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【閑話】二人の王女

 とんとん、と部屋の扉がノックされる音がする。レイアが扉をそっと開けると、そこに立っていたのは妹のアンヌだった。

 

「どうした?」


 尋ねるとアンヌは手を後ろにしてモジモジとしながら立っている。ひとまずレイアはアンヌを部屋へと招き入れた。

 まだ四歳のアンヌは部屋へててて、と入ってくると椅子に座って足をぶらぶらさせる。テーブルに突っ伏した頬がぺちゃっと潰れて、それが彼女の愛らしさに拍車をかけていた。長い金髪が足の動きに合わせて揺れている。

 レイアは向かいの席に座ってから優しく問いかけた。


「勉強の時間だろう」


「もう終わっちゃった」

「ここに来るのを見られたらまた怒られるぞ」


「気配を消したから、だいじょーぶっ。自由時間だからお姉さまに会いに来たの」


 三歳の聖女の儀式で想像以上の結果を見せたアンヌには、否が応でも周囲からの期待が高まった。毎日の勉強時間は尋常ではなく、遊びたい盛りの彼女はいつもいつも机に向かわされている。それでもアンヌは弱音を吐いたりせず、いつもにこにこしている子だった。

 

「いつも勉強ばかりで辛くないか?」


 するとアンヌはキョトンとした顔をした後に大きな瞳をパチパチとさせた。

 

「つらい? どうして?」


「同じくらいの歳の子は皆遊んでいるだろう。アンヌも外で遊びたくはないのか」


「んー」


 アンヌはちょっと考えた後に首を左右に振る。


「お勉強、楽しいよ。『まじゅつ』って不思議なことがたくさんできるのっ。お姉さまは私よりもっといろんな『まじゅつ』が使えるんでしょ?」


「まあ、どうだろうな。もしかしたらもうアンヌに追い抜かされてるかもしれない」


「えーっ、うそだあ。だってお姉さま、私よりずっと年上だよ」


「本当だ。だってアンヌは聖女として色々な魔術教育を受けているだろう? 聖女教育係りのイヴリンさんもしょっちゅうアンヌのことを褒めているよ」


 イヴリンはかつて、わずかな期間レイアの教育係を勤めていた。聖女の力を発現できなかったレイアに失望し、続いて産まれたアンヌの才能に有頂天になり、顔を合わせればしきりに妹のことを褒めそやす。

 それにじくりと心が痛む時もあった。自分も聖女であったなら……まだ小さいアンヌにばかり負担をかけることはなかったのに。

 思い悩むレイアにアンヌは不思議そうな顔をした。


「でもお姉さまは私よりも聖女に向いていると思うよ」


「向き不向きじゃないんだ。聖力がなければ聖女の操る癒しの魔術は発動しないから」


「お姉さまの聖力は私よりたくさんあると思う」


 アンヌの言葉にレイアは苦笑した。


「ありがとう。アンヌにそう言われると嬉しいよ、私に味方してくれるのは、アンヌだけだから」


「あ、お姉さま信じてない。本当だもん」


 頬をぷうと膨らましてアンヌが怒った顔をする。誰も彼もに無下にされているレイアにとって、無邪気にお姉さまと呼んで遊びに来てくれるアンヌの存在はとてもありがたい。

 本当に聖力があればいいのに、と内心で考えつつ、レイアは「そうか、ありがとう」と再び礼を言った。


 この小さな妹はこれから聖女として重責を負っていくことになる。危険な場所へ赴くことだってあるだろう。その時に守ってやれるよう、せめて側にいられるようレイアは剣を取ることにした。

 聖女として隣に立てないのであれば、前に立ちアンヌの身にかかる火の粉を振り払えるように。

 魔術師大国であるこの国には、純然たる騎士は少ないーーけれど、貴重な存在だ。いつの日かきっと、レイアの剣はアンヌを守る役に立つだろう。


 窓を開けると暖かな日差しが差し込んで来る。穏やかな午後のひと時だった。





+++


 

 ぼーっと、箒を持ってクレアは窓から外を見た。

 尖塔から見えるその景色には、遥か遠くに瘴気が漂う空が見えた。


「どうしたの、クレア? ぼーっとして」

 

 リリーに話しかけられ、クレアは振り向いて戸惑った。


「昨日の夜、夢を見た気がして」


「へえ、どんな夢かしら」


「それがよく覚えていないんだけど」


 箒を握りしめ、懸命に思い出そうと額に箒の柄をコツンと当てる。


「なんだかすごく……懐かしい夢だった気がするの」


正真正銘、本年度最後の更新です!

来年もよろしくお願いします。

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