7月3週目金曜日。税理士先生との座組反省会を兼ねた同伴。土日の東京メイン社長の同伴店候補を投げる
金曜日。今日は税理士先生との反省会も兼ねた同伴。
博子は昼過ぎから軽く段取りを考えていた。
この前の流れを踏まえると、変に気張りすぎず、それでいて「ちゃんと店を知ってる感」
は出したい。今日は、かま焼きと天ぷらがうまい店にしようかなと思っていた。
魚の火入れがいい店で、天ぷらも雑じゃない。そういう“ちゃんとしてるけど肩肘張らん”店が、
税理士先生には合う。
「出汁のきいた煮びたしと、かま焼きと、天ぷらやな……」
ひとりでそんなことを呟きながら、博子はスマホを取った。
で、それとは別件で、どうしても今日のうちに一本入れておかなあかん相手がいる。
次の日、土日で東京のメイン社長たちが来る。
だから、その前に一回、同伴のご飯場所についてメールしておく。
文面はこうや。
「明日の判断ですけども、同伴のご飯の場所を、
一、北新地で雰囲気のいい店にするか。
二、西中島にいい店があるので、そこで食べてからホテルに向かって、荷物を置いて店に行くか。
三、京都で雰囲気のある古民家で飲むか。
四、京都でひたすらコスパのいい、めっちゃ日本酒揃ってる店にするか。
どれがいいですか?」
一本一本、相手に合わせて少し言い回しを変えながら送る。
ここはもう、こういうふうに“選ばせる”のがいい。
全部こっちで決めきる日もあるけど、今回は明日から二日がかりや。
最初の入口ぐらいは、向こうに選ばせた方が熱も上がる。
そうこうしてるうちに、税理士先生との待ち合わせ時間になった。
先生は相変わらず、ちょっとだけ嬉しそうな顔で現れる。
こういう人はええ。ガツガツしてないけど、ちゃんと来る。そういう客は長い。
店に向かって歩きながら、先生がさっそく口を開く。
「この前の座組、やっぱり良かったで。」
「ほんまですか。」
「うん。弁護士の先生も結構喜んでくれたし、定期的にやろうやって話になった。」
博子はそれを聞いて、少しだけ肩の力が抜けた。
「そうなってくれたら、こっちもありがたいです。」
「博子ちゃんとこにも通って、近況報告も聞けるしな。」
先生はそう言って笑う。
その笑い方に、もうだいぶこの人の中で“店で遊ぶ”以上の意味ができてるのが見える。
「やっぱあれやな。土日の東京からの社長たちとの座組みとかの話も面白いし。」
「そんなにですか。」
「面白いよ。なんか事件がとにかく起こってるからええ、みたいな。」
博子は吹き出した。
「別に事件起こしたくて起こしてるわけでもなくって。」
「せやけど、毎回なんかあるやん。」
「まあ、ちょっとした喋り場所として、私を選んでくれてる方がいるってことですね。
座組を組みたがってる人が結構いて、みたいな。」
店に入って、まずは軽く刺し身と煮びたしをつまみながら始める。
税理士先生は、こういう“ちゃんと飯がうまい店”の時点で、だいぶ機嫌がいい。
博子としても、その反応を見ると少し安心する。
「だからそういう意味で、接待ゴルフでいろいろ苦労されてる方からしたら、
こうやって回すってこと自体、価値あるんだなって思います。」
「あるある。」
先生は即答やった。
「いや、ほんまやで。あれ考えるのに結構時間かかったりするやん。」
「かかりますよね。」
「気ぃも使うしな。金払って気ぃ使って、わけわからんやん。」
博子は、そこにうなずく。
先生みたいな人らは、接待のしんどさをちゃんと知ってる。
だから、博子の“回す”という仕事の価値も見えるんやろう。
先生はさらに続けた。
「接待ゴルフで言ったら、なんか一緒にキャバ嬢ついてくれるっていうのはあるで。
でも、あの子ら何も考えへんしな。」
「まあ、そういう子多いですね。」
「だから、その方が、こうやって酒蔵行ってくれたりした方が、会話が繋がるというか。
だってあれやで、キャバ嬢がゴルフ行ったからって、ゴルフのお手当もらってやな、
また俺はキャバクラに行って、そこで女の子をご機嫌にせなあかんわけやんか。
外で遊んでもらうためにみたいな。わけわからんやろ。」
博子は笑いながらも、その言葉の重みはちゃんと受け取っていた。
「その点、博子ちゃんが色々仕切ってくれるのは、マジでいい。」
「ありがとうございます。」
「で、あるやろ?酒蔵だけじゃなくて、何個かあるんやろ、プランが。」
「ありますあります。任してください。」
「ほんまか。」
「ていうか、なかったら考えますし。」
そう言うと、先生は少し目を細めた。
「それがええねん。
“あるもんから選ぶ”だけやなくて、なかったら組むっていうのが。」
天ぷらが来て、魚のかまが運ばれてきて、話はまた少しずつ土日の方へ流れていく。
博子の頭の中では、送ったメールの返事も気になっていた。
北新地か。西中島か。京都の古民家か。京都のコスパか。
どれを選ばれても、たぶん回せる。でも、その入口で向こうの温度を測るのも、
今のヒロコにとっては大事な仕事やった。
先生は酒をひと口やってから、また言う。
「ほんま、店いらんよな。座組だけでええもんな。」
博子は、少し笑って返した。
「そうなんですよ。店というより、流れ握る方が大事です。」
「それや、それ。」
金曜日の同伴は、派手ではない。
でも、こういう夜があるから、土日の濃い座組もちゃんと回る。
博子は、先生の前でゆっくり酒を飲みながら、頭の片隅ではもう次の二日分の流れを組み始めていた。




