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店内2セット目、六人でわいわい話した後、博子が東京で手頃なご飯屋さんを女性陣で提案してみるって遊びを考える

一時間ぐらい、六人でわいわい喋ったあと、博子がふっとグラスを置いて、

軽く話題を投げかけた。こういう時の博子は、わざと“会議です”みたいにしない。

でも、ちゃんと次につながる話を入れてくる。その加減がうまい。

「なんか、さっき京都でもちょっと話したんですけど。」

男三人の方を見る。メイン社長はもう乗る気満々やし、残り二人もさっきまでの

プリプリがだいぶ抜けてきて、ちょうど耳を傾けやすい空気になっていた。

「普段ご飯、社長さんたちがどこ行くかっていう話で。やっぱりこう、美味しいところは

高いじゃないですか。で、駅から近いところは味が雑やったり、チェーン店が多かったり。

なかなか、私らがこうやって色々組んでるみたいな“いい感じのところ”って、

普段の生活の中で聞かないなと思って。」

「それはそうやな。」

「ですよね。」

博子は、そこで少しだけ笑って続ける。

「で、私らも座組をいくつか回してる関係で、毎週毎週こうやって会えるわけじゃないじゃないですか。

だから、コミュニケーションの一環で、私たち女性陣が“一見面白そうな店”をピックアップして、

その中の一つを行ってもらう、みたいなのってどうですか?」

社長たちは一瞬だけ「ん?」という顔をしたあと、すぐに興味のある方へ傾いた。

「それ、面白いな。」

「でしょ?」

博子が笑う。

「で、その話をまたこっちに持ってきて、ブラブラ喋ってもいいし。外れてもね、

どうせ私らの責任ですから、ごめんなさいしますよ。」

その返しに、六人で笑いが起こる。

アルカちゃんが横からうまく乗る。

「それやったら、私らも店探すの楽しくないですか?」

「うん、確かに。」

社長の一人が、ちょっと身を乗り出す。

「普段どの辺で飲んでるんですか、って言われたら、まあ歌舞伎町か渋谷か、六本木に銀座、

この辺かな。」

「やっぱりそうなりますよね。」

「でもな、六本木銀座は、金出したらそら美味しい。けど“手頃な価格で”ってなると、東京むずいで。」

「むずいむずい。」

そこは男三人とも一斉に頷いた。

博子たちからすると、東京のそういう“金はあるけど気持ちよく着地しにくい”感じが、

逆に大阪京都の武器にもなっているわけやけど、今はそこを深掘りするより、“じゃあどう遊ぶか”

に寄せた方が場が回る。

「個人的にはね。」

博子が、少し考えながら言う。

「千葉の船橋とか柏とか、あの辺まで行けばあると思うんですよ。」

すかさず、別の社長が突っ込む。

「いやでも、あそこ高いし時間かかんねん。」

「たしかに。」

博子は、そのやり取りを面白そうに見ながら言った。

「でも、それがいいんじゃないですか。私らがどうでもいいボールを投げて、

それに社長たちが翻弄されながら美味しい店探すって、楽しそうじゃないですか。」

「どうでもいいボール言うな。」

「いや、でもそういうの、ちょっとおもろいやん。」

社長たちも笑う。

“翻弄される”という言い方が妙にしっくりきたのか、みんな少し嬉しそうや。

「さすがに仙台まで行けとは言いません。」

博子がそう言うと、即座に総ツッコミが入る。

「当たり前やろ!」

また笑いが起こる。

そこで今度はアルカちゃんが、少し遠慮がちに手を上げるみたいに口を開いた。

「私、下田とかありちゃうかなって思うんです。」

「下田?」

「特急とか出てるんちゃいます?伊豆の踊り子とかで終点まで行って、美味しい海の幸を食べるとか。」

「おお、ちょっと小旅行やな。」

「それはそれで、たしかになしではないかな。」

今度はさきちゃんも続ける。

「山梨も、なんかバスで二時間とかって聞くから、いいかもなって思いました。」

「山梨か。」

「ワインとか、ほうとうとか、いろいろありますし。」

社長たちも、だんだんその遊び方が面白くなってきてる顔をする。

ただ店を紹介されるんじゃない。

行き先を投げられて、自分らでちょっとした小旅行に変換していく。

その途中経過までまた持ち帰ってネタにする。たしかに、変な遊び方やけど、だからこそ覚える。

「宇都宮どう?」

誰かが思いつきで言う。

「餃子。一時間ぐらいですか?新幹線で。」

「そこまで行くと、またあれやけど。」

「八王子とか吉祥寺とかもいいんちゃいます?」

「いや、あの辺はサブカルの聖地みたいなところあるし、ドラマの店とかも結構あるから、

結構混んでんねん。」

「なるほどね。」

博子が、いかにも“宿題増えた”みたいな顔で笑う。

「それはあれですね。私たちも、提案しがいあるかもしれないですね。」

「どんだけ考えてんねん。」

「考えますよ。」

「でもルールは決めたいですね。」

博子は、そこもちゃんとまとめにいく。

「細かい縛りはあるかもしれないですけど。たとえば“東京二十三区内プラス一時間圏内まで”とか。

千葉って言ったって、房総半島まで行けってなったら三時間かかるやん、みたいな話になるから。」

「それはそうや。」

「だから、二十三区内とか、ちょい外ぐらいで。私たちが雑誌とかネットで見たような、

良さげなところを、食べログの情報とか送りながら、社長たちの生活の隙間に入っていったら、

またこっちに遊びに来る理由も増えるかもしれませんしね。」

その言い方に、男三人が一斉に笑う。

「生活の隙間に入る言うな。」

「でも、そういうことでしょ?」

「まあ、そうやな。」

そこからまた一時間ぐらい、六人でその話で盛り上がった。

東京の沿線事情。どこまでが“軽く行ける”で、どこからが“旅行”か。

外してもネタになる店。当たった時に持ち帰りたくなる店。

そういう、どうでもいいようで、でも生活にじわっと入り込む話ばかりやった。

博子は、喋りながら思っていた。

こういうのや。毎回、大きな座組を組んで、全力で刺すだけじゃしんどい。

でも、こうやって日常にちょっとだけ入って、店の話を投げて、社長たちがそれで勝手に

転がっていくなら、それも立派な関係性や。そして、それをまたここへ持ち帰って、酒の肴にする。

その循環ができたら、もうただの接待でも、ただの同伴でもない。

「どんだけ考えてんねん。」

最後にもう一回、社長の一人があきれたように笑った。

博子も笑い返す。

「そら、考えますよ。じゃないと、こんな遊び方にならないでしょ。」

六人の空気は、その頃にはもうかなり柔らかく、きれいに馴染んでいた。

話は雑談のようでいて、ちゃんと次の導線になっている。

その感じが、今日の座組のいちばんええところやった。

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