目覚めと歴史書と孤児院?
設定回っぽいのになりました…
「……」
私は、混乱しています。
「……」
周りを見渡せば、こじんまりとした机に置かれた紙と本も合間って学寮みたいな感じを醸し出す何処にでもある様な小さい部屋。カーテンの隙間から差し込む淡い早朝の日光が私に時を告げてくれます。
そして私はその部屋に設けられたベッドに寝ていました、隣の毛布にくるまってる幼女と一緒に。
“というか私助かったんですね…有難うございますスキルさん…”
どうやら不死スキルはちゃんと機能してくれた様です。
そして隣の見知った精緻な寝顔を拝んでしみじみします。
“ゴブリンちゃん助けてくれたんですね…”
いい子すぎる、私ならこんな不審者絶対見殺しにするのに。
というかいつまでゴブリンちゃんって呼んでるんでしょうね私…名前ちゃんと見たじゃないですか…確かシャルルちゃんですね。
“ぐっすりと寝てるところ申し訳ありませんが、起こしましょうか。”
いやこのままシャルルちゃんの寝顔を拝見するのも一向に構わないのですが、流石に状況が不明瞭すぎますね。
“まぁあの森を抜けられただけでも収穫ですね、ようやく文明社会に帰ってこれましたよ…というわけで”
ツンツン
「朝ですよ〜?」
あ、ほっぺ柔らかい…
ツンツンツン
「起きてください〜…」
プニプニです…
ツンツンツンツン
「……」
嗚呼、尊い…
もはや無言でほっぺをツンツンする作業に没頭してしましました…
「ううん……」
シャルルちゃんの呻き声でようやく現実に引き戻されます。
「はっ!?私は何を…」
そしてシャルルちゃんは寝返りを一つ打ち顔を布団で隠してしまいます。
「そんなぁ…」
もうあのほっぺに触れないなんて…
とちょっとした絶望感に駆られる私、当初の目的なんざとっくに忘れてしまってます。
“いやいや、眼を覚ますのですよ私…”
これではただの変態です、いや否定はしませんけど。
“しかし起きそうにありませんね…”
やり方はあれだがこれで起きないなら相当疲れてるんでしょう、起こすのは後にしてまずは自力で情報収集しますか…
“といってもこの部屋からでれない時点で何が収集できるかなんてたかがしれてるんですけどね…”
まぁやらないよりはマシでしょう。
“というわけで先ずは本ですか…”
なんといっても人の進化の階段ですからね…
“どれどれ…大陸歴史 著者 エルビン・アクトンですか…歴史書ですかね?”
それにしても異世界文読めますね、翻訳機能でもつけてくれたんでしょうかあの神様…
“ステータスは普通に日本語表示だったから…母語で見えるのでしょうねきっと。”
まぁとりあえず読みます、何か役に立つことあるかもしれないし。
そして本を開いた私はちょっとした驚愕に襲われました。
“羊皮紙じゃないです…”
現代社会に生きた者としてはとっくに見慣れた物ですが…
“この異世界、結構文明レベル高いのでしょうかね…”
そして索引ページを開きます、流石にこの分厚い本を読破は時間的に無理なのでかい摘んで読みましょう。
“大陸地図…“
まず目に着いたのはこの大陸の地図です、今いる地名すら分からんですし見ても意味ない様な気もしますが…
“小縮尺図ですか…かなり大きいですね…”
精々ヨーロッパくらいかと思ったら全然違いました、アフロ・ユーラシア大陸と同じくらいの滅茶苦茶大きい超大陸です。
“名前はソルデム大陸ですか…”
なるほど、このどでかいの一つで一大陸なんですね…異世界デカすぎやしませんかね。
形はどちらかというと北アメリカに似ています。主体は弧が窪んだ傘型に半島がくっついたような形状で傾いたキノコの様に見えます、中央部分に長い山脈があり半島から傘のてっぺんまで大陸を北西と南東にほぼ両断しています、プレート衝突でもしたんでしょうか。
そして北東の端っこと北の弧の窪みにそれぞれ群島があります、それと西南海域に輪っか状の何かがあります。
“輪っか…?何でしょうか…まさか島?”
