さきちゃんが女性陣の分析と自分の弱い部分を分析してさらしたことで社長の心を動かす。丁寧にやります。
イタリアンの店で前菜が出て、景色を横目にしながら、さきちゃんは少しだけ間を見ていた。
料理の皿がきれいで、店の空気も柔らかい。変に気取りすぎてないのに、ちゃんとしてる。
こういう店を選んでる時点で、もう“ただの同伴”じゃないよな、と社長の方もなんとなく感じている。
その空気ができたところで、さきちゃんは少しだけ本音に寄せた。
「今日の座組というか。」
「うん。」
「今、私ら三人チームで動いてるんですけど、東京の方々と接待する時に、
いちばん足引っ張ってる自覚あるの、私なんです。」
社長が、すぐに顔を上げる。
「え、でも全然楽しいで。」
「ありがとうございます。」
さきちゃんは、そこで少し苦笑いした。
嬉しい。嬉しいけど、それで全部を流したくはない。今の自分がどこにいるかは、
自分がいちばんわかってる。だからこそ、ここは曖昧にしたくなかった。
「でもね、役割の問題やって、博子ちゃんは解説してくれるんです。」
「役割。」
「うん。博子ちゃんは、座組とか設計が強いんです。あの子、どういう順番で見せたら刺さるか、
どこで余白作るか、どこで回収するか、その辺がめちゃくちゃ強い。」
社長が、そこで納得したように頷く。
「それは、なんとなくわかる。」
「で、アルカちゃんは、体験が強いんです。」
「体験。」
「そう。店の感じとか、ご飯の満足感とか、流れに乗せて、“来て良かったな”って思わせるのが
すごく上手い。なんていうんですかね、身体で覚えるタイプの強さっていうか。」
「へえ。」
「で、私はどっちかっていうと、色恋に近い形の売り方なんです。」
そこを言った瞬間、社長は少しだけ笑った。
「まあ、そういう感じはあるかもな。」
「ですよね。」
サキちゃんも、少しだけ笑う。でも、そのあとまたちゃんと続ける。
「ただ、東京の人たちって、結構そういう売り方も見てるじゃないですか。」
「見てるな。」
「しかも、顔面レベルがやっぱり二ランクぐらい上の世界で遊んでる社長さん方が、
大阪に遊びに来てるっていうところで。」
社長は、そこで思わず吹き出した。
「二ランク。」
「いや、ほんまに。だから、その刺さり方が、他の二つに比べたらちょっと薄いんです。
私の今までのやり方だけやと、“それ東京で見た”ってなりやすいというか。」
社長は、グラスを持ちながら、その言葉を面白そうに聞いている。
さきちゃんは、そこで少しだけ前のめりになる。
「だから今、博子ちゃんに鉄板のコース見せてもらって。」
「うん。」
「“あえてずらす”とか、“あえて整える”とか、そういう感覚を教えてもらってるんです。」
「ずらす。」
「そう。たとえば、大阪京都って観光名所いろいろあるじゃないですか。
でも、あえてメインを真正面から当てない。ちょっと余白を作って、そこに小さい気づきがある、
みたいな。」
「ほう。」
「それが、私の中では結構新鮮で。」
さきちゃんは、そこで少しだけ窓の外を見る。
自分でも、こんな話を店の外で社長相手にしているのが少し不思議やった。
でも今の流れなら、ちゃんと届く気がした。
「今までは、正面から刺しに行く方が多かったんです。わかりやすく喜んでもらうとか、
わかりやすく気を引くとか。でも、それって若い時にしか使えないなって思ってて。」
社長が、その一言で少し真面目な顔になる。
「なるほどな。」
「色恋って、武器ではあるんですけど、長くは使えないじゃないですか。」
「まあ、せやな。」
「だから、そうじゃない味を作りたいんです。なんか、ちょっと余白があって、
ちょっと気づきがあって、帰ってからも“あれよかったな”って思ってもらえるような。
そういうのを、いろんなところに散りばめられたらなっていう悩みはあります。」
そこで、さきちゃんは少し照れたように笑った。
自分でも、ここまで現状分析して喋るのはどうなんやろうと思う。
でも、黙ってるよりましや。
ちゃんと変わろうとしてることを、言葉にした方が、今の自分には似合う気がした。
社長は、しばらく黙ってから、やがて笑った。
「そこまで現状分析してるあんたも怖いわ。」
さきちゃんは、思わず吹き出した。
「怖いですか。」
「怖い。でも、ええ意味でな。」
「ほんまですか。」
「うん。なんか、ただ“頑張ります”じゃなくて、自分がどこ弱いか、どこが東京の人らに
通用しにくいか、ちゃんと見てるやん。」
「見ないと、きついんで。」
「いや、でもそれは強いで。」
さきちゃんは、その言葉に少しだけ救われる。
自分では“足引っ張ってる”と思ってる部分も、見方を変えれば“伸びしろ”になるのかもしれん。
そう思うと、ほんの少しだけ肩の力が抜けた。
「だからね。」
社長が、グラスを置きながら続ける。
「今の感じで十分おもろいし、そこにそういう味が乗ってきたら、そら一皮向けるやろな。」
「一皮。」
「なんか、“可愛いだけ”とか“色恋だけ”じゃなくて、会った後に、ああいう考え方する子やったな
って残るやん。それは強いと思う。」
さきちゃんは、そこで素直に頭を下げるみたいに笑った。
「ありがとうございます。」
ちょうどそのタイミングで、次の皿が運ばれてくる。
パスタ。香りが立って、景色の方にも少しだけ夜の色が混じってきている。
店の空気も、会話の温度も、だいぶ整ってきた。
さきちゃんは、その流れを壊さないように、自然に話を切り替えた。
「でもまあ、今日のところは、まず普通に楽しんでもらうのが一番です。」
「うん。」
「で、その上で、店前同伴にちゃんとつないでいけたらなと思ってます。」
社長は、その言い方に小さく笑う。
「結局そこやな。」
「そこです。」
「でも、今の話聞けただけでも、結構来た価値あったで。」
その言葉に、さきちゃんの顔が少しだけ明るくなる。
まだ刺さり切ってない。
でも、ちゃんと前に進んでいる。
そして、その手応えを持ったまま、店前同伴へつなげていく。それが今日の仕事や。
サキちゃんは、グラスを持ち直して、柔らかく笑った。
「ほな、ここからもう一段、丁寧にやります。」
社長も、それに合わせるようにグラスを上げた。
イタリアンの店での時間は、そうやって静かに熱を持ちながら、店前同伴へと
きれいにつながっていった。




