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九月二週目火曜日。薬品会社社長達と山崎ウイスキー工場見学の座組からの同伴コース。結局全員参加www

火曜日。薬品会社の社長たちと、山崎のウイスキー工場に行く日や。

昼の十四時頃に大阪駅で待ち合わせ、ということで、女性陣四人は少し早めに集まっていた。

博子、アルカちゃん、さきちゃん、カレンちゃん。

十分前ぐらいには揃っていて、駅の端の方で、今日どういう感じで行こうかね、みたいな話をしている。

「まあ、平日やし。」

博子が言う。

「そこまでガチガチにせんでええと思うけど。」

「でも最初の流れだけはちゃんとやな。」

「それはそう。」

アルカちゃんも頷く。

「で、誰をどこに当てるかとかは?」

さきちゃんが聞くと、ヒロコは少しだけ考える顔になる。

「それは向こう見てからかな。」

「なるほど。」

「カレンちゃんは、今日は勉強しながらでええから。」

「はい。」

「変に気負わんで、でもちゃんと見といて。」

「わかりました。」

そんな話をしてたら、向こうの男性陣も到着するのでございました。

四人で来ると聞いてはいたけど、ほんまに綺麗に四人揃っている。

「こんにちは。」

「こんにちは。」

「結局、全員参加ですか。」

博子が笑いながら言うと、向こうもすぐに笑う。

「そうやねん。」

「平日やし、気楽に行こうかな思って。」

「それが一番です。」

「ほな、行こか。」

そういう流れで、まずは新快速に乗って高槻へ出て、そこから快速に乗り換えて山崎へ向かう。

車内でもわちゃわちゃ喋ってはいるけど、今日は“遊びに来た感”がちゃんとある。

接待というより、接待の延長にある遠足みたいな。

その空気がすでにええ感じで、博子としても、これは入りとして悪くないなと思う。

で、山崎駅に着いてからが、また少し采配の見せどころになる。

相変わらず、歩きは結構大変である。

工場まで行くあの微妙な距離と坂が、人数が多い時にはちょっとだるい。

せやから今日は、博子がさっさとタクシーを押さえる。

「二台でいけるな。」

「おお。」

「早いな。」

社長たちがそんなことを言ってる間に、博子はもう配置を考えている。

自分が助手席に乗る。

で、後ろに男二人、女一人。

それを二組作る。

変に固まりすぎず、でも誰かが浮かへんように。

しかも、最初の車内で少しだけ混ざるように。

「じゃあ、こっち。」

「はい。」

「そっち、お願いします。」

そんな感じでぱっぱっと振り分けると、社長の一人が笑う。

「博子ちゃん、相変わらず采配が早いな。」

「いや。」

ヒロコも笑う。

「ここが私の生命線ですから。」

「出た。」

「でも、ほんまやな。」「ここミスったら最初の十分変わるやろ。」

「そういうことです。」

その返しに、向こうもだいぶ納得したように笑う。

こういう“ちょっとした段取りの早さ”が、やっぱり博子の強みである。

何か大きいことをしてるわけやない。

でも、八人で動く時のもたつきを消すだけで、空気はだいぶ変わる。

そうやって、なんとか山崎の工場まで着く。

で、何度来てもやっぱりあの外観は効く。

レンガ作りの、少し重たくて、でも妙に品のある建物。

ウイスキー工場、というより、ちょっとした洋館みたいにも見える。

初めて来る人には、やっぱりそれだけで“おお”となる。

「うわ。」

「すごいな。」

「何回見ても、外観ええな。」

そんな声が自然に出る。

女性陣も、男性陣も、ちょっとだけ足を止めて見る。

博子は、その反応を見ながら、やっぱりここを一発目に持ってきたのは正解やなと思う。

写真映えとか、ウンチクとか以前に、着いた瞬間に“来た感”が出るのが強い。

そのまま中に入って、テイスティングルームへ向かう。

ここから先は、博子の“軽く型を見せる時間”である。

「おすすめのお楽しみ方がありますよ。」

博子が、わりと当然みたいな顔でそう言うと、社長たちが少し面白そうに見る。

「何それ。」

「私たちの儀礼みたいなもんです。」

「儀礼。」

「そう。」

「テイスティングは、三杯までなんですここ。」

「うん。」

「山崎の十二年、山崎の十八年、白州の十八年。」

「おお。」

「この順番で飲むのが、言うたら私たちの流れなんです。」

そこまで言うと、社長たちがだいぶ驚く。

「そこまでやってくれるのか。」

「いや、すごいな。」

「ただ来て飲むだけちゃうんや。」

博子は、そこをさらっと返す。

「せっかくなんで、ちゃんと“来た意味”作っとこうかなと思って。」

「なるほどなあ。」

「それは嬉しいわ。」

女性陣の方も、それぞれ反応してるけど、

特にカレンちゃんは、少し目を丸くしている。

「うわ。」「めっちゃ勉強になります。」

「でしょ。」

博子が笑う。

「こういうのは、流れを知っとくと楽なんよ。」

「なるほど。」

「何頼むか迷わなくていいし。」

「うん。」

「相手に“おすすめあります?”って聞かれた時も、ちゃんと返せるから。」

カレンちゃんは、そこでほんまに恐れ入ったような顔をする。

「いや、すごいです。」

「そんなにかしこまらんでええよ。」

アルカちゃんが少し笑いながら言う。

「でも、こういうの知っとくと、たしかに強いな。」

「そうなんですよ。」

博子は、そのままグラスを頼みながら続ける。

「ただ飲む、でもええねんけど。」

「うん。」

「“この順番でいくとおもろいです”があるだけで、ちょっと物語になるやろ。」

社長たちは、その言い方に妙に納得している。

「確かにな。」

「ただの見学やなくて、ちゃんと儀式っぽくなるもんな。」

「でしょ。」

「その辺が、博子ちゃんたちらしいわ。」

そうやって、テイスティングルームの中でもう一段、

この八人の遠足みたいな空気が整っていく。

平日の昼に、わざわざ大阪から出て、

電車に乗って、タクシーに分乗して、レンガの建物を見て、

“私たちの儀礼です”なんて言いながら、山崎十二年から飲み始める。

それだけでもう、だいぶ非日常である。

そして、その非日常を“ちゃんとした流れ”として差し出してくる博子に、

社長たちも、カレンちゃんも、ちょっとだけ圧倒されてる。

そんな火曜の山崎の始まりやった。

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