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師匠と友人による作戦会議


「やあ、クレアちゃん! やっと会うことができた!」


「あ、確か一度お会いしたことありますね」


「覚えててくれたなんて嬉しいよ、これは運命ってやつじゃないか!?」


「オズボーンさん、でしたっけ?」


「そんな堅苦しい呼び方はやめにしてドットーレと呼んでくれ!」


 師匠の友人であり今回の潜入作戦の協力者であるドットーレ・オズボーンが家へとやってきた。師匠の話通り身長三メートルはあるかなり長身な男性だ。家に入るなり天井に頭をこすらないよう身を屈めながらたったの二歩でリビングを横切ってクレアの正面へとやって来ると、その巨大な手のひらでクレアの両手を握りしめる。強面の髭面に満面の笑みを浮かべてクレアに詰め寄り、よくわからないが熱烈な挨拶をしてきた。

 ブンブンと上下に振られるクレアの手。ドットーレの身長が高すぎるので、クレアは握られた手が持ち上げられるとつま先が若干宙に浮いた。


「ドットーレお前クレアから離れろ、距離が近い!」


「チッ、何だよイシル。ちったぁいいだろうケチくさいな」


「良くない、むやみにクレアに触るな」


「お前はクレアちゃんの親父かなんかか」


「親代わりで師匠だと言ってんだろ!」


 クレアの手を結構な握力で握りしめるドットーレを引き剥がすと、間に割って入ってそのまま会話を続ける。ドットーレはちょっと憮然とした様子であったが、その高すぎる身長を活かしてイシルビュートの頭越しにクレアと目を合わせるとにこりと笑って手を振ってくる。

 大男には違いないが笑うと結構愛嬌があり可愛い顔だなぁとクレアは思いつつ手を振り返す。ドットーレは顔を赤らめ、すねを師匠に蹴り上げられていた。悶絶するドットーレを見つめる師匠の視線はクレアからは見えないが、きっと冷ややかなものに違いない。


「……! ……っ!! んで、本題に入るが俺をここに呼んだ理由は何だ?」


 蹴られたすねを涙目で抱えながらドットーレがイシルビュートに問いかける。


「おう。その前にもう二人紹介しよう。入ってきてくれ」


 イシルビュートが合図をすると、階段からリビングに通じる扉が開いてレイアが入ってきた。それを見てさっきまで締まりのない表情をしていたドットーレの顔つきが驚愕のそれに変わる。


「ええええっ!!! レ、レイア様!!!??」


「うむ。イシルビュート殿の知り合いというのはオズボーン侯爵のことか」


「いやいやいやっ、どうしてレイア様がここに!?」


 突然の自国の王女の登場にぶったまげるドットーレであったが、脊髄反射で床に膝をつき謁見の姿勢をとった。レイアはそれを右手で制する。


「ここは城ではない故、そうかしこまらずとも良い」


「いえ、そうは言いましても……!」


「周囲の者を見よ。誰もへりくだっていないだろう」


 言われたドットーレはイシルビュートを見、クレアを見た。二人とも普通にしていてレイアを王族として扱おうという意思が微塵も感じられない。ドットーレは顎が外れんばかりに驚いている。それを見たクレアはイシルビュートにそっと耳打ちした。


「お師匠様、もしかして私王女様に対しての振る舞い間違ってますか?」


「ん、まあな」


「指摘してくださいよ!」


「おいおいでいいかと思って」


「おおおい、イシルお前なぁ!!」


「ははは、良いと言っているだろうオズボーン侯爵。私はこの二人に命を救われたのだ、そなたも楽にしてくれ」


「はぁ……」


 全く腑に落ちない様子のドットーレは所在無さげに中腰になり、長い両腕で持っている杖をこねくり回す。ひとまず落ち着いたドットーレを尻目にイシルビュートが合図をし、もう一人の重要人物をリビングに招き入れた。


「あともう一人、ハイドラ」


 すっと入ってきたハイドラは無愛想な顔でリビングの椅子に腰掛け、足を組んで人を見下すような表情を浮かべる。


「こいつはハイドラ。沼地に住んでいる毒竜の人間形態だ。訳あって今ウチで療養してる」


「!?!?!?」


 せっかく少しは落ち着いたというのに続いて入ってきたハイドラの説明によりドットーレはさらに混乱の渦へと叩き落とされていた。目玉が飛び出そうな勢いでハイドラを見つめ、「毒竜!? 人間形態!?」と言っている。無理もない。クレアだって、自宅に毒竜がいるという事態にまだ慣れていなかった。


「とりあえず皆、座ってくれ。順番に説明する」


 そう言ってイシルビュートはつい三日ほど前に起こった事態を秩序立てて話していく。

 頭の上にクエスチョンマークが飛び交っていたドットーレであったが、話を聞いていくうちにその表情は深刻なものとなり、話が終わる頃には眉間に深く皺が刻まれていた。


「なるほどなぁ。……お前な、そういう理由で毒竜の存在を庇っていたんならもっと早くに言っておけよ。そうすりゃ他のやりようがあったってモンだろ」


 横目でレイアをチラチラと見ながらもイシルビュートとの会話を進める。


「すまん、あまり知られたくなかったもんで」


「前に比べりゃあ一人で何でもやろうとする癖もなおってきたと思っているが、相談されなきゃ手の打ちようが無い」


「だから今こうして頼んでる」


「まあ、そうだな」


 ドットーレはテーブルに肘をついて前のめりにイシルビュートの方へ上体を近づける。

 ちなみにイシルビュートの隣にはクレアが座っているので必然的にクレアとの距離も近くなるのだが、こう、至近距離で見る大男というのは迫力があった。そもそも顔の大きさが段違いだ。クレアの二倍はあるだろう。