エルレンス輪島…まじですか、いつか行ってみたいものです。
“そして北側には国やら地形やら結構詳細に記されてるのに対して南側はほぼまっさら…”
恐らく私は北側にいるんでしょう。
“それにしてもかなり正確ですね…”
等高線、等深線なども完備しています、飛行魔法とかでもあるのでしょうか。
“一番大きい国は…カーゴ帝国、レイシェル聖教国、…なんかもう国の名前だけで凡その情勢がわかりますね…”
どうせ帝国が悪役なんでしょう、多分。そして聖教は内部が腐ってたり。
“しかも両極体制っぽいですね…北が帝国で他国を跨いで中央が聖教国…”
冷戦とかしてないでしょうね…
“おお、ティタン大森林…?中央よりちょっと北…隣はミレノ王国、バルティア王国…もしやここが私が落ちた場所でしょうか…”
もう一度地図を見渡しても森林地区はそこ一つでした、いやまぁ大陸地図なので小さい森なんかは記されてない可能性もありますが…
“成る程…ほうほう…”
そして段々と本に没頭して行った私は失念していました。
ここは学生時代慣れ親しんだ私の勉強部屋ではないことを。
・・・・・・
「………」
こいつは一体何をしているのだろうか、そんな疑問が頭をよぎった。
「………」
視線の先まるで我が家の様に寛ぎながら私の本を読んでいる奴を見て、内心溜息をつく。
“普通なら三日ぐらいはぐっすりになる薬盛ったのに…なんで一晩でピンピンしてるのかしら…”
そして体を起こすが、誰かさんは気づくよしもない。
“図々しいというかなんというか…”
しかし別段とやる事も無いのでしばらく眺めてるのもいいだろう。
“それにしてもこうして見ると本当に変な奴ね…”
刺青付きのオッドアイもそうだがそれだけでは無い、お昼の陽光を受け煌めく白のワンピースに身を包む黒髪の少女は、本を読みながら時たま呟かれる異国の言葉と相まって浮世離れした雰囲気を醸し出していた。
“そういえば、小さい頃院長先生が話してた童話にそれっぽいのあったっけ…”
しかしそんな子供騙しの童話では到底形容できない“何か”を、私は目の前の少女から感じた。
“恐怖…かしら。”
目を伏せ想いを馳せる、確か昔みた本に書いてあった。
“人に似た異形は恐ろしい…か。私が言うセリフじゃ無いわね…”
などと考えている時、ふと、どちらが意図した訳でも無いが二人同時に頭を上げた。
どうやら一節読み終え一息つこうとしたのだろうか、丁度目線が交差する。
「えっと…」
「あの…」
気まずい。
・・・・・・
“予想以上に没頭してしましました…失策です…”
しかし新たな知識というのは往々にして魅力的なのです、人ならば誰もがそう思うでしょう。
“さてこれぐらいにしておきますか…もうお昼っぽいですし。”
丁度一節を読み終え顔を上げた時
「………」
“うそ、いつ起きてたんですか…”
丁度こちらを凝視してたシャルルちゃんと目が合いました、どんだけ本にのめり込んでたんでしょうかね私、本末転倒もいいとこです。
「えっと…」
「あの…」
そして流れる気まずい沈黙、どうしましょう。
「あの、そちらから…」
ありがとうございますシャルルちゃん、貴女は天使です。
「えっと…その…どこから話せばいいやら…」
なんでしょうか、私はいつからコミュ障になったんでしょうか。
「あの…まず名前聞いて起きたいな〜…なんて?」
と遠慮がちに話題を振ってくれたシャルルちゃん、そして私は重大な事に今更気がつきます。
“私の名前、なんでしたっけ…?”
