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そして次の段階へと進む

「テオドライトに戻る……?」

 

 リリーの提案に衝撃を受けたクレアは思わず先ほどリリーが口にしたセリフを反駁した。リリーはにこりと笑って、さも当然のような顔をして頷く。

 

「はい。レイア様とオズボーン公爵様の捕縛に失敗した今、宮中がどう動くのか確かめる必要があります。もともと私はロレンヌの間者、この任務にはうってつけかと。今ならまだ捕縛失敗の混乱の最中でしょうし、まさかこんなに早く敵が戻ってくるとは思わないはずです。潜り込むならば早いに越したことはありません」


 その提案をクレアは素直に受け止めることはできなかった。


「でも危険だよ。一人で戻ることになるし、もし見つかれば捕まって私たちの居所を吐くまできっと拷問にかけられる」


「大丈夫、そんなヘマはしないから。これでも私、テオドライトには十年くらい潜入してたのよ? 顔も姿形も変えるのは得意だから、別人になって王宮に潜入してやるわ」


 両手を拳にして力を込めていうリリーは頼もしいが一抹の不安は残る。それを感じ取ったのか言葉を加えた。


「そんな顔しないで。私はロレンヌの諜報部員、国のためになるなら危険な任務だって喜んで引き受けるわ。定期的に連絡するから安心して」


「クレア、リリーの言う通りだ。非情に聞こえるだろうがそもそも彼女は俺がロレンヌ王族に掛け合って城へ派遣してもらった人物……再潜入に妥当な人物だ」


「何かあったら即座に連絡してくれ」


「俺の方で魔術師に味方がいるから、仮に捕まっても脱獄の手助けくらいはできるだろう」


「ありがとうございます、レイア様、オズボーン侯爵様。一度ロレンヌへ行って諸々報告をしてからにしようと思うのですが……」


「あぁ、俺が転移魔術で送るよ。王宮まで直通だから」


「ありがとうございます」


「あ、それ、俺も一緒に行っていいか?」


「あん?」


 ドットーレが挙手をしたのでイシルビュートは怪訝な顔をする。するとドットーレは今現在滞在しているリビングを親指で差し、言葉を続けた。


「俺も雲隠れする必要があるが、この家に俺が滞在するわけにゃいかんだろ」


「まあ、デカイからな」


 既にリビングの中でも存在感を十全に発揮している。いくら家の天井が高く作られていると言っても暮らすのは難しいだろう。

 そもそもイシルビュートとクレアの二人暮らし用の家にハイドラとレイアがやって来て手狭なのに、この上ドットーレまで住むというのは無理がありすぎる。


「問題ないと思うがあっちで相談しよう。じゃ、早速行くか」


「おう」


「お願いいたします」

 

「私たちは家で魔術書の解読をしています」


「じゃあ、留守番頼んだぞ」


「はい!」


「では、レイア様のご活躍を期待しております。クレア様と過ごす王宮も楽しい日々でした」


「何かあったら本当に連絡してね!」

 

 立ち上がったイシルビュートはクレアに留守番を頼み、再び出掛けるべく木の枝を手に取った。

 今度はローブも羽織らず、ドットーレとリリーの二人を引き連れて。


 一気に三人が行ってしまってリビングがガランとした(多分主にドットーレのせいだ)。振り返ったクレアは魔術書とハイドラを交互に見てふとあることを思いつく。


「レイアさん、この癒しの魔術、ハイドラにも効くんじゃないですか?」


「ふむ……確かに」


「ポーションが余に効かないのは原料が余の体に有害だからであって、魔術となれば話は別かもしれぬな」


「せっかくなので試してみましょうよ」


「そうだな。ハイドラ殿、よろしいか?」


「構わぬ、好きにせよ」


 その言葉にレイアが頷くと、ネックレスを手に取って魔術を発動した。術がハイドラの体を包み、展開し、収束する。


「……ふむ」


「どうでしょう?」


 人間形態のハイドラでは治ったのか、そうでもないのか、非常にわかりづらい。


「歯の一本ほどは再生した模様だ」


「歯の一本……そんなものか。媒介にこのネックレスを使っている以上、初歩の魔術であってももっと回復するものかと」


 レイアは難しい顔をして顎に指を当てた。


「まあ、本来余の体を人間に治癒できるというのが不可能な離れ業だ。そう考えれば歯の一本とはいえ初級魔術で回復できるのは大したものだろう」


「そうか……研鑽を積んでもっと治癒できるよう努力する」


「気にせずとももう後一月もすれば自力で完全回復できる」


「しかし元はと言えば、私のせいでこのような怪我を負わせてしまったのだし」


「直接余にダメージを与えたのはそこの小娘だ」


「うっ。その件に関しては申し訳なく思っています」


「覚えていよ。竜核が戻ったら貴様を真っ先に打ち負かす」


 ギロリと睨む赤い眼には本気の色が宿っている。

 竜核が戻ることはあるのだろうか。瘴気を取り込み続けたハイドラはきっと封じられた百年前より強いだろうから、一体その実力がどれほどなのかクレアには想像もつかない。もしも本当に竜核を取り戻した時のことを想定して、師匠に対策を聞いておこうとクレアは心に誓った。


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