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魔術書のありか

「クレア、もう一度言ってみて?」


「ごめんなさい、もう二度と余計なことに首を突っ込みません」


 クレアは現在、仁王立ちして額に青筋を浮かべているリリーを目の前にして床に正座をして謝罪の言葉を口にしていた。腕組みをして据わった目つきでこちらを見下ろしているリリーは、恐ろしい。


「本当にわかってる!? レイア様も言っていたけど、死刑になってもおかしくない振る舞いだったのよ! 私がメイドとして失敗ばかりしてた時にどんな仕打ちを受けていたか、見ていたでしょ!」


「うん……ごめんなさい」


「あなたにもしものことがあったら一大事なんだから! 今後は魔術書探し以外のことをしないって約束して!」


「はい、肝に命じます」


 怒り心頭のリリーにクレアはひたすらこうべを項垂れる。その様子を窓際から見つめていたレイアは口を挟んでくる。


「リリーの怒りはもっともだ。私も彼女もクレアのことを心配しているんだよ。君は優秀だけど少し危うい部分がある。もっと考えて行動しないと、いずれ大変なことになるぞ」


「う……お師匠様にもよく言われています」


 シュンとした。そう、同じことを口を酸っぱくしてイシルビュートにも言われ続けていた。だからこそイシルビュートはクレアをロレンヌの城に連れて行かなかったんだろうし、ハイドラのことも伏せていたんだろう。

 信頼されてない訳ではないけども、そうした部分を見るに自分が腹立たしくなる。不甲斐ない……花のこともあの場で口にするべきことじゃなく、内に秘めてこっそりとレイアに打ち明けたほうが良かったのだ。必要があれば裏からリリーの力も借りて調査し、黒幕を突き止めれば良かったのだし。


「まあもう、言っても仕方のないことだからこの件に関しては一旦忘れよう。それよりも、魔術書のありかを早急に突き止める必要がある」


 レイアはオリヴィアの部屋を出た後にクレアにも言ったセリフで話題を切り替えた。リリーはまだ少し怒っているようだったが、コクリと頷いた。

 クレアは床から立ち上がり、ちょっと痺れた足をさすって椅子へと座り直す。別に床に座れとは指示されていなかったが、事の次第を説明した後のリリーのあまりの剣幕に気圧された思わずその場に正座してしまったのだ。この辺りに関しては師匠に叱られる時を彷彿させる。


「……ドットーレさんには、魔術書があるならこの城の中だろうと言われました。聖女が勉強をするときに使うものだから、厳重に保管されているのは間違い無いだろうけど、場所は図書室のような、聖女が専属で使う部屋じゃないかって」


「成る程ね、さすがオズボーン侯爵様だわ。城の中のどこかの勉強部屋……納得できる推理だわ」


「レイアさん、三歳の時に聖女の儀式をした場所がどこだか、覚えていませんか?」


 問われたレイアは顎に指を当て、眉根を寄せて思案する。


「残念だが幼すぎて覚えていない……城からは出ていないと思うが。だが……そうだな……」


 レイアの瞳にわずかな光が差し込む。


「アンヌがよく言っていた。『勉強する部屋は本がたくさんあって、ステンドグラスが嵌ってる、晴れた日にはそこに陽の光が反射してキラキラしていて綺麗』だと。『魔術が外でも使えるように、庭に出られる』とも言っていたな」


「じゃあ、お城の庭に面した場所のどこかに聖女が使う部屋がある?」


「おそらく」


 レイアは頷いた。


「だとすればそこに魔術書がある可能性が高そうね。早速探しましょう!」


 リリーが両拳を握りしめて気合を入れた。レイアが引き出しから城の見取り図を出してきて、三人でそれを囲い場所にあたりをつけていく。


「庭に面しているからと言って、一階とも限らない。広くバルコニーが作られていて空中庭園になっているような場所もあるから。部屋と部屋の間に妙な空間のある場所はないか、見てみよう」


 図面を見て不自然な場所に三人は丸をつけていった。いくつか候補が上がったところで顔を突き合わせて話をつめていく。


「一番怪しいところは……王族の居住区域の中にある、庭園に面した一角か」


「ええ、この場所はちょうど廊下の端っこにあるし、女性王族が使用するフロアに存在しているみたいですね」


「王族の居住区域かぁ……侵入方法をきちんと考えておかないといけませんね」


 オリヴィアに会いにいった時の感覚だと、警備は宝物庫以上に強固だった。見張りは門には勿論、居住区域内にも多数いるし門という門に侵入者を感知する結界が張られていた。


「通常の警備状態であの結界を破ろうとすると目立つので、人よけの魔術を使うか、もしくは幻視か忘失か……」


「……ならば警備が薄い時を狙って侵入するのはどうだろう」


「そんな時あるんですか?」


 王族の居住区といえば国の最重要人物が集まる場所、常時警備は国内最高レベルで敷かれているだろうし、警備が薄い時など無い気がする。しかしレイアの返答はといえば。


「ある。国の式典で王族全てが出払っているときは警備がその場所に集中し、逆に城内のそのほかの場所は手薄になる。勿論ゼロというわけにはいかないが、普段よりはずっと少なくなる」


「あぁ……そういえば建国祭がそろそろでしたね」


「うむ」


 建国祭。そんな話もあったなとクレアはぼんやり思い出した。


「確か城の前の広場で式典があるんですよね。総督と特級魔術師の方も集まって」


「そうだ。国の重要人物が軒並みそこに集うから、城内の無関係な場所に人手をさく余力は無くなる」


「じゃあ、その日を狙って、侵入します!」


「そうね!」


「リリーは駄目だ。専属侍従が二人もいないと怪しまれるから行くならばクレア一人だ」


「えぇ……大丈夫かしら。クレア一人で……」


 途端にリリーは不安そうな顔でクレアのことを見つめてくる。


「大丈夫だよ、宝物庫に入った時にはバッチリ決まってたでしょ?」


「そうだけど……魔術がすごいことは知ってるけど。どこかしらでミスしないかが心配で……」


「大丈夫大丈夫、ちゃちゃっと侵入して魔術書盗んで来るから!」


「王族の居住区への不法侵入は失敗すれば当然処刑ものだ、くれぐれも気をつけて欲しい」


「はい、頑張りますっ」


 ようやく、魔術書のありかに希望が見えてきた。そこにあろうとなかろうと、失敗だけはしないようにしようと己の肝に銘じる。


 建国祭は、もうすぐそこに迫っているーー。


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