宝物庫へ行こう
「終わったな」
「はい、終わりました」
「私の振る舞いはどうだったろうか、クレア」
「それはもう、完璧です!」
茶会が終わった部屋の中、ふうと息をついたレイアが振り向いてクレアに問うて来た。それに対しクレアは親指をぐっと立てて太鼓判を押す。
「どの魔術も完璧でした」
「にしても、クレアの師匠殿はよくこんなに色々な魔術を知っているな。どれも確かに簡単だが見たことがないものばかりだった」
「魔術の開発はお師匠様の趣味なんです」
「陣が簡単だから記憶しておきやすいという利点もある。これならいちいち本を持ち歩かなくてもいい」
「そこもちゃんと考えてあるんですよ。普通の人が普通に使える魔術にしたいって」
クレアは胸を張って言う。照明が浮いているのも茶器が飛ぶのも、冷たくない雪も花を出す魔術もクレアからすれば全てが日常でありふれた魔術だ。しかしここテオドライトではそうではないので、初めて見た招待客たちは驚きに目を見開いていた。
魔力によって無から有を生み出すのが魔術だが、それが冷たくない雪だったり花だったりするのはありえないらしい。初めてこの魔術を見せた時レイアは首を傾げて、「失礼だが、この魔術に一体何の意味があるのだ?」と言っていた。
意味なんてない。師匠は意味のある魔術もない魔術も等しく使える。しかもおそらく、あんまり意味のない魔術の方が好んでいる。
でもまあ、クレアからすれば貴族がゴテゴテと飾り立てているのだって意味を見出せない。威厳とか権力とかの象徴なのだろうが、全身を装飾品で飾り立てるのが好きな人種であれば、変わった趣向のお茶会だってきっとお気に召すだろう。
ならば徹底的にやればいい。
持てる魔術の中で、簡単ですぐに覚えられるものをレイアに教えて準備を進める。
各令嬢の好みなどはリリーが把握していた。潜伏生活を続けていた彼女は情報に精通しており、領地の特色、紅茶や茶菓子の好みもばっちり知っていた。それをレイアに教え、完璧に覚える。もともと王族として国の各領地の特色は知っていたことも合間ってこの辺りの飲み込みは早い。
魔術のセンスもあるのでクレアが教えて魔術もあっという間に発動できるようになった。
「この調子でどんどん他の方々もお茶会に招待しますか?」
「でもクレア、それって魔術書探索に何も関係ないんじゃ……」
「関係ないけど、別にやって悪いこともないと私は思う」
「そうかなぁ、潜伏の第一条件は目立たない事だけど」
後片付けをしながらリリーがもっともな意見を述べた。レイアも頷く。
「確かに目立ちすぎるのは良くない。ひとまずオリヴィア王太子妃を招いての茶会は終わったのだし、あとは魔術書探しに注力しよう」
「はい……あ、オリヴィア王太子妃といえば、あのお方具合でも悪いんですか?」
「うん?」
「ちょっと気になったので」
クレアの問いかけにレイアは首を傾げた。
「いや……だが、この五年間は周囲の期待に反して懐妊の兆しがないので、気に病んでいるという噂はある」
「ふうん……」
「何か気になることでも?」
「はい。お化粧が厚いのでちょっとわかりにくいんですけど、顔色が悪いなあと。あとは挙動を見ていると少し指先に震えがあったり、こわばったりしていたようでした」
「そうか? リリーもそう思ったか?」
リリーは首を横に振った。ふむ、とレイアは顎に指を当てる。
「どこかで見たことがある症状なんですよね。何だったかな……」
クレアは記憶を探ってみるもいまいち思い出せない。魔術に関することならば決して忘れないのだが、病状は門外漢だ。
「今すぐどうにかなるって感じではないと思うんですけど。まあ、いいか」
「それよりもクレア、魔術書のありか何だけどまずはどこから探ってみる?」
「そうだねえ、やっぱり無難に宝物庫からかな」
「私も一緒に行く?」
「うん、お願い」
「オッケー」
「私も行こう。と言いたいところだが……」
「そうですねえ……」
「レイア様にはお待ちいただいた方がいいでしょう」
「万が一にもバレたら、不法侵入の罰で捕まっちゃいますから……」
王族が宝物庫に盗みに入った瞬間を見つけられたら大変だ。クレアとリリーの二人ならば最悪城から一度逃げ出せばいいが、レイアはそうもいかない。やや残念そうな顔で頷いたレイアは、宝物庫に関する情報を教えてくれる。
「宝物庫には常時見張りに騎士と魔術師の二人組四人と、あとは結界が張ってあるはずだ」
「わかりました。あ、行くにあたって万が一のことがあった時のために、レイアさんのネックレスをお借りできますか?」
「構わない。ほら」
レイアは胸元に手を伸ばすといつもつけている、妹の形見だというネックレスを外してクレアに手渡した。
「ありがとうございます」
ネックレスをぎゅっと握ると、ハイドラを倒した時同様それは手によくなじんだ。




