる。

カレンちゃんも勉強になってる。

博子自身も、何度目かの山崎やのに、

またこの景色はええなと思っている。

そういう火曜の午後から夕方の、本当に大人の遠足みたいな時間やった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