レイアの叫び
「ハイドラ! イシルビュート殿! クレア!!」
レイアの声が荒野に虚しく響き渡る。
今やこの場に立っている者はアシュロンとレイアだけだ。ハイドラは首を切り離され、イシルビュートは胴体に寸分の隙なく石杭を打ち込まれて地面に縫い付けられており、クレアは腹部にぐっさりと巨大な杭を突き立てられている。
絶望に苛まれる状況の中、レイアはクレアの指先が震えるように動き痙攣しているのを見た。
まだ生きている!
咄嗟にレイアはネックレスを引きちぎり囚われている檻から手を突き出した。
「クレア!」
ネックレスの先から魔術を発動してクレアの体を癒そうと試みるも、歪んでうまく発動できない。それでもなんとか放ったいびつで不完全な回復魔術がクレアの身へと唐突する前に、アシュロンが前へと出て来て遮った。
その瞳はどこまでも冷たく、鋭い。
「……聖女の魔術を身につけたのか?」
「どけ!」
アシュロンの問いかけに答えずレイアは今度は攻撃魔術を放とうとして、今度ははっきりと違和感に気がついた。
ーー魔術が発動しない。魔力を流そうとすると体内で掻き乱れ、術になって打ち出されない。
「この檻、魔力封じが施されている…‥!」
「その通り。罪人に噛み付かれてはたまらないからね。だが聖女の魔術を身につけているのは意外だった。どれ」
ごく気軽にアシュロンが杖を振るう。ただそれだけの動作で、レイアの右手首の先が飛んだ。
「ーーーーーッ!!」
あまりの痛みにレイアが声にならない苦悶の叫びをあげ、膝をつく。切断箇所が熱を持ち、目の前がインクを垂らしたかのように黒く塗りつぶされていった。
アシュロンはそんなレイアにも、自身が作り上げた死体にも目もくれずにまっすぐとイシルビュートが住んでいた家へと足を進めて中へと入っていった。
レイアは気を失いそうな体を叱咤して上着を脱ぐと、左手で抑えて歯で袖を引き裂く。震える右手の先に強く巻いて止血をしながらアシュロンの様子を確認するーー。
間も無く戻って来たアシュロンは、その手に一冊の魔術書を持っていた。
「聖女の魔術書を盗んでいたのか」
鋭い声は決して大きくも荒げているわけでもないのに怒りが滲んでいる。しかし頭に血が上っているのはレイアとて同じだ。膝をついた状態で、切られた右手首を庇いつつアシュロンを睨む。
「盗む? 戯言も大概にしろ……それは元々、私が所有するべきものだ!」
ピクリとアシュロンの整った眉が跳ね上がった。怒りに任せてレイアは声をあげ続ける。
「聖女の資格がないなどと、よくも嘘をつけたものだな! 私には正真正銘、父上の血が流れている。この国の聖女の末裔だ!」
どうしてこのような事態になっているのかレイアにはわからない。自分が罪人であるなどと嘘も甚だしい限りだ。レイアには間違いなく聖女としての素質があり、魔術書の正式な継承者だ。それなのにこの男は全てを滅茶苦茶にする……レイアの城での評判を貶め、父と兄を手駒にし、今は味方をしてくれたハイドラとイシルビュート、クレアの三人を殺した。
「なぜこんな残酷な事が出来る!? お前の目的は一体何なんだ!」
「それを貴女に言う必要はない」
アシュロンは冷たく吐き捨てると、一体にかかっていた結界を解除すると転移の魔術陣のページで指を止めた。レイアの檻も掻き消えたが、代わりに両手首には黒い輪が巻きついてレイアの両手を拘束する。魔力の流れが乱れているーーこれも魔力封じだ。
「レイア王女、貴女をこれから城へ連行する。我が妹に毒を持った罪と、聖女の魔術書を盗んだ大罪人として処刑するために」
「……ぐっ……させて、たまるか!」
精一杯抵抗しようと、右足を振り上げて蹴りを入れるも防御結界に阻まれた。壁を蹴るかのような虚しい攻撃に、しかしレイアは何かせずにはいられない。身をよじり、抜け出そうともがいてもアシュロンの細腕は振り払えない。
「愚かなトレビュース王家は貴女の処刑を皮切りに間も無く滅びる。せいぜいあの世で見ているといい……ここで死ぬ三人と、先に死んだアンヌ王女と一緒に。可哀想にな? 貴女に関わったばかりに、皆死んでいくんですよ」
「離せ、離せ!!」
「さて、もうここに用はない。行きましょうか」
レイアの叫びにも、転がる三人にも何ら興味を示さずにアシュロンは魔術を発動する。光が一瞬炸裂し、そして消えた。
アシュロンもレイアも姿は無く、残ったのは地に伏した三人だけだった。
本日15時頃にもう一話更新します。
そこから反撃に出ますので、お待ちください。




