さきちゃんの視点。博子ちゃんペアの熱量との差が埋まってないのは認識してます。でもこの場を少しでも楽しんでいただけたら
さきちゃんもまた、社長と一緒に新大阪で落ち合っていた。
アルカちゃんと同じように、入り口は新大阪。けど、向かう先は違う。
こっちは新地のイタリアン。夜景というほど大げさじゃないけど、
ちょっと抜けた景色が見えて、店の雰囲気も柔らかい。
“いかにも接待です”ではなくて、でもちゃんとしてる。そういう店を、さきちゃんは今回選んでいた。
タクシーに乗り込んで、扉が閉まった瞬間、さきちゃんは少しだけ笑顔を深くして言う。
「こうやって来てくれてありがとうございます。めっちゃ嬉しいです。」
そう言いながら、軽く手に触れる。押しつけがましくはないけど、ちゃんと“嬉しい”が伝わる距離感や。
社長の方も、それに悪い気はしない。むしろ少し満足そうに笑う。
「いやいや、そうやって言ってくれると、こっちも来た甲斐あるで。」
「ほんまですか。」
「ほんまほんま。」
少しだけ間があってから、社長は、でも、という顔をした。変に気を使って隠す感じでもない。
むしろ、この人はそのへんを曖昧にせんタイプなんやろう。
「やけどまあ、あれやで。」
「はい。」
「東京で見たら、俺の友達の社長ほどは、まだ俺は刺さってない、っていうのが正直なところかな。」
その言葉を、さきちゃんは真正面から受ける。
嫌な顔はしない。そこで「そんなことないです」と言っても薄い。だから、まず認める。
「いや、それはわかってます。」
社長が少し目を細める。
「わかってるんや。」
「だって、先週来て、めちゃめちゃはしゃいでましたからね。」
それを言われて、社長は思わず笑う。
「そんなにやったか。」
「そんなにでした。」
タクシーは新大阪を離れて、街の灯りの中を滑っていく。
さきちゃんは、そのまま少しだけ本音を混ぜた。
「でもですよ。私らにそんな探りに来られたから、私らもどう返していいかわからなかったんですよ。」
「探り。」
「はい。結局、なんか変な感じになったじゃないですか。だから、最後の三セット目に、
私とアルカちゃんも混ぜてもらって、鉄板コースの話をしたんです。」
「何それ。」
「私らも体験したんで。そこで、お互いに“あれ良かったよね”“こここういう意味なんや”って
感想を言い合う、みたいなことをしてたんです。」
社長は、それを聞いて少しだけ前のめりになる。
「いや、俺、結局その鉄板コース味わってないねん。」
「そうなんですよね。」
「味わってないから、わからんねん。全然話、続けられてないねんけど。」
さきちゃんは、そこでくすっと笑った。
「いやいや、それを今日、解説するっていうのもメインイベントなんで。そこはまた
楽しみにしておいてください。」
「なるほどな。」
「でも、なんかこれから、こうやって社長さんとご飯食べに行く中で、私も“気づき”を出せたな、
みたいなのは、私ら女性陣の共通課題としてあるんです。」
社長は、その言葉を面白そうに聞いている。
「共通課題。」
「そう。今のところ、博子ちゃんが引っ張ってってくれて、私らが後ろからついていく、
みたいな感じなんで。」
「へえ。」
「で、言うたら、お友達の社長さんが一人でバンバン来るなら、それはそれで私ら
なんとも思わないんです。でも、お三方で結構動いてるっていうのが、最初のきっかけも
そうだったですし、多いから。その辺のところの熱量を、今日で埋めてもらえたらな、と思ってます。」
そこまで言われると、社長も少しだけ背筋を伸ばした。
「ちゃんと考えてるんやな。」
「考えますよ。だって、こっちも“なんとなく来てもらって、なんとなく終わり”やったら、
次につながらんし。」
タクシーはそのまま新地の方へ入っていく。
ネオンが増えて、人の気配も濃くなる。
やがて、イタリアンのあるビルの近くへ差しかかる。
「今日はイタリアン用意してるんで。」
「へえ。」
「前の店と違い、ちゃんと景色見えて、でも変に高飛車じゃないところ。」
店に入って、席に案内されると、窓際から少しだけ抜けた景色が見えた。
社長は、思わず素直に言う。
「景色いいやんけ。」
さきちゃんは、その反応にぱっと笑う。
「いいでしょう。」
「これはええな。」
「こういう店とかは、結構探しながらね、探り探りやってるんです。」
社長は、メニューを見ながら少し首をかしげる。
「探り探りって、あれか?なんか人気のコースとかあるんちゃうんか?」
さきちゃんは、そこをうまく受けた。
「ありますよ、もちろん。でも、東京でいろいろやってる方って、焼肉と寿司を
キャバ嬢にねだられてるイメージがあるんで。」
社長が吹き出した。
「まあ、なくはない。」
「でしょ。だから私らは、そこはやらんとこうって、一応握ってやってるんです。」
「へえ。」
「“どうせまた寿司やろ”“どうせまた焼肉やろ”って思われるの、なんか悔しいじゃないですか。」
「なるほどな。」
「せっかくなら、ちゃんと店選んでる感じとか、“あ、この子ら、ちゃんと考えてるんやな”って
いう方で残したいなって。」
社長は、その言い方にちょっと感心したように笑った。
「それはええな。」
「もちろん、焼肉も寿司も美味しいですけどね。」
「でも、そこ行かん方が、逆に個性出ると。」
「そういうことです。」
店員が前菜を運んできて、会話は少し柔らかく流れ始める。
さきちゃんとしても、最初の入りとしては悪くない。
相手はまだメイン社長ほど刺さってない。
でも、だからこそ“ちゃんと考えて来てる”を見せる意味がある。
景色。店のチョイス。焼肉寿司を外してる理由。
そういう小さな積み重ねが、夜の後半の“解説”に効いてくるはずや。
「今日は、まず普通に楽しく食べてもらって。」
さきちゃんがグラスを持ちながら言う。
「その上で、あとで博子ちゃんの話を聞いて、“ああ、なるほどな”ってなってくれたら、
一番きれいかなと思ってます。」
社長は、それにうなずいた。
「うん。その流れ、結構おもろそうや。」
さきちゃんは、その返事に少しだけほっとする。
まだ熱は高くない。でも、ちゃんと前に進んでる。それで十分や。
そう思いながら、さきちゃんはまた次の料理のタイミングを見て、静かに会話をつないでいった。




