鳥せいで昼を堪能した後、黄桜の100円日本酒で締める。伏見コース完成度高いなとおじいちゃんに感心される
黄桜ファクトリーで百円のおちょこをきゅっと飲んで締める、
という流れも、おじいちゃんにはかなりしっくり来たみたいやった。
おちょこを置いて、ほうっと小さく息をついてから、しみじみ言う。
「これもこれで、ありやな。」
博子が笑う。
「でしょ。」
「なんか、起承転結がちゃんとしてて、いいコースやな。あの鉄板コースは鉄板コースで、
そらすごいんやろうけど。これはこれで、コンパクトに行って、ほんで京都で帰って、
東京のやつらは京都駅でお別れして、ええ感じなんやろうって。」
「うん、そうやねん。」
ヒロコも、そこは素直に頷く。伏見で酒蔵を見て、鳥せいでちょうどいい量を食べて、
木桜で百円のおちょこを飲んで、京都駅まで出る。
そこからセンチュリーホテルで紅茶でも飲みながら、ちょっとまったり話して、
新幹線までの時間を整える。派手さはない。でも、流れとして無駄がない。
しかも、平日やと人も少なめで、落ち着いて回れる。
今日おじいちゃんとやってみて、やっぱりこのコースはこのコースで完成度が高いなと、
博子自身も改めて思っていた。
「うーんなるほどな。」
おじいちゃんは、まだ余韻に浸るみたいに続ける。
「これはこれで締まるわ。なんか十分、満喫した感がある。
こうやって博子ともゆっくりしゃべれるし、めっちゃいい。」
「ありがとうございます。」
「いや、なんかやっぱこういうの、ありやな。」
博子は、その言葉を聞きながら、頭の中でまた座組のことを整理していた。
こういう“コンパクトに満足度が高いコース”がひとつある。で、もう一方で、
あの鉄板コースみたいな、ドーンと刺しに行くやつがある。
その二本柱を持ってるだけでも、だいぶ違う。
「鉄板コースと、今日みたいな鉄板コースに近いやつを、いくつか押さえといたら、
半年はもつなって感じやねん。」
おじいちゃんが笑う。
「半年もつんか。」
「もつもつ。」
「そんなにか。」
「うん。言うたら、こういうコースとライトプランを置いといたら、東京の人たちが
派手に来るのが月に一回やとしても、半年ぐらいは全然もつかなって。」
おじいちゃんは、そこで「ほう」と感心したように頷く。
博子は、そのまま少し熱を入れて続けた。
「あとは、夕方とか夜とか、観光地を混ぜながらやっていくっていうことをしたら、
本当にネタには困らんのよ。」
「なるほどな。」
「問題は別にあんねんけどな。」
「なんや。」
「他の二人の女の子たちが、こういうコースを持ってるかどうか問題かなって。」
おじいちゃんが、そこで少し真面目な顔になる。
「そこか。」
「そう。他の女の子たちに聞いたコース、っていうより、私が入れ知恵してるから、
その辺のコースは増えるねん。でも、女の子たちからしたら、私とまた刺さり方とか
温度感が違うから、差が出てきたりした時に、それを埋めないかんやん。」
「なるほど。」
「だから、ただただ私がたくさん引き出し持ってればいいってだけの話じゃないんよね。」
おじいちゃんは、そこで大きく頷いた。
「その辺が難しいわな。」
「そうやねん。」
博子は、少し苦笑いした。自分の引き出しが増えるのはええ。
でも、チームで受ける以上、自分だけ突出しすぎてもあかん。
他の二人の熱量やキャラに合わせて、どう整えるか。
そこまで考え出すと、ほんまに終わりがない。
「博子は、あれか。」
おじいちゃんが、少し呆れたように笑う。
「もうそこまで考えるか。」
「考えるよ。」
博子も笑いながら返す。
「だって、帰りの新幹線で、一人で来て一人で帰ると、ちょっと寂しいわけよ。」
「うん。」
「やけど、二、三人で来て、新幹線の行きも帰りもあって、ほんでチームでいろんな手を加えたら、
行き帰りの新幹線も楽しくなるやん。」
「それはあるな。」
「で、東京から来るにあたっては、その“暇”“寂しい”っていう時間帯を与えたらあかんねん。」
おじいちゃんが、そこで小さく笑う。
「そこまでか。」
「そこまで。だから、集団で来る意味ってあるし、集団を受ける意味もあるんよ。」
博子は、ちょっとだけ自分でもおかしくなって笑った。
こんなところまで考えてるキャバ嬢、たしかに我ながらちょっと変や。
でも、実際にそれで社長たちの満足度が上がってるなら、やっぱり意味はある。
「結果的に、言うたら、ハードルは高いけども。」
「うん。」
「チームで動くっていう形で、太いお金の使い方をしてくれるようになってくれるわけね。」
「なるほどなあ。」
おじいちゃんは、そこでしみじみと博子を見た。
「博子の解説、ほんま神がかってんな。」
博子は、その言葉にちょっと照れたように笑う。
「そこまで言われると、こそばいです。」
「いや、でもそうやで。」
「まあ、私もやりたくて全部話してるわけじゃないですけどね。」
「そらそうやろ。でも、そこまで見えてるから、あの東京の社長たちもハマるんやろな。」
博子は、少しだけ黙って、それから小さく頷いた。酒蔵を回って、鳥せいで食べて、黄桜で締めて。
今日のおじいちゃんとの伏見は、派手さはないけど、ちゃんと満足度があった。
そして、その満足度を、また別の誰かにも届けられる形に変えていく。
それが今の自分の仕事なんやろうな、と、博子はなんとなく思っていた。
黄桜ファクトリーを出て、二人で京都駅へ向かう足取りは、ゆっくりで、でもどこか軽かった。
平日の伏見の空気に、おじいちゃんの満足そうな顔と、自分の頭の中の座組の地図が、
きれいに重なっていた




