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7月3週目木曜日。土日の東京3人社長向けに資料を作成。奨学金返済肩代わりの費用対効果

木曜日。博子は昼過ぎから、家でパソコンを開いていた。

土日に東京の社長たちが来る。しかも今回は、ただ遊んで終わりじゃなくて、

「コンサルをする」という建て付けまで話してしまっている。だったら、口先だけやなく、

ちゃんと形があった方がええ。そう思って、ワードで三枚ものの文章を作ろうとしていた。

題名は、少しだけふざけている。

「会社に遊び心を。博子コンサルティング」。

こういうのは、真面目すぎてもあかんし、軽すぎてもあかん。キャバクラで出す紙やから、

ちょっと遊び心があった方がいい。でも中身はちゃんとしてる。そのバランスを狙っている。

内容は、奨学金肩代わり制度について。

最近の学生は、奨学金を借りてる人が五割ぐらいいる。で、借りた後に返すのが結構しんどい。

月一万や一万五千でも、若い子からしたら全然違う。そこに対して、会社が支援すると採用や

定着に効くんじゃないか、という話。しかも学生支援機構の代理返還みたいな仕組みもあって、

導入しやすくなってきている。だから「若手支援」と「会社の利益」がちゃんと繋がるんじゃないか、

という流れで一枚目を書く。

博子は画面を見ながら、小さく独り言を言う。

「ChatGPTで叩いたんやけどな……。」

叩いた。叩いたけど、それだけでは足りない。

今の時代背景、奨学金借りてる率、返済負担、制度の流れ、その辺の要素はChatGPTが

すぐに整えてくれる。けど、「これを社長がキャバクラで読む紙にどう落とすか」とか、

「どこまで真面目にして、どこから遊びに見せるか」みたいな、そういう整え方は、

まだ自分の仕事やなと思う。

二枚目はシミュレーション。

従業員千人、新卒三十人、三年離職率三割。そこに奨学金肩代わり制度を入れたら、

会社としていくらかかって、いくらぐらい改善余地があるのか。

小・中・大でケースを分けて、効果マイナス費用が、年間一千万から三千万ぐらい出ますよ、

という形にまとめる。もちろん、かなり甘めに置いている。でも、それでいい。これは税務署に

出す紙じゃなくて、社長に「これ、面白いな」と思わせる紙や。最初のとっかかりとしては、

それぐらいがちょうどいい。

「小で一千万、中で二千万、大で三千万……。」

声に出して確認してから、数字を整える。

このへんの叩き台はもうある。博子の手持ちメモにも残しているし、会話で何度か回した。

だから、あとは見た目を“資料”にするだけや。そして三枚目には、注意書きと締めを入れる。

会社ごとに従業員規模も採用数も違うから、あくまでこれは前提条件を置いた仮説です、

個別にご検討ください、と。

それでも、若手の奨学金負担を軽くすることが、採用と定着と会社の空気を良くする方向に効くのは間違いないと思います、というところまで持っていく。最後は少しだけ柔らかく締める。

「まだまだ粗い試算ですので、その点はご容赦ください。よろしくお願いいたします。」

そこまで打ってから、博子は一回椅子にもたれた。

紙としては、だいぶそれっぽくなった。

しかも、この紙を作る意味は一つじゃない。

もちろん、東京の社長たちに「ちゃんと考えてる」と見せるためでもある。

でももう一つ、かなり大事な狙いがある。

それは、これを平たく“交際費”ではなく、“コンサルティング費”として吸収できる形にすることや。

酒を飲んで、同伴して、店に来て、楽しかったですね、だけやと、どうしてもただの遊びになる。

でも、紙があって、試算があって、制度提案があって、後日談まで拾うなら、それはもう

「気づきの提供」であり、コンサルティングに近い。もちろん、全部が全部そうなるわけじゃない。

けど、「これは飲み代とは別です」と言いやすくなるだけで、社長側も動きやすい。

経理に落としやすい。そこが大きい。

「交際費で終わらせへんって、大事やねん。」

博子はそう呟いて、もう一回資料を見返した。

自分でも、こういうことを夜の仕事の延長で考えてるのが、ちょっとおかしいなとは思う。

でも、最近はもう、“ただのキャバ嬢”ではしんどい。座組を回して、後日談を回収して、

社長たちが持ち帰れるものを作って。そういうふうにしていかないと、今の流れは続かへん。

だからこそ、この三枚はいる。

土日にこれを出す。

社長たちはたぶん、笑いながら読む。

でも、その笑いのあとに、「これ会社で回してみるか」と一人でも思ってくれたら勝ちや。

そして、その時に「飲み代とは別に、これはコンサル料で」と言える土台になるなら、なお良い。

博子は最後にファイル名をつけた。

「奨学金返済支援_ヒロココンサル_v1」。完全版ではない。まだ叩き台。

でも、最初の一発としては十分やった。

木曜日の午後、博子はそうやって、土日の遊びのための紙であり、同時に、遊びを少し

仕事に寄せるための紙でもある三枚ものを、静かに仕上げていった。

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