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反撃に出ましょう

「という訳で、私はもとよりロレンヌの間者としてこの国にずっと潜伏していました」


「そうだったのか」


「全然気がつかなかったよ、私」


 リリーの話を聞いたクレアとレイアはなるほどと首を縦に動かす。三人は現在、レイアの私室に設えられているソファに座って円座でリリーの話を聞いていた。主従関係にある状態なので初めは辞退していたクレアとリリーだったが、レイアの「そういった気遣いは無用だ」とのゴリ押しでこうして同じ円卓を囲むようになっている。

 やっとこの城の中で落ち着ける場所ができたと思うとホッとする。

 盗聴如何<いかん>がないかどうかの確認もバッチリだ。

 話の内容が内容なだけに、盗み聞きされていると非常にまずい。あっという間に追放コースだ。それは避けなければいけない。


 ちなみにお茶は、クレアが用意した。

 はたきの一振りでお湯が沸き、茶葉が舞い、ティーカップにお茶が注がれる様を見て二人は感心していた。レイアは荒野の家での療養中に何でもかんでも魔術でこなす様を見ていたが、初めて目の当たりにしたリリーの感嘆っぷりは凄かった。

 「さすがは噂に名高い荒野の魔術師様の弟子、クレア様!」と、それまでのフレンドリーさから一転して敬語、様付けになってしまったのでクレアは「前のままで接して」と念を押した。

 せっかく仲良くなったのに、態度を変えられるとむず痒い。クレアはもっとフランクな関係を望んでいる。


「って事はミスばっかりしていたのは」


「演技よ、演技」


 リリーは肩をすくめる。


「あからさますぎるかなとは思っていたんだけど……手っ取り早くレイア様の専属になるには、あの位やった方がいいかなと思って」


「やりすぎでしょ……青アザだらけだったじゃん」


「うん、まあ、あの位は何ともないし。ただクレア様が魔術で掃除無双をし始めた時から雲行きが怪しくなったからどうしようかと悩んだけど。結果的にはこうして、二人でレイア様の元に来られたから良かったなって」


 クレアは舌を巻いた。リリーのドジっ子っぷりは職務に忠実であった結果だったのか……まさにプロ根性を感じる。すごい。多分クレアにはあそこまでのことはできなかった。やりすぎていた感は否めないが。


「ともかく、私はお二人のサポートのためにここにおります! 聖女の魔術書を見つける必要があるんですよね? 私こう見えて、潜入及び情報収集に長けているので力になれると思います。テオドライトにいる期間が長いので、魔術についても勉強しましたし」


「てことはリリーも魔術師の資格を?」


「うん、偽名で取っているわ。リリーも偽名だけど」


「あ、そうなんだ。本名は伏せてあるって感じ?」


「そう。任務に合わせて名前を授かるから、その都度変わるの。ちなみに顔もよ」


 にこり。笑ってリリーが言った。レイアが髪をかきあげ、ソファに深く腰掛ける。


「そうか……ロレンヌ国の間者とは頼りになる。味方がいるのは心強い」


「何でもお申し付けください。侍女としての仕事も、完璧にこなせます」


「私もです、レイアさん。ドットーレさんのお屋敷で覚えてきました」


「ありがとう、だが私は自分の身の回りのことは自分でできるよ。二人には魔術書探しに注力してもらいたいたい。ひとまずイシルビュート殿とロレンヌ側に、私のメイドになれたことを報告したほうがいいのではないか?」


「それもそうですね」


「ええ」


 クレアとリリーの二人は揃って魔術を行使する。クレアはそこらへんにあったペンで、そしてリリーはごく細い針のようなものを取り出し、魔術師御用達の連絡手段である伝書光鳩をそれぞれ発動した。


 ふと、クレアは先ほどのオリヴィア王太子妃の言葉を思い出し、口にしてみた。


「でもレイアさん、さっきオリヴィア様がお茶会を開くとかどうとか」


「ああ、それか。気にしなくても問題ない。どうせ私を囲んで嫌味を言いたいだけなのだから。やれお茶菓子の気が利かないだとか、お茶の種類が少ないだとか。適当にやり過ごせばいい。いつものことだ」


 クレアは眉をひそめる。


「いつもそんな事、されてるんです?」


「いつもは式典や夜会で顔を合わせた時に何かしら言われているな。気にしたら負けだよ」


 それってどうなんだろう。一国の王女に対する振る舞いではないし、それ以前に人としてどうかと思う。理不尽な量の掃除を言いつけられた時も思ったが、なんかこう陰湿だ。王宮ってそういう場所なのだろうか……城も行き交う人々も一見煌びやかだけど、実情は底意地が悪くてドロドロした人間関係の巣窟だと師匠も以前に言っていた。その時には首をかしげたけど、実際に来てみるとよくわかる。

 そんな思いから、クレアの口からは自然にこんな言葉が漏れた。


「レイアさん、見返してやりましょう」


「何? しかし、魔術を使うのはタブーだぞ。先ほどだって危うくバレそうになっていたじゃないか」


「使うのは私じゃありません。必要な術は教えますから、レイアさんにお願いします」


 レイアは片眉を吊り上げて非難めいた顔をしてクレアを見つめた。言いたいことはわかる。危険だというのだろう。クレアもそこは認めよう。認めた上で、しかしそれでもやり遂げたいのだ。


「レイアさんは国のことを思い、一人死を覚悟しながらも毒竜討伐に出かけました。そんな心優しい人が、ないがしろにされ続けるような国でいいんでしょうか? 私は……許せません。レイアさんはもっと、皆に一目置かれるような素晴らしい人なのに。わからないなら、わからせてやればいいんです。

 今までのやり方でダメなら、方法を変えましょう。私が伝授します。どれもこれも簡単な魔術ばかりです」


「だが目立つのは良くない」


「そうよクレア。気持ちはわかるけど、ここは堪えましょうよ。魔術書を手に入れ、レイア様が聖女の魔術書を使えるとわかったら皆態度を変えるわよ、きっと」


「それまで待つんですか? 味方を増やしておいたって、悪いことじゃないでしょう」


「どうしてそこまで腹を立てるんだ、私のこの城における扱いなど気にしなくたって構わないぞ」


「わからないけど……レイアさんが蔑ろにされると、物凄くイラっとするんです」


 この感情の出所はクレアにもわからない。しかし先のオリヴィアとのやり取りを見ていたクレアははらわたが煮えくりかえりそうだった。なぜ、あそこまで言われる必要があるのだ。レイアは何も悪くないのに。悪いのはこの状況を生み出した人間……そう、アシュロンとかいう魔術師だ。

 この歪んだ状況を少しでも改善しなければとクレアの本能が告げていた。


「大丈夫です、使うのは些細な魔術ですから。要は見せ方を変えればいいんですよ」


 頑として意見を変えないクレアにレイアとリリーが顔を見合わせる。


「作り上げましょう、三人で……誰も見たことがない、幻想的な(ファンタスティック・)お茶会(ティーパーティー)を」


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