「そんで、聖女の魔術書を盗みにテオドライトの王宮にクレアちゃんを潜入させたいってか」


「ああ。なるべく目立たないような方法をとりたい」


「うーん」


「潜入さえ無事にしてしまえば、あとは王宮内での居場所は私が確保しよう。私の周りは人も少ないし、動向も注視されていないから容易だと思う」


「問題はどういう形で潜入させるかだな」


 レイアの言葉にイシルビュートが頷き、言葉を続ける。

 ドットーレは腕を組み、頭をひねっていた。

 城という場所にこっそり潜り込むのに、一体どういう形を取れば一番目立たないのか。クレアには全くもって想像がつかない。ただ、たとえどんな役回りだろうと絶対に任務は成功させるという気合はあった。


「よし、色々と方法はあるだろうが怪しまれないというとこの手しかない」


 やがて考え込んでいたドットーレが目を見開き、力強く頷いて呟いた。

 どんな手だろうか。

 クレアは固唾を飲んで次の言葉を待つ。

 どんな役回りでも、完璧にこなしてみせる!


「クレアちゃんは俺の婚約者として、城内へ随伴させる」


 バァン!!

 

 ドットーレが言葉を発した次の瞬間、轟音とともにリビングのテーブルが真っ二つに割れた。

 何が起こったのか正確に把握出来た者は皆無だったが、割れて床へと沈んだテーブルの上にイシルビュートの足が乗っているからして彼の仕業に違いなかった。

 イシルビュートは凄まじい形相でドットーレを睨め付ける。鬼のようだ。


「テメエ……次に同じことを言ったらその口二度と聞けなくしてやるぞ……」


「お、おお……お前本当にクレアちゃんのことになると容赦ないな」


「親バカが過ぎるだろう」


「やかましいわ、ハイドラは黙ってろ。大体、侯爵のお前がいきなりクレアを婚約者として連れてきたらそっちの方が目立つ。クレアは身分どころか出身国すらわかってないんだぞ、突っ込まれて色々と聞かれたら逃げられないだろうが!」


「じょ、冗談だよ。そう熱くなるな」


「冗談? 冗談には聞こえなかったけどな。なし崩しに結婚までこぎつけようとしただろ、俺はそんなの許さない」


「あの、お師匠様。気持ちは嬉しいのですけど家具は壊さないで下さい」


 クレアはペンを掴んで一振りする。割れたテーブルと散らかった破片が宙に浮き、ピタリとくっつく。師匠特製の「壊れたものを元に戻す魔魔術陣」だ。この魔術陣は何かと便利で、割れたお皿やコップも元に戻るので重宝している。


「まあ、イシルビュート殿が言うように婚約者は無しだな。確かに私の話し相手として側にいてもらうにはうってつけの存在だが、クレア殿のアリバイ作りに時間がかかり過ぎる」


 レイアも婚約者設定には反対のようだ。クレアは無いなりの知恵を絞り提案をする。


「普通に魔術師として入城したらダメなんですか?」


「ダメだ」

 

 これにはイシルビュートが即答した。


「魔術師が城に召しかかえられるには、最低でも上級魔術師にまでならないといけない。実力だけならすぐにでもなれるだろうが、魔術機関には敵がいる。目をつけられれば一巻の終わり、俺みたいに濡れ衣を着せられて追放されでもしたら大ごとだ」


「うーん」


 なかなか難しい問題のようだった。

 しばらく皆で再び考える。我関せずの様子のハイドラは暇そうに頬杖をついてうつらうつらとしていた。寝ることで傷を回復させているらしく、この三日間ハイドラは日がな一日寝て過ごしている。

 胸元に巻かれた包帯を見るたびに申し訳ない気持ちとやってしまったという気持ちがクレアの胸に去来し、罪悪感を増幅させる。

 何か方法を考えなければ! しかしクレアには何も思い浮かばなかった。役立たずだ。

 そんなクレアとは違い、大人三人組は意見を交わす。


「身分が低くてもできる仕事ならば、召使が妥当なところだろうな」


「だが後ろ盾が無いと怪しすぎて採用されない」


「おっとイシル。そこは俺の出番じゃないか?」


「成る程、オズボーン侯爵の遠縁かあるいは弟子ということにすれば……」


「弟子か。資格取得前の弟子ということにすればそうそう怪しまれないかもな」


「資格?」


 師匠の言葉にクレアは不思議に思って首をかしげた。魔術を使うのに資格が必要なのだろうか。


「テオドライトの魔術師は国で厳しく管理されている。全ての魔術師は、養成学校に入学するか登録されている魔術師を教師にする必要がある。でもって魔術機関の試験に合格しないと公共の場で魔術を使っちゃならないんだ。

 ロレンヌは魔術師の数が少ないから事情が違うし、クレアと俺は国外の人間だから例外として扱われている」


「そうだったんですか、全然知りませんでした」


「ロレンヌと同じ感覚で人前で魔術陣を発動すると牢屋行きになるから気をつけろよ」


「はい」


 肝に命じておこう。

 

「あとはクレアちゃんの設定を煮詰めていこう。ある日突然空から降って来た天使のように可愛い女の子が、『ドットーレさんのお嫁さんにしてください!』と言ってきたというのはどうだろう?」


「殺すぞ」


「オズボーン侯爵とイシルビュート殿は仲が良いな」


「ただの腐れ縁です、レイア様」


 なんだかんだ言い合いながら、クレアの潜入時の設定についてをまとめていった。

 ちなみにハイドラは会議中ずっと寝ており、終わった時にイシルビュートに揺すり起こされて欠伸をしながら「くああ……終わったか」と呑気に言っていた。



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