ステータスには無いし前世の記憶も無い、まじですか。
“名前…名前…”
一秒にも満たないわずかな時間で私は考えます、そして
「私の名前はティレスです、宜しくお願いします…」
ティンダロス→ティレス、安直ですがこの短時間で考えたにしては十分でしょう、ついでにステータスも見てみます
個体名:ティレス
なるほど…最初につけられた名前が個体名になるのですね…改名とかめんどくさそうです。
「ティレスちゃんって言うんだ…私の名前はシャルル、宜しくね。」
はい、知ってました、いやまぁステータス見れるなんて言っちゃダメですけど。思いっきりプライバシー侵害ですしね。
「あ〜それで結構聞きたいことあるんですけど…とりあえず、ここはどこですか?」
まずはそれを聞いておこう。
「此処から森に行ったんじゃ無いの?」
ごもっともな質問で…しかし答えることはできません。
「えっと…ちょっとした事情があって此処から入ったわけでは無いんですよ…」
目とか泳いで無いでしょうか、しかし仕方ありません、この世界で異世界人に対する扱いがまだよくわからないので迂闊に事情を暴露するのはNGです。
「そうなんですか…此処はミレノ-ティタン貿易都市です、ミレノ東国境付近では最大の都市ですよ。」
ミレノ-ティタン…やはり私が落ちた森はあそこでしたか…
“さっきティタン大森林に落ちた前提で言い訳考えて置いて良かったです。”
「実は家族と一緒にバルティアから来たんですが両親から逸れてしまって…」
バルティア王国はミレノ王国と共に東国境が森林と隣接している国です、バルティアが北側でミレノは南、距離的でも確かに移動可能です。
“それになにかと都合のいい設定でしたしね…”
まず一つ目、バルティアでは奴隷制、人身売買が完全に肯定されています、そしてバルティアからミレノまではちゃんとした貿易通路があるので、森を通る必要なんざ全くありません。そして極めつけは私の目の刺青、これは完全に奴隷の印と言い張ることができます。
“私は奴隷で商人から森まで逃げた、ぐらいに考えてくれれば目標達成なのですよ”
人は他人が言うことには疑うのに自分が思い込んだら事柄にはあることないことこじつけて信じようとします、たとえそれが単なる誤解だとしても。
少なくとも訳ありとは伝わるはずです、余計な詮索は恐らく入りません。”
次に、バルティアは奴隷を含めば多民族/種族国家です、これはシャルルちゃんに見られた私の能力の説明になります。エルフなどの亜人も売買されてるらしいですしちょっとした特殊能力ですとでも言えば信じてくれるだろう。
“それに多分シャルルちゃんも少しは打ち解けられると思います…恐らく自分の種族は隠してますからね…ゴブリンは魔物と明記されていましたし。”
そして最後に、ほぼ全ての国に見られる普遍的な低教育人口。これは奴隷制と相まって私の異世界へ対する無知の最大の弁護になります。
“流石に短期間で常識やら学問やらを完全に学ぶのは無理ですし…”
どんな常識外れな言動でも元奴隷で小さい頃から外に出たことありません、と言ってしまえば大概はいけるでしょう。
「そうなんだ…えっと…その…」
と言葉を選びづらそうにして目を伏せるシャルルちゃん、どうやら私の目論見は成功ですね、正直10歳相手に考えすぎだという気もしますが。
「いえ、私は大丈夫ですから…」
本当に大丈夫なのであまり気負わないで欲しいです、なんか罪悪感まで湧き出てきました。
「えっと、私の事はもういいですので此処について教えてくれますか?」
出自についてはちゃんと取り繕えましたし、情報収集です。
・・・・・・
「実は家族と一緒にバルティアから来たんですが両親から逸れてしまって…」
そう言う彼女の表情には不自然なところは一つもない。
“バルティア…亜人奴隷っていうならあんなところにいたのもわかるわね…あの変な刺青は奴隷の印かしら…”
確かに彼女の自己申告は天衣無縫だ、非の打ちどころもない。
“でも、多分そうじゃない…”
根拠はない、単なる勘だ。
“まぁどうであれ行き先はなさそうだし、あそこで鉢合わせたのは多分本当に偶然ね…さてどうするか。”
