アルカちゃんの同伴の店の動き方や同伴スタンスに社長が興味をもつ。銀座六本木と違い同伴してくれるだけでもありがたいんですよ
「とりあえず、あれですよ。」
おばんざいの店に入って、席に落ち着いて、最初のビールが来たところで、
アルカちゃんがメニューを見ながら顔を上げた。
「ブリのかま焼きか、ハマチのかま焼き、どっちがいいと思います?」
向かいに座る社長が、ちょっと意外そうな顔をする。
「いきなり、そこ聞くんや。」
「聞きますよ。」
アルカちゃんは、にこっと笑って続ける。
「私的には、ハマチの方が大きくて、お腹にたまるんで、まずはそっちかなと思ってて。
その間に、焼き時間かかるんで、天ぷらとか刺身とか、あとちょいちょいつまめるもの
頼んでいきましょうよ、って感じです。」
そう言いながら、メニューをめくる手が妙に小気味いい。迷いがない。
店員さんを呼ぶタイミングも、ビールを注ぐ流れも、つまみを散らす順番も、全部きれいに整っている。
社長は、ビールを受け取りながら、少し感心したように笑った。
「アルカちゃん、小気味いいな。みんなそんなチャキチャキしてるもんなんや。」
アルカちゃんは、そこですぐに首を振った。
「いやいや、そんなことはないです。」
「そうなん?」
「てか、店の座組み自体、私らはめちゃめちゃ考えますけど、本当に、同伴自体
行ってもらえない人も結構いるんです。」
「へえ。」
「売れてる売れてないの差が、めちゃくちゃ激しいから。まず、同伴する人って、
そんなにめちゃめちゃ多いわけじゃないんです。」
社長は、そこで少し眉を上げる。
「そうなんや。」
「そうです。で、なんなら、同伴してくれるなら、ちょっとお茶してからとか、
マクドしてから行くぐらいの女の子だったら、多分いますよ。」
「え、マジか。」
「マジです。」
社長は思わず笑ってしまう。
「東京で考えられへんな。」
アルカちゃんもつられて笑う。
「いや、だからそれぐらい、なんていうんですかね。東京でも、たぶん六本木銀座で飲んでる
女の子たちは行ってくれないかもしれない。でも、沿線とかになってくると、
また事情変わってくるかもしれませんよ。」
「なるほどな。」
「大阪って、結構、その辺の東京近郊のやつを、まるっと凝縮したような感じなんで。
いろんな温度感が、入り乱れてる感じなんです。」
店員さんが来て、アルカちゃんは自然に注文を入れていく。
ハマチのかま焼き。刺身。天ぷら。
ちょいつまめるものをいくつか。
その流れの中でも、会話は切れへん。
「だから、売れへん子は本当に売れへんし、売れる子は売れるというか、ちゃんと淡々と
積み上げてるし。」
「ふむふむ。」
「で、博子ちゃんみたいに、こううまい具合に……まあ、博子ちゃん完全にハズレ値です。」
社長が吹き出す。
「ハズレ値。」
「はい。あんな売れ方してる子、あんな地道に積み上げてる子、見たことないです。」
「そんなに。」
「普通、シャンパン商売なんですよ。でも、そうじゃなくて、丁寧に接客してるのが多分いいし。
私らもそれには共感してるんですけど。」
アルカちゃんは、そこで少しだけ肩をすくめる。
「でも、こっちはどっちかっていうと、ハズレ値じゃないんで。結構、雑な接待というか、
言うたら、お客さん任せの人がほとんどだと思います。」
「へえ。」
「だから、あんまりこう、飲食店事情を理解したり、説明できない子の方が多いと思いますよ。」
社長は、その言葉を聞いて、少しだけ満足そうに笑った。
「じゃあ、俺ら当たりの方引いたんやな。」
アルカちゃんは、ビールを注ぎ足しながら、素直に頷いた。
「そう思っていただけたら嬉しいです。」
「いや、ほんまにそうやと思うわ。」
「だから、その辺の店情報とかは、言ってくれたら私ら探しますし。そんな高いところじゃなくても、
安くていいところ、まだまだありますから。引き出しは、ほんまに。」
ちょうどそのタイミングで、揚がったばかりの天ぷらが運ばれてきた。
衣が軽くて、油っぽさがない。
社長はひと口食べて、すぐに顔を上げる。
「軽いな、これ。」
アルカちゃんの顔がぱっと明るくなる。
「でしょ!」
「いや、ちゃんと油使ってるわ。」
「もう、そう言ってもらえてめっちゃ嬉しいです。」
そこからまたビールを注ぎながら、話は少し柔らかい方へ流れていく。
「こうやってね、時々来てくれながらやってくれると、私らも嬉しいんですよ。」
社長は、グラスを持ったまま「うん」と頷く。
「やっぱりこう、色々……来てくれるだけでも、距離めっちゃあるじゃないですか。」
「あるな。」
「その距離の差を埋めるって、私らめっちゃ難しいと思ってるんです。今回たまたま
こうやって来てくれてるけど、来てもらうまでが、まず遠いし。」
「まあ、東京からやしな。」
「そうなんです。だから、来てくれるたびに、なんか気づきが残るというか。こんな観光地行って
良かったな、とか。こんな店あったな、とか。そういうのが少しでも残っていったらいいな、
とは思ってます。」
社長は、その言い方にちょっと感心したように笑う。
「その心がけが小気味いいわ。」
アルカちゃんは、少し照れたように笑って、またビールを注ぎ足した。
「いやいや。でも、そういうのって大事やと思うんです。一回の派手さより、また来てもええかな
って思ってもらえる方が。」
「なるほどな。」
「今日は、言うたら店前同伴にちゃんと繋げる日やと思ってるんで。まずはここで、
気分よく食べてもらえたら。」
社長は、そこで少しだけ真面目に頷いた。
「うん。十分ええ感じやで。」
ハマチのかま焼きが焼けるまでの間に、天ぷらと刺身をつまみ、ビールをやりながら、
会話はだらだらと、でも心地よく続いていく。変に大きな笑いが起こるわけではない。
でも、悪い沈黙もない。お互いの距離が、ちょっとずつ詰まっていくのがわかる。
アルカちゃんは、内心で少しだけほっとしていた。
最初に思っていた“及第点”は、たぶんもう出ている。
あとは、この気分をそのまま店前同伴につないで、夜の本編へ持っていけばいい。
店の空気も、ご飯の軽さも、ビールの流れも、ちょうどいい。
社長も、さっきまでの“様子見”の顔ではもうなくなっていた。
そう思うと、今日のこのタクシーから始まった一連の流れは、ちゃんと意味があったんやなと
アルカちゃんは思った。
そして、そのまま楽しく、おばんざいの店での時間は、店前同伴へときれいにつながっていった。




