東京メイン社長との土日のダイジェストを語る。博子は盛りながら話をし、聞き役に回る先生
「博子さん、話し続けてください。」
カマ焼きをつつきながら、弁護士先生がにやっと笑う。
博子は「はいはい」と軽く返して、土日の続きをほどくみたいに話し始めた。
「えっとですね。今回は“東京から一人抜け出して来る”っていう、
ちょっと変な入り方やったんです。」
先生が眉を上げる。
「抜け出した?」
「そう。メインの社長が、仲間二人置いて一人で新大阪に来はったんですよ。
もう着いた時点でテンションが小学生みたいで。『悪いことしてるみたいで楽しい』って、
本人が言うてました。」
「……ややこしい社長やな。」
「ややこしいけど、刺さり方が素直なんです。で、新大阪で出迎えて、
まず北新地のホテルに荷物置かせて、そこから“本番”です。」
博子はグラスを持って、少し間を作る。
この「間」が、先生の耳を前のめりにするのを知ってる。
「梅田に出て、環状線で天満を一駅だけ乗るんです。ここ、
私の中で“驚かせる導線”なんですよ。」
「天満で驚かす、って何やねん。」
「先生、たぶん行ったことありますよね。鶏と芋焼酎の立ち飲み屋。」
先生は頷く。
「ああ、あの辺か。雰囲気ええよな。」
「そうです。で、そこに行くまでの道に、“変な看板”いっぱいあるじゃないですか。
日本酒一杯三円とか、ハイボール五十円とか、マグロ一皿三円とか。あれ、
行く店ちゃうけど、横目で見せるだけで社長の顔が変わるんです。」
先生が笑う。
「そら変わるわ。東京のええとこで飲んでる人やろ。」
「ほんまに“世界が違う”って顔してました。びっくり通り越して、ちょっと呆れてましたもん。
で、私も言うんです。“西成とか新世界に比べたら、ここ北のマシな方ですよ”って。」
「言い方。」
「でも、そう言うと社長が余計に笑うんですよ。『マシな方でこれか』って。」
カマ焼きを一口食べた先生が、箸を止める。
「で、肝心の店はどうやったん?」
「店入ったら、芋焼酎のラインナップでまた一回驚かして。黒霧だけと思ってた社長に、
フルーティー系とか、香りの違いとか、ざっと説明して。で、鶏刺しとか炭火焼とか、
柚子胡椒で食べさせて……もうご満悦でした。」
先生が「ええなあ」と小さく言う。
「で、その社長、前回の鴨川の話の続きで、帰ってすぐ会社で“お茶会”やったらしいんですよ。」
「お茶会?」
「お菓子買って、1時間だけ話聞く会、みたいな。本人いわく、ロジカルロジカルで
押し切ってたのが、逆に部下を苦しめてたって気づいたらしくて。
“目から鱗落ちた”って言ってました。」
先生は少し真面目な顔になる。
「行動に移せる社長は強いな。気づいて終わりじゃない。実行するやつは、カリスマある。」
「私もそう思いました。だから、今回の社長は“決断も移動も早い”んですよ。来るのも早いし、
刺さるのも早い。良くも悪くも。」
博子はそこで、少し苦笑いを混ぜた。
「ただ、面倒なこともあって。社長が“内緒で来てる”って顔してるから、
仲間二人が察してもうたみたいで。結局、アルカちゃんとさきちゃんに探り入れてきて、
二人がちょっと困ってました。」
先生が頷く。
「あるよな。普段一緒に遊んでるやつが、急に抜けがけしたら、そら気になる。
嫉妬ってほどじゃなくても、変な空気になる。」
「そうなんです。だからその辺の調整がちょっと面倒で。店で最後に合流してもらって、
ちゃんと“場”を作って、社長にも“ほら、チーム戦です”って見せときました。」
先生が笑う。
「抜けがけ社長を矯正する会やな。」
「まさにそれです。」
博子は一口ビールを飲んで、話を締めに向かわせる。
「で、ここからが本題で。今週また東京から“横柄な社長三人”が来るんです。
『最強カード見せろ』みたいなノリで。だから、その前に私、木曜日にアルカちゃんとサキちゃんに
“鉄板コースの要素”をシェアしたんです。講義というか、レクというか。」
先生が目を丸くする。
「博子さん、教育までしてるんですか?」
博子は肩をすくめた。
「せざるを得ないんですよ。私だけ100点で、二人が60点やったら、
チームが崩れる。次が続かない。社長同士は帰りの新幹線で勝手に比較するから、
差が出るほどややこしくなる。」
「なるほどな……。」
先生が箸を置いて、少し感心した顔をする。
「普通、キャバ嬢って“自分だけ売れる”方向に行きがちやけど。博子さんは、
チームの設計から逆算してる。そこが、社長連中に刺さる理由でもあるんでしょうね。」
博子は少しだけ照れて、カマ焼きをほぐした。
「刺さる人には刺さる、ってやつです。……でも先生、これ、私の仕事が増えるだけなんで、
あんまり褒めすぎんといてください。」
先生が笑う。
「いや、褒めるわ。だってそれ、遊びに見えて、完全に“運用”やもん。」
博子も笑った。
「運用。……たしかに。座組って、結局それなんですよね。」




