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死刑執行はお早めに

 イシルビュートが自信満々にそう言った時、クレアの元にフッと光る鳥が飛んできた。指先を伸ばすと小さな鳥はそこに止まり、一枚のメッセージカードに変わる。

 目を通すと、短いながらも衝撃の内容が書かれていた。サラサラと光の粉となって消えて行くカードに目を奪われながら、イシルビュートが代表してクレアに声をかける。


「誰からだ? なんて書いてあった」


「リリーから……レイアお姉様の処刑日について」


「いつだって?」


 クレアはゴクリと唾を飲み、答えた。


「明日の正午だそうです」


「「明日!?」」


 イシルビュートとドットーレの声がハモった。クレアは首を縦に振る。


「もう都に告知もされているそうで。城の表門広場にて死刑執行されるそうです」


 あまりにも早すぎる死刑執行の宣告に、ハイドラを除いた誰もが驚きおののく。

 明日の正午。もう今から残されている時間はほぼない。

 ドットーレが苛立ちもあらわに膝を叩きながら歯噛みをする。


「クソ、早すぎる! 俺が逃亡しているのを知って反撃のチャンスを潰すつもりだ」


「確かにこれだけの早さだとできる手立てが限られる」


 イシルビュートも同意した。クレアは全身から血の気が失せるのを感じつつイシルビュートの顔を見る。


「お師匠様、どうしましょう……今すぐ突撃して、処刑前に奪い返しますか?」


「まあ待てクレア。アシュロンが天地創造を持ってる以上、今突撃しても返り討ちに遭うだけだ。また死ぬのはごめんだな」


「じゃ、どうすれば」


 あとクレアに考えられるのは、リリーとレイアが密かに脱獄成功するのを願うだけだ。それはほとんど運を天に任せているだけで、いい手段とはとてもではないが言えない。

 慌てふためくクレアとドットーレを尻目に、そもそもこの事態をそこまで深刻視していないハイドラは悠々と腰掛けたままにイシルビュートに問いかける。竜であるハイドラにとってはレイアが死のうが生きようが、国がどうなろうがどうだっていいのだろう。

 

「貴様が先ほど言っていたアテとは、アレのことか」


「ああ」


 イシルビュートが頷くと、ハイドラはさも楽しそうに喉を震わせて笑う。


「よもや貴様がそこまで追い詰められるとはな?」


「仕方がないだろう。他に取れる手段がない」


 イシルビュートは人差し指を眉間にあててため息をつく。そんな様子を見てハイドラはますます愉快そうに目を細めた。


「成る程、成る程。面白くなってきた。貴様についてきた甲斐があるというものよ」


「あの、お師匠様。一体何の話をしてるんでしょう」


 イシルビュートとハイドラのみに通じる会話がもどかしくクレアが割って入る。イシルビュートは人差し指をおろしてクレアに目を向け、その後ドットーレを見た。そうして口を開き、話を切り出す。


「ーーテオドライト王国の最北端にある洞窟には、百年前に封印された『厄災の竜』の竜核が存在している」


「知ってるぜ。ビュート・アレクサンダーが封印した、今この部屋で踏ん反り返ってる竜の竜核だろ?」


「そうだ」


 ドットーレの問いかけにイシルビュートが頷いた。


「その竜核の封印には極めて強力な杖が使用されている。天地創造に匹敵する程に凄まじい代物だ」


「ーーおい、その杖は確か……」


 イシルビュートの話にドットーレが難色を示すも、イシルビュートは短く首を横に振った。


「杖自体の強力さは保証されてる。何てったってハイドラの竜核を百年にわたって封印しているんだ」


「そりゃそうだがよ……」


 ガリガリと頭をかいたドットーレはあからさまに困惑していた。なぜだろう。何かマズイ杖なのだろうか。クレアはイシルビュートを見たが、そんな困惑すら一刀両断するようにイシルビュートは断言する。


「俺は、武器の優位性さえ無くせばアシュロンに負けることは絶対にない」


「でもお師匠様、その案だとハイドラが……完全復活しますよね……?」


「そうなる」


 クレアはハイドラを見た。足を組んで優雅に踏ん反り返って座っているハイドラは、美しい顔に邪悪な笑みを浮かべる。


「楽しみだなぁ? 余は、竜核が戻ったら真っ先に貴様を闇に沈めると心に誓った」


 物騒すぎる発言に、場が一気に凍りついた。ハイドラが味方になってくれないのであればこの案はおじゃんになってしまう。イシルビュートも極めて険しい顔つきでハイドラの出方を伺っているようだった。そもそもハイドラがレイア救出に同行する理由はないのではないか、とクレアは思った。そこまで接点があるわけでもなし、たまたま数ヶ月を一緒に暮らしたというだけな気がする。人間のしがらみなど竜である彼に関係があるわけでもなし。考えるほどに、封印を解かれたら真っ先にクレアに復讐してくるのでは……という気持ちにさせられる。

 そんな三人の様子すらも楽しんでいる節があるハイドラは、たっぷりの静寂を楽しんだ後に言葉を続ける。


「…‥と、言いたいところだが、余の中央の首を吹き飛ばしおった不届き者に裁きを与える方が先だ」


 この一言でホッとした空気が流れた。ハイドラの言うことはいちいち心臓に悪い。


「完全復活したハイドラが味方につけば、まあ魔術師が何人いようが相手にならないだろ」


「厄災の竜が現れれば都は大混乱になるぞ……」


 気軽なイシルビュートの言葉にドットーレが渋い顔を向ける。しかしそれすらもイシルビュートは受け流す。


「結構結構。大いに混乱してくれればいい。ただし一般人に被害が拡大するから毒の息吹は使ってくれるなよ」


 ハイドラはイシルビュートの言葉にフンと鼻を鳴らす。あからさまに不満そうな様子を見て取ったイシルビュートはぽつりと呟いた。


「封印解除時、いくつかの制約を設けようか」


「! わ、わかった。死につながるブレス攻撃は止めよう」


 せっかく自由が手に入るというのにまた制限をつけられてはたまらないとハイドラは大人しく従った。それほどまでに、栄光奈落というのは凄まじい杖らしい。


「んで、イシル。その場所までは転移できるんだろうな?」


「残念ながら一帯に対外封殺魔術が張られている。近くまで転移してそこから歩くしかないんだが、前に行った時には片道五時間ほどかかった。結界で体温を維持しながら行くから魔力消費が地味にきつい。ついでに吹雪がすごくて視界が悪いから、方角を確認しながら行く必要がある」


「じゃあ今すぐ行く必要があるな」


 ドットーレがドッコイセと立ち上がるとイシルビュート、ハイドラもそれに続く。クレアも立ち上がった。


(待ってて、レイアお姉様)


 クレアがレイアを助けに行くのは二度目だ。一度目の時はほとんど無力で、自殺行為に等しかった。けれど今回は違う。

 救出に行く戦力はたったの四人。だが、その四人はクレアの知る限り最強の四人だ。

 

(今度は負けないーー絶対に)


 助けるんだ、と胸に誓った。


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