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博子のオンステージ。東京メイン社長の話を盛りながら弁護士先生の笑いを誘う

釜焼きの脂がじわっと染みてきた頃、博子はグラスを置いて、先生の顔を見た。

「だから木曜日に、コースを一緒に一周回ったんですわ。さきちゃんとアルカちゃんに、

全部“解説付き”で。」

弁護士先生が箸を止める。

「解説付きって、講義やん。」

「講義ってほどじゃないですけど……でもね、やってるうちに、私、

どんどん喋りが上手くなってきて。逆に怖いです。」

先生が吹き出した。

「そら上手くなるやろ。喋った分だけ、筋肉つくんやから。」

「でしょうね。」

「むしろええことやん。自分が“刺さってる部分”も言語化できるようになるんちゃいます?」

博子は首を傾げて笑う。

「まあまあ、それはその時はそうですけど。状況で変わるんでね。刺さりって、

相手とタイミングと空気で変わるから。」

先生は「確かに」と頷きつつ、続きを促すように目だけで言う。

博子は話を戻した。

「で、その社長、土曜に内緒で来てたやつですけど、店に来てもらって、一応チーム戦にしといたんです。アルカちゃんとサキちゃんも混ざって、最後のセットだけ“4人”で話す形にして。」

「抜けがけ社長を表に出したわけやな。」

「そう。やらんと、向こうの仲間二人が腹探って、女の子たちにも迷惑かかるから。

で、次の日は……朝と昼、アフターみたいな形で一緒に回したんです。」

先生が眉を上げる。

「次の日も?」

「そう。早上がりさせてもろて、朝8時半に京都・北山ですわ。」

「……京都まで?朝ごはんに?」

「そうなんですよ。ほんまは私、昼飯だけのつもりやったんです。

なんなら、“昼で刺して帰して”で終わらす予定やったんですけど……モーニングの話を出したら、

社長がめちゃ食いつきまして。」

先生が「わかりやすいな」と笑う。

「もう“それ行きたい”ってなって、結局、朝7時半に大阪発。開店と同時に店入る感じで。」

博子は指を折って説明する。

「パン食べ放題。スクランブルエッグ、ウィンナー、カリカリベーコン、サラダ、

コーヒーで1500円。」

先生が頷く。

「北山で1500円なら、朝としてはまあまあ。でも“あり”やな。」

「ありよりのありです。食べログ百名店で、ちゃんと美味しい。値段だけの店ちゃうんですよ。」

先生が「なるほど」と言いながらビールを飲む。

博子は続ける。

「で、パンでちょいちょい腹を作って、次に植物園。ほんまは春秋がベストなんですけど、

朝ごはんの腹ごなしに“軽く歩く”ってだけで、十分意味あるんですよ。」

「朝から植物園って、珍しいな。」

「社長ね、そこで言うたんです。植物園も、美術館も、行ったことないって。」

先生が目を丸くする。

「え、あの年齢で?」

「女の子とデートする時、だいたい“映え”の店とか、分かりやすい場所に行くらしくて。

相手が行きたい言うたところに行ってたら、そういう文化的なとこって“選択肢”に入らんって。」

先生が少し唸る。

「まあ、東京のデートってそうなりがちかもな。」

「だから私、植物園歩きながら、ちょいちょい“引き出し”の話したんです。

京セラ美術館とか、ロームシアターの空気とか、雪舟展見た時の話とか。

別に詳しく語るんやなくて、“こういうの知っといたら、どっかで引っかかりますよ”って。」

先生がニヤッとする。

「コンサルやってるやん。」

「いや、でも押し付けはしないです。あくまで散歩しながら、軽く。社長の頭、

普段ずっとロジックで詰めてるから、こういう“余白”を入れるだけで、顔がゆるむんですよ。」

「それが400円でできるんやろ?」

「そう。入園400円。で、二人で笑いながら歩ける。」

博子はそこで、ちょっと間を置いた。

「で、私、つい言うてもたんですわ。」

先生が嫌な予感みたいに笑う。

「何言うたん。」

「“銀座で女の子にあれ欲しいこれ欲しいって言われて、最後インスタ映え大好きな女の子と

結婚して財産半分取られるのと、今日みたいに400円で笑えるの、どっちがマシですか”って。」

先生、飲んでたビールを危うく噴きそうになって、咳き込む。

「それ……ど直球すぎるやろ!」

博子も笑って手を振った。

「ですよね。社長も“お前それ攻めすぎや”って言いながら、めっちゃ笑ってました。」

先生が目尻を拭きながら言う。

「弁護士の立場から言うけどな。財産半分はケースによる。」

「そこに反応せんでええんですよ先生!」

二人して笑って、少しだけ店の空気が柔らかくなる。

先生は最後に、真面目な声を混ぜた。

「でも、今の話、効いてるわ。社長が笑ったってことは、胸に刺さったんや。

説教じゃなくて、笑いで刺してる。そら強い。」

博子は釜焼きを箸でほぐしながら、少しだけ照れた。

「……まあ、刺さってくれたなら、結果オーライです。」

先生が頷く。

「で?その社長、次も来る気やろ。」

博子は苦笑いした。

「それが、一番怖いんですよね。楽しかったが続くと、予定が埋まる。

埋まったら、私が潰れる。……だから、次の座組、また悩みますわ。」

先生は笑いながら、釜焼きの皿をヒロコの方へ寄せた。

「悩めるうちは強い。ほら、今日は話の密度が濃いから、塩分も要りますよ。」

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