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華麗なるざまあ回

「何?」


「殿下は剣の腕が達者であるとか。殿下の剣と僕の魔術、どちらが上か勝負するというのは?」


 周囲のざわめきが再び大きくなる。夜会の場で決闘とは場違いにも程がある。が、ここで一声、声がかかった。


「面白そうではないですか。国王陛下」


 壇上から見下ろすのはーーいつもと同じく白いローブを身にまとったアシュロンだ。玉座に座る国王イグニウスの側に付き従い、その優しげな緑の瞳に楽しそうな色を宿している。


「本日のレイア様のお召し物も相まって、実に興味深い催しとなりそうだ。許可をして差し上げてもよろしいのでは?」


「……ああ、許可しよう」


「とのことだ。懐の深い陛下のお言葉通り、二人とも存分に戦うが良いでしょう。ご令嬢二人は他の方とともに広間の隅に控えていると良い」


 さっとメイネルと男爵令嬢が離れたとの見ると、アシュロンは左手を魔術書にかざして杖から魔術を発動し、ハンスとレイアの二人を囲うように結界を張った。


「余程のことがなければ壊れない結界です」


「アシュロン様直々に決闘の場を整えて頂き、恐悦至極に存じます」


 ハンスは悠々とアシュロンに向かってお辞儀をすると杖と魔術書を構える。レイアもそれに倣って剣を構えた。


「こう見えて僕は上級魔術師の資格を持っているんですよ、殿下」


「そうか。ならば私と同じだな」


「ほう? しかし魔術書が見当たらないようですが……持ってきてから仕切り直しでも良いですよ」


「結構だ。私は剣をメインに扱っている。魔術は補佐に過ぎない」


 二人は距離を保ったままにらみ合い、言葉を交わす。

 会話が途切れた。

 先に動いたのはハンスだった。持った魔術書のページがめくれある部分で止まる。そして発動したのは身を守る結界の魔術。


「剣士相手には、先手必勝!」


 続いて放たれたのは、小型の氷塊だった。杖先からほとばしる無数の氷塊が弾丸のような速度でレイアに迫る。剣を持って立っていたレイアはこの時初めて地を蹴り、動いた。

 氷塊の軌道を読み、わずかな動きでそれをかわす。剣先に刻んだ魔術陣を起動して、続く魔術を放たれる前にあっという間にハンスへと肉薄した。


「速いっ!? しかしただの剣で僕の結界は破れないぞ!」


「ただの剣ではない」


 両手で握りしめた剣を引き、思い切りハンスの展開する結界へと突き立てた。

 ぴしり。

 音がして、レイアの剣を起点にして結界にヒビが入る。

 そのままグッと足を踏み出し、両手に込める力も増やす。

 結果、ハンスの張った結界はあっけなく崩壊し、崩れ落ちた。


「何っ!?」


 驚き次の術を展開しようとするハンスに、しかしレイアはそんな隙を与えなかった。足を払ってバランスを崩したところで追撃を繰り出し、真剣を顔面めがけて振り下ろす。恐怖にハンスが両目を瞑ったところで、その剣がハンスの真横ーー大広間の絨毯へと突き立てられる。

 その距離約一センチ。ハンスは頬すら切らず、無傷であった。

 しかしそのおそるべき速度と圧倒的なまでの技量の違い、直前まで感じていた恐怖から全く動くことができず、その場で大の字になって痙攣していた。


「貫通の魔術を付与したんだよ、言っただろう? 私は剣の補佐として魔術を使うと。続きをやっても構わないが……どうやら私の勝ちのようだな」


「あ……あが……」


 レイアは剣を鞘に収めると、未だ無様に倒れたままのハンスに一礼をしてからメイネルの元へと戻った。


「どうだったかな?」


「それはもう、すっといたしましたわ、レイア様!」


 両手を胸の前で組んだメイネルは、昨日から見た中で一番のとびきりの笑顔をレイアに投げかけてくれた。


「ありがとうございます。わたくし、あんなお方に婚約破棄されたくらいでくよくよしていたのが馬鹿みたいです。これからもっと素敵な方を見つけられるよう努力いたしますわ」


「ああ。私もメイネル嬢ならばもっと良い婚姻が結べると思っているよ」


「あの、レイア様……もしよろしければわたくし達も、お話に加わっても?」


 控えめにやってきたのはメイネルとともにレイアの茶会に呼んだ令嬢の一団だ。


「勿論」


「ああ! ありがとうございます。メイネル様の仇を討って頂いて、わたくし達もスッキリいたしましたわ」


「レイア様の見事な剣さばき、素敵でしたわ。近衛兵にも劣らない腕前ですのね」


「それにあの魔術の出来といったら! あれほどスマートに発動できる魔術師はそうはおりませんわよ」


 いつの間にかレイアの周りには若い令嬢が詰めかけ、しきりにレイアのことを褒めそやす。音楽が流れれば代わる代わるにダンスのパートナーを務め、広間中の人気を一気に集めた。

 それは、王族でありながらいつも日陰に追いやられていたレイアの姿とはまるで違うものだった。 


 そしてそれを面白くなさそうな顔で見ている者がいるのも事実。


「我が娘は……レイアは、あのような娘であっただろうか」


 壇上の国王は濁った瞳をレイアに向け、戸惑いを口にする。


「先日に聖女の魔術書についての直訴に来た時もそうだ。レイアはあのように堂々と意見を言うような娘ではなく、命令に淡々と従うだけの臣下だと思っていたが……あれではまるで、若かりし日の儂のようで……まさに王族然としている、正義感に溢れておる」


「……陛下、第一王女殿下は何者かに入れ知恵をされたに違いありません」


 アシュロンはかがみこみ、国王イグニウスをやんわり説き伏せる。


「……入れ知恵を……」


「そうです、決して王女殿下の才能ではありません。何せ彼女は、聖女としての素質を持たず、亡き妃ハイリーン様のご意志に添えなかった存在ですから」


「ハイリーン……そうだ。レイアが聖女であれば、アレが無理にもう一人王女を産む必要などなかった。おまけにアンヌは死に……レイアだけが生き延びている」


「陛下の苦しい胸中は痛いほどに理解ができます。ハイリーン様もアンヌ様も亡くし、さずお辛いことでしょう。なのにレイア王女殿下はこうして、聖女になれなかったがために別の方法で宮中でのし上がろうとしております」


「許せぬ、レイア……卑怯な手を使いおって。王族であるというのにどこまで姑息なのだ」


 イグニウスの瞳には先ほどまでの戸惑いが消え、代わりに憎しみの炎が灯った。玉座を節くれだったてで握りしめ、歯を食いしばり怨嗟の声を漏らす。


「ご所望とあらば、このアシュロン・ベルモンゾがどうにかしてご覧に入れましょう」


「頼りになるとはそなただけだ、アシュロン」


「私の心はいつでも、陛下の御心のままに」


 アシュロンは緑に光る瞳で、広間にて令嬢達に囲まれているレイアを見つめた。

 レイアが変わったのは間違いがない。一週間ほど城から姿を消し、戻って来てから何かが起こった。人望を取り戻しつつあり、噂話にいい意味でのぼるようになっている。

 今の彼女は……危険だ。

 誰が彼女の周りにいるのかーー調べなければならない。


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