火曜日の晩、東京メイン社長が博子に電話報告する。メールのやり取りと奨学金肩代わりの決済完了等
火曜日の晩。博子が風呂上がりにだらだらしていたところへ、東京メイン社長から電話が入った。
画面を見て、博子は少し笑う。今日は完全オフやし、店にも出てへん。
だから、こういう電話もゆっくり取れる。
「もしもし。」
「あ、お疲れ。今大丈夫?」
「大丈夫ですよ。今日休みなんで、ゆっくり話せますよ。」
その返しに、向こうも少し嬉しそうに笑う。
「そらよかった。いやいや、メールもありがとうな。」
「いえいえ。こちらこそ、ちゃんとまとめていただいてありがとうございます。」
最初は、そんな軽い入りやった。
けれど、メイン社長はすぐに本題に入ってきた。
声の感じからして、もう報告したくてたまらん、という空気が出ている。
「でな、実際に、あれもう話動いてん。」
「え、早。」
ヒロコが素で笑う。
「もう役員決裁までおろして、奨学金の肩代わりの話と、それとノリでリファラル採用の
話もしたんや。」
「ええー。」
「そしたらさ、奨学金返済の話までしたら、友達の社長のところの子が来るようになってさ。」
「え、もう?」
「もう。」
メイン社長は、そこで少し呆れたみたいに笑った。
「で、その話で、そっちの社長にも電話いってさ。なんか変な感じになったわ。」
博子は、その情景が目に浮かんでしまって、思わず吹き出した。
「決裁、早いですね。」
「やろ?」
「いや、私もそんなすぐやると思ってなかったですよ。」
それはほんまやった。
月曜にちょっといい空気で会社に戻って、そこからお茶会して、若手に見せて、反応があって、
そこまではまだ想定できる。
でも、その日のうちに役員決裁まで話を持っていくとは、正直思っていなかった。
「いやでもさ。」
メイン社長が、少しだけ真面目なトーンになる。
「あんだけの数字バンバンバンって見せられて、やらん方があれかなと思って。せっかく
気づきでもらったから。」
「うん。」
「で、その証拠の紙としても使ったから。まあ、経費で落とせるかどうかは、
またちょっと聞いとくけども。でも、気づきがここまで決裁バーっといって、
しかも、お茶会した時に半分ぐらいの子が奨学金返してたから、ちょうどよかった。」
博子は、その言葉を聞いて、少し静かになる。うまくはまったんやな、と思う。
ただ自分が思いついて投げた球が、相手の会社の中でちゃんと必要なところに届いた。
それが電話越しでもわかるから、普通に嬉しい。
「それはよかったです。」
「うん。ほんま、ありがとうな。」
「いやいや。」
博子は、少し照れながら返した。
「私も私で、話聞いてもらったから、こうやってあんなにすぐやってくれたのは、
やっぱり社長がいい人やからですよ。」
向こうが少し笑う。
「なんやそれ。」
「ほんまですよ。普通、なかなかそこまでスパッと動かないですって。」
「まあ、そうかもしれんけど。」
「だから、そこは社長の良さやと思います。」
メイン社長は、その言い方にちょっと気分をよくしたのか、声がやわらかくなる。
「また遊びに来てくださいね。」
博子がそう言うと、向こうはすぐに大きめの声で返した。
「いや、もうほんま毎週でも遊びに来たいねん。」
博子は、そこで笑いながらも、ちゃんと釘を刺す。
「いや、さすがに毎週は無理ですし。」
「えー。」
「いやいやいや。月、ルールで決めたように、そんなにバチバチは。
遊びに来てほしいんですけども、座組を回すとなると、ちょっと準備いるんでね。」
「まあ、そうか。」
「個別でショートで、ライトプランで回すぐらいの感じやったら全然いいんですけどね。」
「それでもええな。」
「でしょ。」
向こうが、そこで少し甘えたみたいな口調になる。
「なんかでも、こうやって話して、博子ちゃんに褒められたりなんかするのも悪くないなあ。」
博子は、その一言にまた笑ってしまう。
「ほんとですか。」
「うん。」
「私なんか、ほんまちょろいですよ。」
「どこがやねん。」
二人でまた笑う。こういうふうに、仕事の話と、少し甘い雑談みたいなものが
混ざる感じが、今の二人にはちょうどよかった。
「まあ、また連絡するわ。」
「はい。」
「あ、あと、あれや。」
メイン社長が、少し思い出したように言う。
「多摩の、小山商店。あそこええな。」
「お、見てくれたんですか。」
「見た見た。ちょっとまた社長友達とと話して、見てみるわ。」
博子は、そこに少しだけ乗る。
「多分ね、あと、さきちゃんとアルカちゃんからも、なんか連絡いくと思うですよ。」
「ああ、そうなんや。」
「下田とか山梨とか、その辺の話してたんで。」
「なるほどな。」
「だから、また見といてください。」
「うん、なんかまた見とくわ。」
話は、そこでようやくやわらかく終わりに向かう。
制度の話も、会社の話も、遊びの話も、小山商店の話も、全部が混ざってるのに、なぜか自然やった。
電話を切る前に、メイン社長が最後に少しだけ低い声で言った。
「ほんま、今回はいろいろありがとうな。」
博子も、少しだけ真面目に返す。
「こちらこそです。またうまいこと遊びましょう。」
「うん。」
「おやすみなさい。」
「おやすみ。」
電話が切れて、部屋が静かになる。博子はスマホを見ながら、少しだけ息をついた。
休みの日の夜に、こうやって東京から電話が来て、会社の制度の話と遊びの話が一緒に進んでいく。
なんか変やなと思いながらも、その変さが、今は少し面白かった




