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東京メイン社長、火曜日夕方、部下のリファル採用を聞いて大阪で一緒に遊んでる社長に友人として連絡。情報共有。動きがえぐい

火曜日の夕方。社長室に戻って、ひとしきり部下とのやり取りが終わったあと、

東京メイン社長はふとスマホを手に取った。

さっきまで会社の中では、奨学金の肩代わりだの、リファラルだの、制度の話を

どんどん前に進めていた。

でも今からかける電話は、もうちょっと空気の違うものやった。

相手は、あの大阪京都遠征を一緒に回った、東京の社長三人組のうちの一人。

つまり、昨日一昨日、「いやー楽しかったな」と一緒に言いながら帰ってきた相手や。

コールがつながると、向こうはすぐに出た。

「おう、珍しいな。こんな時間に。」

メイン社長は、ちょっと笑いながら返す。

「いや、ちょっとな。昨日一昨日、楽しかったやろって話を、改めてしたくなって。」

向こうもすぐに笑う。

「何やねん、それ。いや、楽しかったで。ていうか、まだ余韻あるわ。」

「やろ。」

「お前なんか、最後の新幹線でもほぼずっと博子ちゃんの話してたやん。」

「してたな。」

「酒屋がどうこう、日本酒がどうこう、構造解説がどうこうって。」

「いや、そこはしゃあないやろ。」

二人で少し笑う。大阪京都のあの二日間が、もう共通言語になってる感じがある。

そこで少し和んでから、メイン社長は本題に入る。

「でな、ちょっとこれ、飲み友達として聞いてほしいんやけど。」

「おう。」

「今日、会社で奨学金の肩代わりの話と、リファラルの話を流してもう役員決裁したんよ。」

「ほう。」

「そしたら、リファラルの方で、もう何人か職務経歴書持ってきたやつがおって。」

向こうが少し驚く。

「早いな。」

「早いやろ。で、その中の一人が、お前んとこの会社の子やった。」

一瞬、電話の向こうが静かになる。変な間ではない。

ただ、ちゃんと情報を受け取って整理してる間やった。

「……マジで?」

「うん。いや、もちろん、だからどうこうって話やないで。普通に面接に回すだけやし、

俺が見たから採るとかそういう話でもない。ただ、ちょっとこれは一本言っといた方が

ええかなと思って。」

向こうが、小さく息を吐く。

「情報ありがとう。」

「うん。」

「でも、そっか。もうそこまで来てるんやな。」

「来てる。」

メイン社長は、そこで少し真面目になる。

「昨日一昨日行って、ああやって楽しかったやん。で、博子ちゃんの話も聞いて、

なんかこう、こっちの価値観ずらされた感じあったやろ。」

「あるある。」

「その流れで月曜会社行って、制度の話ちょっと出したら、もう反応出たんよ。」

向こうは苦笑いする。

「お前、影響受けすぎやねん。」

「受けるやろ、あれは。」

「まあ、受けるけど。」

「でな、奨学金の肩代わりって、やっぱり思ったより刺さるかもしれん。

しかも、リファラルにお祝い金つけたら、余計に動く。」

「なるほどな。」

「だから、お前んとこも、ちょっと探り入れた方がええかもよ。」

「探り。」

「うん。若いやつらに、今何が不満なんかとか。金なのか、将来不安なのか、福利厚生なのか。

なんかその辺聞いた上で、同じようなことやるかどうか考えてもええんちゃうかなって。」

電話の向こうで、少し考える気配がする。

「まあ、不満があって出てくるのはしゃあないわな。」

「せやな。」

「ってことはあれか。お前んとこが出した、奨学金とリファラルのセットが、

それなりに魅力的に見えたってことやな。」

「多分な。」

「そら、うちもやっといた方が、そういうリスクは減るかもしれへんわな。」

メイン社長は、そこを強く押すわけでもなく、でも軽くもせずに返した。

「まあ、ありやと思うで。昨日の今日で、こんだけ動いたから、ちょっと俺もびっくりしてるし。」

「お前、やっぱ自慢したかっただけちゃうん。」

「違う違う違う。」

メイン社長が笑う。

「自慢というより、いきなりやったから、一本電話しとこうかなと思ったんよ。お互い社長やけど、

ここは飲み友達としての情報共有や。」

「はいはい。」

「社員のことやから、別に囲い込みだのなんだのって話でもないしな。でも、

“うちに一人きてるぞ”って先に知ってた方が、お前も気持ち悪くないやろ。」

「それはたしかに。」

向こうもそこは素直に認める。

「その辺、ありがたいわ。」

「やろ。」

「でも、ちょっと衝撃やな。」

「俺もや。まさか昨日一昨日、大阪で遊んで、月曜会社で話して、火曜に履歴書来るとは

思ってへんかった。」

「スピード感えぐいな。」

「えぐい。」

二人とも、そこで少し笑う。

でもその笑いの奥で、向こうの社長もかなり真面目に考え始めてるのがわかる。

「ちょっと探り入れるわ。」

「うん。」

「で、もしほんまに奨学金の話とか、若いやつ刺さってるんやったら、うちも手

打たなあかんかもしれん。」

「その方がええと思う。」

「いやあ、お前、ほんま昨日まで大阪で飲んでたテンションのまま会社動かしてるやん。」

「せやねん。」

「やばいな。」

「やばいけど、なんか今はそれが正しい気もしてる。」

「まあ、ええことやしな。」

最後は、少し和らいだ空気に戻る。

「また飲みの時にでも詳しく聞かせてや。」

「うん、そうしよう。その時また、大阪の話もしよ。」

「まだするんかい。」

「するやろ。」

また二人で笑う。

切る前に、メイン社長は一応最後だけ念を押した。

「でもこれ、あくまで飲み友達としての会話やからな。社長同士の正式な話ちゃうで。」

「わかってるわかってる。」

「そこ大事やから。」

「はいはい。」

電話を切ったあと、メイン社長はしばらくスマホを机の上に置いたまま、にやっと笑った。

昨日一昨日、大阪京都で「楽しかったな」と言って帰ってきた話が、

もう火曜日には会社の採用の話と、友達の社長への電話にまでつながっている。

その流れが、なんかちょっとおかしかった。

「ほんま、あの子、変な球投げてくるよな。」

そう小さくつぶやいて、また博子の顔が頭に浮かぶ。

大阪で飲んだ話から、東京の会社の人の動きまで変わってる。

それが可笑しくて、でもちょっと気持ちよくて、メイン社長は一人でしばらく笑っていた。

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