その場の心情に流されて連れて来たは良いが…
“まぁ別に目的もなさそうだし、手元に置いておくのもいいかもね…”
そう考え、一つ提案を口にする。
「あの…もし行く当てがないんだったら、此処に住みませんか?院長先生に聞かないといけないけど…」
この孤児院なら素性の知れない彼女でもきっと置いてくれるだろう、彼はそういう人だ。
“そういえばもうすぐ先生の誕生日ね…”
何か用意しないと…
・・・・・・
コンコン…
「院長先生~起きてますか~?」
シャルルちゃんの後ろで私は目の前の‘院長室’と彫られた木の扉を見る。
“孤児院だったとは…いや薄々感づいてはいましたが。”
確かにまがいなりにも魔物のシャルルちゃんが住める場所の数などたかが知れてましね。
「おぉ、シャルルかい?入ってくれたまえ。」
と扉越しにくぐもった老人の声が聞こえます。
「失礼しま~す。」
と扉をあけ入っていく彼女の後を慌てて追います。
目に入ったのはシャルルちゃんの部屋と大差ない小部屋でした、数少ない家具の中で最も目立つのは部屋の角に設けられた大きい書架です、部屋が小さいせいか妙な威圧感を持ってます。
そしてその書架のすぐ隣で木彫りの椅子に座っているのはややくたびれた衣服に身を包んだ白髪の老人でした、机の上にはついさっきまで書いていたらしき紙の束と灯していない小さなランプがあります。
「それで、なにか用事かの?シャルル。」
「はい、実は…」
と森の中から今までの出来事をかいつまんで説明するシャルルちゃん、そしてそれを神妙な面持ちで聞く院長。
「ふむ、事情は分かった、彼女の事はちゃんと検討する、だがしかし、まずはシャルル、お主の問題の方が先じゃと儂は思うがのう?」
という院長、そして気まずそうな表情でうつむくシャルルちゃん。
「街から出るなと何度も言ってるであろうに、よもや森にまで入るなんぞ言語道断であろう?今回は何とか切り抜けられたとして、次は、その次は…幸運はそう長続きしないものじゃよ。」
と緩やかながらも厳粛にシャルルちゃんに言い聞かせる院長、叱られるシャルルちゃんは不憫ですが言ってることに間違いはありませんね…
「はい…ごめんなさい、院長…」
「わかれば宜しい、それと儂だけではなく他の子たちにもちゃんと謝ってくるのじゃぞ。皆心配しておった。」
「はい…」
う~ん、なんか校長先生に怒られる生徒のように見えますね、まぁ何はともあれ一件落着したようで結構です。
そして院長は私の方に振り向きます。
「ふむ、それでそなたが…?」
「はい、ティレスと言います、バルティア出身です。」
どうやらようやく私の番のようです。
「バルティア…成程、多くは聞くまい。」
そう言いながらも目に哀愁を漂わせる院長先生。
“いい人なんですね…”
他人の不幸に同情よりさきに悲しみを感じる人はそう多くありません。
「では、改めて聞こうかのう、ティレスよ。」
そう言いながら立ち上がる院長。
「そなたの過去を儂は知らん、過ぎ去った時間をどうすることもできないじゃろう、だがしかし過ぎ去った過去は変えられずとも、今をより良く生きることはできる。」
私はその慈愛に満ちた顔を見て、感じました
「儂は数多の不幸な子を救うためにこの孤児院を立ち上げた、それは今でも変わらぬ。」
ただ騙っただけのはずの悲しい過去が、本当に救われたように。
「だからこそ、そなたさえ良ければ此処はお主に門を開こう。孤児ではなく、新たなる家族の一員として歓迎しよう。これはお主だけではない、此処にいる全ての子皆に、儂が抱く思いじゃ。」
たとえベクトルは違うとしても、私もやはり寂しかったのでしょう、この広大な未知なる世界に放り出されて。
私の頭をポンポンと叩く大きな手に、一抹の郷愁と涙意を感じてしまったのは、仕方のないことかもしれません。
そして私は心を決め、想いを口にします。
「これから、よろしくお願いします、院長先生。」
その言葉を聞いた彼は、しわくちゃの顔を子供のような笑顔にゆがめました。
「歓迎するぞ、ティレスよ。」




