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首を斬られたら人は死ぬ(普通なら)


「ごめんなさい……私がぼーっとしていなかったら、きっとあんな事にはならなかったのに……」


「泣くなよ、クレア。お前が生きていてよかった」


 イシルビュートの温もりを感じながらも、その声はどこか遠くで響いているように感じる、頭がひどくぼんやりした。魔力を使い果たすというのはこういう状態なのかとクレアは思った。

 イシルビュートの手のひらがクレアの頬を包み込み、優しく撫でる。そのまま身を任せて眠りにつきたい衝動に耐えながらもほとんど限界だった。


「お師匠様……」


 ふにゃっとした声でそう呼んでみると、首をかしげるイシルビュートの顔が。ああ、生きている。嬉しいなあ、と心の底から感じていると…………。


「……おい、感動の再会のところ悪いがな」


 クレアの耳に聞き慣れた低い、どことなく傲慢さが滲み出る声がした。その声の主は先ほど首を吹き飛ばされて死んだはずだ。

 ギョッとしたのはイシルビュートも同じのようで、二人して横たわる遺体へと目を向ける。

 するとその遺体はあろうことか、首から上が無い状態だというのに立ち上がってすたすたと歩き出し近くに落ちた首をむんずと掴む。それからクレアとイシルビュートの方へと向きなおった。


「先ほどのクレアの魔術は強力すぎる。検知される前にどこぞかへ転移した方がいい」


 極めて緊張感のある声と顔でそう言われたにもかかわらず、ハイドラの首は腰あたりでぶらぶらと揺れており全くと言っていい程現実味がなかった。

 ぽかんとするイシルビュートとクレアにハイドラは同じ言葉を繰り返す。


「聞こえぬのか? 今度奴が現れれば全滅は必至だぞ。さっさと転移せんか!」


 いつになく切羽詰まった口調のハイドラの叱咤により、クレアより先にイシルビュートが我に返った。

 イシルビュートはそこらへんに落ちていた木の枝を引っ掴むとクレアとハイドラを連れてロレンヌの王城へと転移した。



+++



 ロレンヌに転移したイシルビュートは伝書光鳩を即座にドットーレへと送り込み、王城に自分たちが来た旨を伝えた。

 首を切り落とされたまま堂々と歩くハイドラと、怪我はないものの血まみれで衣服がズタボロ状態のイシルビュート、そして同じく血まみれで大泣きした跡があるクレアの三人はたいそう目立った。おまけにクレアは完全に力が抜けていて、一人で立って歩くのもやっとのフラフラ状態だ。

 腰を抜かした衛兵に、どうかこの事は内密にして欲しいと頼んでひとまず第一王子ユリウスと第二王子ヘンリーに話を通してもらう。やってきたヘンリーはぶったまげていた。



「イシルビュート殿!? これは一体どういう状態で……!」


「あぁ、ヘンリー王子。ちょうどいいところに。俺も全部を理解しているわけじゃないが、色々面倒なことが起こった。部屋を一室貸してもらえるか」


「それは勿論、構わないが……そちらのお連れ殿、首が斬られていないか!? なぜ動いてる!」


「俺にもさっぱりわからないが、どうやら致命傷ではないらしい」


「どう見ても致命傷だが!?」


 ヘンリーの的確すぎるツッコミに、しかしハイドラは答える気は無さそうである。どうでもいいがクレアはもう寝たかった。歩くのも面倒だった。 

 聞こえてくる会話が右から左へと抜けていった。


「イシルビュート殿とクレア殿は替えの服と湯浴みの準備をさせよう」


「よろしく頼む」


 アレヨアレヨというまにクレアは湯殿に連れられて身体中にこびりついた血と泥を落とされる。それから着替えをすませると、メイドに連れられ城の一室に案内された。

 同じく身ぎれいになったイシルビュートが部屋に入ってきたクレアに気づいて振り向いてくれる。

 その手には包帯が握られており、先にやってきていたらしいドットーレがハイドラの首を持って胴体にくっつけようとしている。


「おう、クレア。さっぱりしたな」


「お師匠様、何をしてるんですか……?」


「ハイドラの首をくっつけようと思って」


「そっと頼むぞ」


 ハイドラが鷹揚に言い、イシルビュートが包帯をぐるぐると巻きつけて首と胴体を固定したのだが、グラグラするし血は滲むしであまりいい方法とは言えない。


「どうだ?」


「うーむ、動かせぬので不便だ。これならば手で持っていた方が良い」


「そりゃこっちの心臓に悪いからやめてくれ」


「つーかよ、イシル。一体こりゃあどういう状況なんだよ!? 説明はないのか!」


「説明したいのは山々だが……あ、もげた」


 手を離すと首がポロリと落ちそうになる。

 見ていたメイドの一人がヒィィと息を飲んだのも無理ない話だ。普通、首が斬られた人間は歩いたり喋ったりできない。


 その一連のドタバタをクレアは傍観者のような気分で見つめていた。力が抜けきっている。死者蘇生の魔術で全てを使い切っていたから、むしろここまで意識を保てていただけでもものすごいことだと言える。


「お師匠様、ごめんなさい、もう無理そうです……」


 てんやわんやの状態の中、一人ずっとぼーっとしていたクレアはそう言うと、ソファでこてんと横になる。ハイドラの傷、塞ぐだけなら簡単だ。けれどもうどんな簡単な魔術すら今のクレアには発動することができなかった。正真正銘、魔力も聖力も空っぽだ。

 眠い……どうしようもない……。

 安全な場所に来たことでどっと押し寄せる抗えない疲労感と脱力感、眠気に引きずられるようにしてクレアの瞼がそっと閉じた。


本日も15時頃もう一話投稿します

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