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レイアの言い分

「私はテオドライト王国の王女として、この瘴気の原因である毒竜の討伐に来た」


 横たわったままでレイアはそう語り出す。呼吸は先ほどよりも深くなり、息苦しさは取れたようだ。クレア、イシルビュート、ヘンリーの三人はベッドの周りに集いレイアの話を静かに聞く。

 ちなみにイシルビュートがハイドラと呼ぶ毒竜は時々苦悶の呻きをあげながら寝込んでいた。こちらも具合が悪そうだが、ひとまず放置されている。


「テオドライトは沼地の瘴気を理由に、再びロレンヌに戦争を仕掛けるつもりだ。

 これほどに瘴気が濃くなったのは、ロレンヌがあの地に毒竜を呼び寄せたせいだからと。停戦条約だけではテオドライトを信用できなかった彼の国が、沼地へ毒竜を呼んだのだからな。

 私は……どうしても戦争を回避したい。しかし王家伝来の瘴気を払う癒しの魔術は、今の王家には使える者がいないんだ。発動の要となる肝心の聖力を私は持っておらず、このままいけば開戦派の声に飲まれて王家はロレンヌに宣戦布告をするだろう。また人々の血が流れる前に止めたくて、私は瘴気の原因とされる毒竜の討伐へとやって来た」


「お供も連れず、どうして一人で?」


 クレアがそう問えば、レイアは自嘲めいた笑みを浮かべる。


「私は王族であるが地位は低い。そもそも聖力というのは直系の女子に色濃く受け継がれるのだが、私はそれを持っていないからな。落ちこぼれの王女というわけだ」


「聖力が強い妹がいたろう」


 イシルビュートが問うとレイアは表情を暗くした。


「世間には公表されていないが、十二年も前に死んでいる」


「……あぁ、それ事実だったのか。参ったな」


 イシルビュートは何かを思い出したようで、息をつく。クレアにとっては近いとはいえ行ったこともない国の王女が一人死んでいるからといって別段心を動かされることなんてないけれど、二人の様子を察するに重要事項らしい。

 ちなみにヘンリーは後ろに突っ立って「まさか、あの王女が……?」などと意味ありげにつぶやいているが、イシルビュートに「知ったかぶりだろ」とつっこまれて黙り込んだ。知ったかぶりだったらしい。


「稀代の天才魔術師、と呼び声が高かった貴殿なら知っているだろう。王家が聖力と浄化の魔術を使えないというのがどれほど深刻な事態なのか。

 私が使えれば話は早かった。瘴気を払い、病んだ土地を癒せばいいだけだからな。しかしそれが出来ないのだから他の手を考えるしかない。

 そう、毒竜を倒すしか……!」


 にしても、と言いながらイシルビュートが呆れ顔で王女を見下ろす。


「一人でどうにかなる相手じゃないだろう、無謀な王女様だな」


「それでも……!」


 呆れた声のイシルビュートにレイアは反論する。


「それでも、何かせずにはいられなかったんだ! たとえこの身が滅びようと、一矢報いられればと!」


「それじゃ全然討伐できてないじゃねえか、ただの犬死にだ」


「ならばどうしろと! 聖力も持たず、何もできない私は王家にとってただのお荷物だ。瘴気の原因である毒竜討伐は……戦争回避の必須事項だ。できなければ今度こそロレンヌとの全面戦争に発展するんだぞ!」


 レイアの悲痛な叫びにクレアは胸を打たれた。

 なんて国民思いの王女様なんだろう。聞いたところお城での待遇は良くなさそうなのに、たった一人こうして国のことを思って毒竜の討伐に来るなんて。クレアの気持ちは完全にレイア寄りになった。


「お師匠様、やっぱり毒竜は倒すべきなんじゃあ?」


「そうだ、貴殿が止めなければあのまま毒竜を倒すことができたんだ。なぜ止めた!」


「ほら見ろ荒野の魔術師殿。皆、僕の言い分と同じではないか。此の期に及んでなぜまだ竜の奴めを庇おうとするんだ」


 そこでクレアはピンと思いつく。


「もしかしてお師匠様……何か毒竜に弱みでも握られてるんですか!?」


「はぁ? どうしてそうなる」


「だってお師匠様がこんなに歯切れが悪いのなんて、珍しいですもん。なんなら今、私がトドメを刺しましょうか?」


 クレアはベッドでのうのうと寝込んでいる毒竜を見た。もしもこの竜が尊敬する師匠の弱みを握ってこうして助けられているのだとしたら……許せない。

 師匠を利用するという腐った性根も、師匠に特別扱いされているという事実も度し難いことだ。

 

 師匠の一番は、過去も現在も未来においても自分一人だけでいい!


 ずっと二人きりで育てられたせいか師匠好きが過ぎるクレアの思考回路は若干危なかった。

 

「お師匠様の特別……排除しないと。今すぐに……」


「おいっ、お前の弟子の目つきがヤバいぞ。止めろ!」


 ゆらりと立ち上がり、床に転がっていた突っ張り棒を手にして危ない目つきでハイドラを見つめるクレア。この家にはいついかなる時でも戦闘態勢が取れるよう、棒状のものがそこかしこに置かれていた。

 危険を察したハイドラが叫ぶ。


「ふふふ、お師匠様待っててくださいね。今すぐ私がこの邪竜にトドメを刺しますから」


「弟子教育がなってないんじゃないか!? 余の命が危ない!」


「やめろクレア。お前ら全員誤解してる」


 イシルビュートは頭をぽりぽりかきながら、ため息をついて否定した。


「ここにいる毒竜……ハイドラは瘴気の原因じゃない。むしろその逆だ」


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