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店内3セット目。博子の座組になぜ社長がドはまりしているか。その構造の前提条件を話す。銀座六本木と大阪の違い

博子は、紙を一度伏せて、先に自分の言葉だけで話し始めた。

ここはノンペーパーや。紙にした瞬間、野暮になる。

そういうことを、本人がいちばんよくわかっていた。

「まず、スタンスとしてですね。」

グラスの横に指を置いて、ゆっくり五人を見回す。

「最初に社長とお会いした時に、鉄板のコースを出したんですけれども、正直なところ、

さきちゃん、アルカちゃんとは差が出ることはわかってました。」

その一言に、女性陣二人が少しだけ笑う。

でも、博子はそのまま続ける。

「わかってたけど、会心の一撃を刺さないと、次につながらへんかなと思ったんです。

で、刺したら、思った以上に刺さった。まずそこが最初です。」

メイン社長が、そこで満足そうに頷く。

他の二人はまだ半分笑いながら、半分本気で聞いている。

「そもそも、なんで刺さると思ったか。」

博子は、そこで少しだけ声を低くした。

「東京で、銀座六本木で飲んでる、って聞いた時にピンときました。」

「ほう。」

「銀座六本木って、言ったらシャンパン札束で殴り倒す文化じゃないですか。」

社長たちが笑う。

「言い方。」

「いや、でもそうでしょ。顔面レベルは、私たちより二段階ぐらい上。

モデルさんもいるし、アイドル崩れもいる。それは全然、向こうの方が上やと思ってます。」

その言い切り方に、さきちゃんもアルカちゃんも妙に納得した顔をする。

変に張り合わない方が、この話は強い。

「でも、その代わり。」

博子は、そこで指を軽く立てた。

「社長達、お客様が女の子たちに、丁寧に接客されてないんじゃないか、っていう仮説が

あったんです。」

二人の社長が、少しだけ顔を見合わせる。

博子はその反応を見ながら、さらに言う。

「寿司、焼肉、その辺はやる。でも、女の子たちが自分で店を取ったり、動線考えたり、

“どうやったらこの人にまた来てもらえるか”まで考えてないんじゃないかなと。

要は、おもてなしの精神が弱い。インスタ映えとか、自分がどう見えるかの方に

寄ってるんじゃないかって。」

メイン社長が、そこで静かに笑う。

「その通りやな。」

「だからこそ、社長たちは大阪まで、わざわざ時間と手間をかけて来てるんじゃないかと

思ったんです。」

博子は、そこで少しだけ前のめりになる。

「さらに言うと、価格差も認識してました。」

「価格差。」

「はい。“いつもは百万使う”とか、そういう話があったとして。大阪に来ると、東京の銀座で

一セット十万使う感覚でいるなら、東京大阪往復の交通費と宿泊費つけて、それにプラス私らの店で

三セット、もうちょっと安い店やったら、オープンラストまでいて、ボトルまで出せるんです。」

他の二人の社長が、そこで「ああ」と声を漏らす。

数字で言われると、たしかにそうや。

東京で雑に消える十万が、大阪やと“遊びとして成立する金”になる。

その認識を、博子は最初から持っていた。

「つまり、私は、そういう人が普通に大阪に飲みに来ることを知ってたんです。

知ってた上で、丁寧に接客したら返ってくるかもしれんなって思ってました。」

「どこまで考えてるの。」

その言葉は、あきれ半分、感心半分で出た。

博子は、少しだけ肩をすくめた。

「いや、そこは考えますよ。だって、考えないと差せないから。」

少しだけ間ができる。その間を、博子はちゃんと取る。

「さらに言うなら。」

また一段、踏み込む。

「向こうで丁寧に接客されてないと、シャンパン開けて“ありがとう”で終わるんですよ。

ワンナイトとか、ひょっとしたらあったかもしれません。でも、それって一晩で終わる関係やし、

継続性がない。」

「……うん。」

「大阪やったら、立地的な意味で、その日のうちにどうの、っていうのは難しい。

だから私は、枕とか風俗系はしない。でも、丁寧に接客して、“また帰ってきてくれたら嬉しいな”

ぐらいの気持ちでやってる。その差し方を、ちゃんと作ろうと思ったんです。」

そこで、博子は少し笑った。

「しかも、ただ“美味しいご飯並べました”やないんですよ。」

メイン社長が、また頷く。

「そこやな。」

「そう。気づきなんです。」

ヒロコは、そこでゆっくりと言葉を区切る。

「大阪でもはじめに一回やらせてもらいましたよね。北極星の本店に行って、

神社行って、回るみたいな。観光地に載ってないようなところでやるっていうことに対する気づき。

“あ、こういう切り口あるんや”っていうのを、小さく何個も置いていく。」

他の二人の社長も、そこからはもう笑ってない。

ちゃんと聞いている。

「でも、それをもうちょっと深掘りできるのが京都だったんです。だから、京都でさせてもらった。

それで、私の中のフルコースが刺さった。」

博子は、そこで一度言葉を切って、みんなの顔を見た。

場の空気は、もう完全にこっちに寄っている。

だからこそ、次の一言をちゃんと置く。

「……というところでございますので。」

少しだけ口元を上げる。

「ここから、フルコースの話をさせてもらいますわ。」

そう言って、博子はようやく本題へ入った。

鉄板のコースは、ただの店紹介でも、ただの観光でもなかった。

“なぜ刺さったか”を自分でわかった上で、組んでいた。

その種明かしが、いよいよ始まろうとしていた。

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