月曜日。弁護士先生と同伴の日。最近の近況を聞くはずが、博子の座組に先生は興味津々
新地の釜焼きがうまい店で、弁護士先生と待ち合わせをした。
店の前で顔を合わせた瞬間、先生が汗をぬぐいながら笑う。
「いやぁ、7月入って暑くなりましたね。」
「ほんまですね。もう7月って、早すぎません?」
そんな他愛ない会話をしながら暖簾をくぐる。
店の中は涼しくて、炭の匂いが落ち着く。こういう空気だけで、ちょっと肩が下りる。
席に通されて、まずはビール。グラスが来たタイミングで博子が手早く注ぐと、
先生が軽く目を細めた。
「……こういうの、やっぱええな。」
博子は笑って、まずは軽く探りを入れる。
「先生、調子どうですか?」
先生はビールを一口飲んで、ふうっと息を吐く。
「相変わらず忙しいですよ。忙しいけど……こうやって定期的に会えるから、
息抜きにはなってます。正直、それがないとキツいです。」
「ですよねえ。」
博子は相槌を打ちながら、最近よく聞く話を重ねる。
「いろんな人と喋ってると、定期的な趣味とか遊びに時間使える人って
意外と少ないみたいで。みんな仕事に飲まれて、気づいたら週が終わってるって言いますもん。」
先生は苦笑いした。
「まさにそれ。休日だって、寝て終わること多いですしね。……ほんまは、休日に
遊べたらもっと変わるんでしょうけど。」
「いやいやいや、それ言われても困りますって。」
博子が笑って返すと、先生は「冗談ですよ」と言いながらも、目がちょっと本気や。
「でも、もし……今週、火曜か木曜、少し時間作れません?ランチとか。」
博子は一瞬だけ考えてから、軽く首を傾けた。
「うーん……先生なら、気楽やから。火曜か木曜なら、ランチぐらいは行けるかもです。」
その瞬間、先生の顔がぱっと明るくなる。
「え、マジですか。」
「マジです。まあ、置いといて。今日はカマ焼き、ちゃんと食べましょ。」
博子がメニューを見ながら言うと、先生も気持ちを切り替えたように頷く。
ほどなくして、カマ焼きが運ばれてくる。皮がパリッとして、身がふっくらしてる。
箸を入れた瞬間、湯気が立って、香りがぶわっと上がる。
「やっぱり、こういう王道って裏切らへんですね。」
「せやろ。博子さん、こういう店選ぶとき外さんよな。」
先生の口調が少し柔らかくなる。
博子は、その“柔らかくなったタイミング”を見逃さずに、話題を戻す。
「で、先生。土日、私やっぱ大変やったって顔してました?」
先生はニヤッと笑う。
「してましたよ。絶対、密度濃かったでしょ。土日。」
「ああ……濃かったです。濃すぎて、日曜終わった時点で、脳みそ一回リセットしたくなりました。」
先生が身を乗り出す。
「ほら。そこ聞きたい。雑味。成功した話だけじゃなくて、しんどかったとこ。」
博子はビールを一口飲んで、少しだけ間を作った。
この“間”が、話をちゃんと料理してくれる。
「まず、東京の社長3人組が来はったんですよ。前に一回、
3対3で回したことがあって、今回はその続きみたいな感じやったんですけど……」
「3対3、またやったんや。」
「そう。で、土曜は店の同伴はそれぞれ別で取って、夜に合流して反省会。
ここまでは、まあ形ができてきてるんです。」
先生が頷く。もう映像が浮かんでる顔や。
「問題は日曜なんですよ。日曜は“京都で別行動”っていう、ちょっと攻めた形にしたんです。」
「別行動。怖いな。」
「怖いです。正直。差が出るから。」
博子はそこで、ほんの少し笑う。
「で、私、迷ったんです。日曜、私だけ鉄板のコース出したら刺さりすぎるって分かってたから。
チーム戦としては、バランス崩れる可能性あるし。」
先生が即座に食いつく。
「でも出したんですね?」
「出しました。……出したら、やっぱ刺さりました。」
「ですよね。」
先生の「ですよね」が妙に嬉しい。
博子は続ける。
「刺さった結果、メインの社長が“次の週に一人で来る”って言い出して。
まだ1週間経ってないのに、勝手に来ました。」
先生が吹き出す。
「早いな!それ、もう“刺さり方”やばいですよ。」
「やばいです。しかもその人、銀座とか六本木の遊びを一回見直すって言い出して、
会社でお菓子会みたいなん始めたらしいです。」
「え、影響出すぎやろ。」
「出すぎです。だから私も焦るんですよ。嬉しいけど、燃え方が急すぎる。」
先生は箸を置いて、ちょっと真面目な顔になる。
「それ、博子さんの“座組”が、遊び超えてるってことですよね。もう半分コンサルみたいな。」
「そう言われました。本人が。」
「……僕、そのコンサル受けてないんですけど?」
先生がわざと拗ねた顔をするから、博子は笑ってしまう。
「先生はね、店の中で私と喋るのがメインじゃないですか。」
「いや、それも好きですけど。外も行きたいですよ。」
「はいはい。だから火曜か木曜ね。ランチで。」
先生は満足そうに頷いた。
博子は、釜焼きの身をほぐしながら、最後に小さく本音を落とす。
「でもね、先生。土日が濃くなればなるほど、私、平日の同伴が逆に“救い”に
なる時あるんです。今日みたいに、王道で、落ち着いた店で、ちゃんと話せる時間が。」
先生は少しだけ優しい顔になった。
「それ、分かる。派手な刺激じゃなくて、ちゃんと呼吸できる時間な。」
博子はグラスを持ち上げて、軽く笑う。
「そう。今日は呼吸の日です。」
釜焼きの香りとビールの冷たさの間で、二人の会話は、もう少しだけ続いていった。




