山崎ウイスキー工場のテイスティングの場で博子お勧めの呑み方で進める。18年を呑むとみんな詩人になる(笑)
博子は山崎12年、山崎18年、白州18年っていう流れの味は、もう何度も経験してるから知っている。
せやから、自分自身がそこでめちゃくちゃ驚くというよりは、
むしろ今回は、社長たちや、女の子たちがどういう反応をするかを、横で見てる方が面白い。
まずは山崎の12年から始める。
グラスを受け取って、くるっと香りを回して、ひと口飲む。
すると社長たちの方から、わりとすぐに声が上がる。
「あー、これはまあ、よく飲むやつやな。」
「なるほど。」
「やっぱりここから入るのが王道か。」
その言い方が、やっぱり飲み慣れてる人たちのそれである。
博子も、それを聞いてちょっと感心する。
「さすがに、いいもん飲んではりますね。」
そう言うと、向こうも少し笑う。
「いやいやいや。」
「でも、普通これ、12年飲むだけでも結構テンション上がるで。」
「上がりますよね。」
「その辺、やっぱ舌肥えてはるなあ。」
そうやって、最初の山崎12年の段階で、すでに場の空気はだいぶほどけてくる。
ただ“高い酒を飲んでる”という感じではなくて、
ちゃんとそれぞれが、自分の言葉で味を探り始めるのである。
で、次に山崎18年へ行く。
博子としても、ここはやっぱり一段上がると思っている。
だから社長たちにも軽く振る。
「でもやっぱり、18年とかはさすがにあれちゃいます?」
「ちょっと一段上がるんちゃいます?」
すると社長たちも、そこは素直に頷く。
「それはさすがに上がる。」
「だって、ここのテイスティングでも三千円やろ。」
「そうですよね。」
「18年、普通にキャバクラで飲むとボトルで何十万もするしな。」
「そうなんですよ。」
そんな話をしながら、今度は香りを少しちゃんと嗅いでから飲む。
すると、さっきの12年よりも、みんなの言葉が少しゆっくりになる。
「……ああ。」
「やっぱ、12年に比べて味が深いな。」
「角がない。」
「丸い。」
「一回飲んでから、もう一回飲むまでの間に。」
「うん。」
「味が整って、舌の中で消えていく感じするな。」
その言い方が、だいぶ“それっぽい”。
でも、実際たぶん、ほんまにそう感じてるんやろう。
博子は、その言葉を聞きながら、ああ、この人らちゃんと味わえる人らやなと思う。
「そんな感じ、やっぱたまらんな。」
誰かがそう言うと、また他の誰かが頷く。
言葉数は多くない。
でも、その少ない言葉の中に、ちゃんと“ええもん飲んでる”実感がある。
そのあと、白州18年へ行く。
これはこれで、また山崎とは違う。
同じ“18年”でも、向いてる方向が違う。
だから、その変化もまた面白い。
「これも、やっぱり貴重やけど。」
「うん。」
「味、全然ちゃうな。」
「どっちかっていうと爽やかやね。」
「そうそう。」
「ハイボールでは飲むけど。」
「うん。」
「これを原液で、しかもこういう場所で飲むって、なかなかないよな。」
「ハイボールで飲んだら、ちょっともったいないですよ。」
博子がそう言うと、社長たちも笑う。
「それはもったいないな。」
「これは、そのままやな。」
そうやって、山崎18年と白州18年を飲み比べながら、
みんなそれぞれに言葉を探す。
こういう時って、不思議と語彙が文学寄りになる。
「どっちも丸いけど。」
「うん。」
「深さの方向性が違うよね。」
「それはある。」
「山崎の方が、もうちょっと粘る感じというか。」
「白州は、抜け方がきれいやな。」
「爽やかさの奥に深さがある感じ。」
そんなふうに、言葉を足したり引いたりしながら、
八人がそれぞれ、酒を前にして少しずつ文学者みたいになっていく。
「やっぱり。」
ヒロコが少し笑いながら言う。
「この山崎18年と白州18年は、みんなを文学者にしますよね。」
すると、その一言に場がふっと盛り上がる。
「それやな。」
「急に比喩が増えるもんな。」
「わかるわ。」
「酒が人を詩人にするやつやな。」
みんなでそんなことを言って、また笑う。
で、カレンちゃんはというと、そこまで明確に味の違いを言語化できるわけではない。
でも、それでもちゃんと参加している。
「私、あんまりわからないんですけど。」
「うん。」
「これがすごい酒だってことだけはわかります。」
その言い方に、みんながちょっと笑う。
でも、それがたぶん一番素直で、正しい。
「それでええねん。」
アルカちゃんが笑う。
「まず“すごい”がわかるのが大事。」
「そうそう。」
博子も頷く。
「無理にわかったふりせんでええし。」
「でも、こういうの知っとくと強いよ。」
「勉強になります。」
カレンちゃんは、ほんまにちょっと恐れ入ったような顔でそう言う。
そういう素直な反応も、今日の空気にはよく合っていた。
で、そうやって飲んでいる時の空気感そのものが、またよかった。
テイスティングルームの天井の高さ。
窓の向こうの光。
少し静かで、でも静かすぎへんざわめき。
グラスを持ったまま、立ったり、少し寄ったりしながら、
八人でだらだら喋ってる。
これはほんまに、“大人の遠足”という感じである。
騒ぎすぎない。
でも、ただ見学して終わりでもない。
ちゃんと味わって、言葉にして、笑って、
その場そのものを楽しんでいる。
博子は、その風景を見ながら、やっぱり一回目にここを選んで良かったなと思うのだった。
まだこれから先にも種はある。
京都の日本酒飲み比べもあるし、別の座組に流せる球もある。
でも、初手としては、
この“レンガの建物に入って、大人っぽい酒を飲んで、みんなで少し賢そうなことを言う”という
流れは、だいぶ綺麗やった。
社長たちも、女の子たちも、
ちゃんとその場を楽しんでいる。
カレンちゃんも勉強になってる。
博子自身も、何度目かの山崎やのに、
またこの景色はええなと思っている。
そういう火曜の午後から夕方の、本当に大人の遠足みたいな時間やった。




