土曜日店内1セット目。東京メイン社長用の明日の伏見酒蔵見学ツアー全員で行きますか?
女性陣が着替えを終えて表に戻ってくると、さっきまで男三人でわいわいやっていた空気が、
ちょっとだけ妙に揃っている。で、すぐにわかった。
東京メイン社長が、博子が連れていった京都の店の話を、さっきまで延々していたのや。
「いや、博子ちゃんのお店、良かったな。」
戻ってきた瞬間にそう言われて、博子は少し笑う。
でも、その横で、他の二人の男性社長たちは、なんとなくプリプリしている。
あからさまに不機嫌というほどではないけど、「またお前だけか」みたいな顔をしてる。
その感じがちょっと面白くて、博子はあえて軽く振る。
「あそこ、いいでしょ。」
するとメイン社長が、待ってましたみたいに食いつく。
「いい。酒がえぐい。ほんで安い。なんやねんあれ。」
横の二人がすぐに入る。
「お前、その話ばっかりやんけ。」
「そら、あれだけ聞かされたら気になるわ。」
博子は、その空気を見て、少しだけ柔らかくまとめにかかる。
「いや、だからですよ。本当にまた機会があったら、そういうお店、みんなで行くとかも
ありですよね。」
二人の社長が、少しだけ顔を向ける。メイン社長も、ようやく“独り占め自慢”みたいな
モードを少し引っ込める。
「そのプランも、実は考えてるんです。」
博子がそう言うと、今度は女性陣の方も自然に頷く。
アルカちゃんもさきちゃんも、さっきのやり取りをだいたい察しているから、その流れにすっと乗れる。
「継続的に来てくれたら、やっぱり私たちも、毎度毎度、三者三様に店選び続けるのも、
結構しんどいなとは思ってて。」
博子が本音を混ぜると、男三人がそこで笑う。
「本音出たな。」
「出しますよ。」
「まあ、でもそれはそうやろな。」
「だから、グループで、っていうとちょっと言いすぎかもしれないですけど、
そんな感じで一緒にお店楽しめたら、会話もなんか中和されるというか、馴らされるというか。
共通の話題ができるから楽しいじゃないですか。」
その言い方に、二人の社長もようやく機嫌を直しはじめる。
「それはそうやな。」
「俺らも同じもん見てた方が、あとで喋りやすいしな。」
「やろ?」
博子は、そこをちゃんと拾う。
「しかも今日とかやったら、前半二時間、後半二時間で分けるとか、わけわからんこと言ってるから。」
「いや、ほんまわけわからん。」
「でも、それはそれでやるとして。」
そこで博子は、少しだけ先の話を投げる。
「明日、三つ別のコースで行くのもいいですし、それはまた別のお楽しみにして、
明日は伏見の酒蔵見学ツアーとかね。」
「伏見。」
「ええ。私、座組決まってるし。なんなら、ちょっと案内も一回したことあるんで。
それをみんなで体験するとかも、ありかもしれないですね。」
その一言に、さっきまでプリプリしてた二人の社長の顔が一気に変わる。
「あ、それもええな。」
「それやったら俺らも見れるやん。」
「見れます。」
六人の間に、また笑いが広がる。
その笑いの中で、博子は少しだけ肩をすくめた。
「どんだけ引き出しあんのって話ですけどね。」
「ほんまやで。」
「でも、その辺のところは、アルカちゃんもさきちゃんも体験してるし。
ある程度、補足説明みたいな形でもしてくれると思うんで。楽しいと思いますよ。」
アルカちゃんがそこで、うまく続ける。
「たしかに、あれは普通に楽しかったです。」
さきちゃんも頷く。
「うん。しかも、みんなで行く方が、後で感想言い合えるから、また別の面白さあります。」
博子は、それを聞いて少しだけ満足そうに笑った。
「そうなんですよ。
座組が回れば回るほど、女性陣の経験値が高まってしまって、解像度が高くなるんです。」
「解像度。」
「はい。最初は“なんか良かったですね”で終わってたのが、今やと“なんで良かったか”とか、
“どこが刺さったか”とか、“どこをもうちょい変えたらよかったか”まで見えるようになってくるんで。」
社長の一人が、それを聞いて呆れたように笑う。
「お前ら、もう普通の遊び方ちゃうな。」
「ちゃいます。」
博子が即答する。
「でも、その方が、何回も来ても飽きないんですよ。」
それは、たぶん本当やった。ただ酒飲んで、ただ店行って、ただ帰るだけの繰り返しやと、
いずれ飽きる。でも、こうやって“共通の体験”が増えて、そこに気づきが積み上がると、
ただの消費にはならない。そういう遊び方に、今この三人の社長たちは足を踏み入れつつある。
そんな話をしながら、一時間ぐらい、六人はわきあいあいとおしゃべりした。
酒の話。京都の店の話。伏見の話。明日の動き方の話。
誰がどこまでハマってるか、みたいな微妙な話も、今はもう笑いに変わっている。
さっきまで少しプリプリしていた二人の社長たちも、気づけばもう「今度その京都の店、
俺らも行きたい」みたいな顔になっていた。
そして女性陣三人もまた、その反応を見ながら、「ああ、こうやって全体の温度を
揃えていくんやな」と、少しずつ経験値を積んでいく。
夜の本編はまだまだ続く。
けれど、この一時間の雑談だけでも、今日この座組がだいぶ前に進んだことは、
六人ともなんとなくわかっていた。




