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店内3セット目。今回の東京メイン社長達のメインイベント。博子のコンサル。鉄板コースがなぜ社長に刺さったかの解説

三セット目。卓の空気もだいぶ柔らかくなって、酒も一巡して、男三人も女二人も、

ちょうど「ここから何か始まってもおかしくない」ぐらいの温度になったところで、

博子が一つ咳払いをした。

「……ここからが本番です。」

その言い方に、みんな少し笑う。

いやいや、今までも十分本番みたいなもんやったやろ、という空気はある。

でも博子は、そのまま軽く手を振って続けた。

「ちょっと準備してきますね。」

一度だけ裏に回って、戻ってきた手には数枚の紙。

ただし、六人分ではない。

社長たちに見せるための、三、四枚ほどのワード資料やった。

タイトルだけ見て、男三人がもう笑う。

『企業経営に遊び心を。博子コンサル』

「なんじゃこりゃ。」

「どこまで用意してんねん。」

「お前、ほんま何者やねん。」

博子は、そのツッコミを受け流しながら、紙を社長たちの前にだけ置いていく。

アルカちゃんとさきちゃんは、横から覗き込みたそうにしてるけど、博子はそこでちゃんと線を引いた。

「一応、先に言っときますね。」

「うん。」

「なんで私指名の社長が、他の二人の社長に比べて、私に刺さってるのかっていう話。

そこに関しては、ノンペーパーです。」

「おお。」

「それをペーパーにしたら、ダサいんで。いけてないから。」

その言い方に、社長たちが一斉に吹き出す。

「そこは紙にせえへんのかい。」

「しません。」

「なんでやねん。」

「いや、だって、そこは人の感情の流れとか、空気の作り方とか、余白の残し方とか、

そういう話なんで。数字でまとめた瞬間に、全部しょぼくなるじゃないですか。」

メイン社長が、そこでやたら満足そうに頷く。

「それはわかる。」

「でしょ。」

「鉄板コースの話も、あれは紙やなくて口で聞きたい。」

「そういうことです。」

博子は、そこで一枚目の資料を軽く叩いた。

「ただし。」

場が少し締まる。

「前に社長から質問された、奨学金を肩代わりして新卒採用につなげるっていう話。

これに関しては、簡易の試算と、数字の裏付けっぽいものを数枚用意してます。」

他の二人の社長が、そこで資料を手に取る。

従業員規模。対象人数。年間コスト。採用改善。離職改善。

ざっくりした大中小ケース。

全部、税理士や人事が作るみたいな完璧な紙ではない。

でも、キャバクラの卓で出てくるには、十分すぎるぐらい整理されていた。

「ほんまに作ってきたんや。」

「作ってきました。」

「どこの会社経営者やねん。」

博子は、そこで少し笑った。

「いや、だから今回二時間、コンサルっていう建て付けなんで。」

「はいはい。」

「言うたら、店で使う分は接待交際費になると思うんですけど、

こういうのをもし継続的にやるなら、コンサルティングフィーっていう形に寄せて、

別の経費で落とせへんかなっていう提案でもあります。」

三人の社長が、一拍おいてからまた笑う。

「どこまで考えてんねん!」

「えぐいな、ほんま。」

「そこまで行くんか。」

でも、その笑いの奥で、ちゃんと資料をめくっている。

そこが大事やった。笑ってるけど、聞く気はある。

博子は、その反応を見て、そのまま落ち着いたトーンで続ける。

「だから、もし本当にやるならですけど。

委託契約みたいな形で、気づきを定期的に出すとか。

費用がこれぐらいかかって、効果がこれぐらいあって、差し引き利益がこれぐらい出ます、

みたいな。そういうのを何本か出せるようになったら、別で経費処理しやすいかなと。」

「お前、発想が夜の女ちゃうな。」

「夜の女ですけどね。」

「そこは言い切るんやな。」

女性陣二人も、横で半分あきれた顔をしている。

でも、今回ここで博子が何をしようとしてるのかは、なんとなくわかっている。

メイン社長との温度差。

その理由。

そして、そこからどうやって他の二人の熱を上げるか。

その流れの中に、この資料が差し込まれてる。

博子は、そこで一回紙から手を離した。

「というわけで。」

「うん。」

「まず前半は、ノンペーパーでいきます。」

「はいはい。」

「私の指名してもらっている社長が、なんでここまで刺さってるのか。そこを、

鉄板コースも含めて、私の言葉で解説します。」

メイン社長が、すぐに前のめりになる。

「そこよ。そこを聞きたいねん。」

「はい。で、逆に言うと、他のお二人は、まだそこまで刺さってない。

でも、それは悪いことじゃなくて、まだ見えてないだけの部分もあると思ってます。」

二人の社長も、そこで素直に頷く。

「それはある。」

「なんか、ええな、とは思ってるけど、なんでかまではまだ言えへん。」

「そういう状態やと思います。」

博子は、そこまで言ってから、少しだけ間を取った。

ここから先は、紙を読むんじゃない。

転生前の博之の記憶――もちろんそんなことは誰にも言わないし、女の子たちも知らない。

でも、その記憶の中にある“会社側の目線”とか、“設計するときの勘”とか、

“何が人を動かすか”みたいな感覚を、そのまま口で出していく。

表向きの設定すら、今日はほぼ使わない。

ここはもう、博子本人の言葉として通した方が強い。

「じゃあ、いきますね。」

卓の上には酒もある。灰皿もある。

でも、空気はもう完全に“聞く側”のそれになっていた。

紙はあくまで後半の補助や。

本番は今から始まる、ノンペーパーの解説の方やった。

博子は、六人の顔を一通り見てから、まずはメイン社長がなぜここまで刺さったのか、

その種明かしから静かに話し始めた。

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