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アルカちゃんの視点。新大阪で東京から来る社長達を待ち構える。博子ちゃんが頑張っている分、最低でも及第点はだしたい。

一方その頃、アルカちゃんは、自分のお客さんと二人でタクシーに乗り込んでいた。

新大阪の駅で落ち合った時は、正直ちょっとだけ緊張していた。

向こうも向こうで、今回の流れをどこまで楽しみにしてくれてるのか、

まだ読み切れへんところがある。でも、博子ちゃんが京都でメイン社長をちゃんと

刺しにいってるのはわかってる。やったら、こっちはこっちで、まずは及第点をちゃんと出す。

そういう気持ちでいこうと、駅でさきちゃんとも確認していた。

タクシーが動き出して、少しだけ間が空いたあと、アルカちゃんが先に口を開いた。

「今日は本当に来てくれてありがとうございます。」

お客さんは、少し笑って肩をすくめる。

「いやいや。こっちこそやで。なんかちゃんと迎えに来てくれるんやな。」

「そこはちゃんとします。」

アルカちゃんは、そこで少しだけ言葉を選んだ。

変に“まだハマってないですよね”みたいな言い方をすると角が立つ。

でも、今の温度感をわかってないふりをするのも違う。その真ん中を、丁寧に通したかった。

「たぶん、メイン社長みたいな熱量と、今のお二人の熱量って、まだちょっと違うと思うんです。」

お客さんは、その言い方に少しだけ眉を上げる。でも、嫌な顔はしない。

アルカちゃんはそのまま続けた。

「でも、それは私らもわかってるんで。博子ちゃんが今、ぐっと引っ張ってくれてるのは

あるんですけど、私らも、その差をちゃんと埋められるようにしたいなと思ってるんです。」

「埋める。」

「はい。博子ちゃんからも、いろいろ気づきはもらってるし、店のチョイスも、

刺さり方も、ちょいちょい工夫していこうって三人で話してるんです。だから、まだ途中では

あるんですけど、その辺のところもちょっと多めに見てもらいながら、やっていけたらなと

思ってます。」

そこまで言うと、社長はふっと笑った。

その笑い方が、ちょっと柔らかくて、アルカちゃんは少しだけ安心する。

「そこまで丁寧に言われたらな。ありやな。」

「ほんまですか。」

「うん。いや、こっちはこっちで、六本木銀座で結局遊んだんやけど、ほんまに

遊び方ひどかってん。」

アルカちゃんは、その話が来た時点で、少しだけ内心で“きた”と思った。

この前から何度も出てくる話やけど、やっぱり東京の夜が、今のこの流れを作っている。

「そんなにですか。」

「そんなに。もう、なんやこれ、って感じ。だから今、大阪に遊びに行こうや、みたいな話に

なってて。」

「なるほど。」

「で、温度感が二段階ぐらい上なんが、博子ちゃんと一緒に行ってる友達な。それはもう認める。

やけど、俺らもその二段階上に、ちょっと追いつくために来てるしさ。」

アルカちゃんは、その言葉をちゃんと受け止めるように頷いた。

「それ聞けるの、めっちゃありがたいです。」

「せっかくやから、楽しく過ごせて、なんか気づきもあればええなと思ってるんよ。

やから、よろしく頼むわ。」

そこまで言われると、アルカちゃんの中でも力み方が変わる。

“絶対ハマらせなあかん”から、“ちゃんと楽しく過ごしてもらって、

その中で少しでも気づきが残ればええ”に変わる。

その方が、自分らしく喋れる。

「ありがとうございます。今日は、そういう意味でも、落ち着いた感じでちゃんとやろうと

思ってます。」

「落ち着いた感じ。」

「はい。ご飯も、変に尖りすぎず、ちゃんと美味しいところ選んでるんで。」

「ほう。」

「今日はおばんざいの店です。派手すぎへんけど、ちゃんとしてて、話しながら

食べるにはちょうどいい感じの。」

お客さんは、少し窓の外を見ながら笑う。

「それはそれでええな。ずっと変化球ばっかり投げられても疲れるしな。」

「ですよね。」

「でも、お前ら三人って、ほんま不思議やな。」

「何がですか。」

「普通、こんなふうに連携せんやろ。」

アルカちゃんは、その問いに、ちょっとだけ照れたように笑った。

「せんと思います。だいたい一人一人、個人事業主みたいなもんなんで。」

「やろ。」

「でも、私らは今、もう何組かこういう流れで回してるから。なんか、三人でやる方が

逆に自然になってきてるんです。」

「へえ。」

「だから、今日も“私だけ頑張る”とかじゃなくて、全体でちゃんと次につながるように、

っていう感じで考えてます。」

タクシーが、ゆるく店の近くへ入っていく。

少し落ち着いた通りで、派手なネオンの感じではない。

お客さんは、車窓を見ながら小さく言った。

「なんか、こういう時点で東京とちゃうな。」

アルカちゃんは、その一言にちょっと笑う。

「そうなんです。だから、そこも含めて楽しんでもらえたらなって。」

やがてタクシーが止まり、アルカちゃんが先に降りる。

ドアのところで待ちながら、もう一度だけ、軽く頭を下げた。

「今日は、まず及第点、ちゃんと出せるようにやります。」

お客さんが、その言い方に声を出して笑う。

「よし、そこ見せてもらおうか。」

アルカちゃんも笑って頷く。

さっきまでの不安は、まだゼロではない。

でも、それでも大丈夫やと思えた。

少なくとも、向こうはちゃんと“追いつきに来てる”と言ってくれた。

やったら、こっちはこっちで、丁寧に受けて、ちゃんと楽しい時間にすればええ。

「ほな、行きましょう。」

そう言って、アルカちゃんはお客さんをおばんざいの店へと案内した。

土曜日の座組は、京都と新大阪から、それぞれ静かに熱を上げながら動き始めていた。

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