キチガイと儀式と変な奴?
リアルで忙しかったのですが、再開できそうです…
“これは…どうしましょうか。”
扉の影に身を潜めながら思います。
“結構まずいですよね…この状況。”
「IA’IA’ !folld!!」
緑、見渡す限りの緑。
壁に、床に、衣服に、人に。
ありとあらゆる所に緑は点在していました。
そして円陣を組み狂い叫ぶ十数人のローブの集団。
“漸く見つけた人達がこんな気狂い共だったとは…”
スキルに導かれるまま見つけた裏路地、その一番奥にあるのは一見すると只のゴミの吹き溜まり場。しかしよく見ればゴミ溜めの隙間から漏れる微細な光、邪魔な樽やら木箱やらを退けて見ればそこには鉄格子の門と地下へ続く階段。
“あの時点で引き返せば良かったです…”
しかし後悔先に立たず、明らかに怪しいその扉に入った数分前の自分を殴りたい所です。
階段を降りた後、決して長くはない一本道の通路の奥には小さな円形の部屋がありました。
「iiilgfjoww!aqll!ma’m」
あいも変わらず円陣を組み意味不明で不快な叫びを上げるボロ布の様なローブに身を包んだ集団。しかし此奴らが突然叫び出したお陰で身を隠すという考えを与えてくれたのは僥倖でしょうか。
“見た目が普通なら多分姿を見せてしまったでしょうし…末恐ろしいです。”
「うーー!!うあーー!!」
そしてその円陣の中心に吊るされた全身をミイラの様に布でぐるぐる巻きにされた人型の顔面部分で、恐らく口に当たる陥没から明らかに違う意味合いを持った叫び声が聞こえるのが痛ましいですけど…
“申し訳ありません、私にはどうにもならない様で。”
恐らくはカルト教団のサバトでしょう、あの活きミイラはさしずめ生贄と言ったところですか。
“此奴らもただ叫んでる訳じゃなさそうですね…なんか意味が有るのでしょうか…”
翻訳されない所を見るにここの住人が使う言葉では無いようですけど、どうもきちんと抑揚などを付けられているよです。どちらかというと大声で何かの文章を朗読しているような。
“後はこのカビっぽい何かでしょうか…”
この地下室に光源なんぞ無いにも関わらず辺りは悍ましげな緑色の光に照らされ、そしてその元を辿るとこの部屋と奴らの衣服に付いている発光物体になります。それに此奴らの叫び声の高低につられこのカビっぽい何かの発光強度も絶えずに変化しき、正直に言って目に悪いです。
“というか儀式でもなんでも良いですのでさっさと終わらせてくれないでしょうか…この体勢いい加減疲れました。”
外の通路にある半身高の木箱にしゃがみ身を隠して既に三十分、延々と意味のわからない叫び声を聞かされれば萎えるも当然でしょう。
「ilgfjoww!」
そして一層大きくなる叫び、緑の謎物質が更にその輝きを強める。
「ilgfjoww!!」
そして其奴らは黒いローブの中から瓶と短剣を取り出し始めました。
“酒…?”
瓶栓を開けた瞬間に蔓延る鼻をつくアルコールの匂い、そして奴らはおもむろに瓶の中身をあの活きミイラに向かって振りまきました。
降り注ぐ黄色い液体が地面にシミを作り、それと共にその人型の叫びが段々と弱くなって行きます。
そして先ほどまで叫んで居た奴らは瓶が空になると共に一斉に沈黙します。
“終わった…?”
先ほどの喧騒とは打って変わり微動だにしない奴ら。
“このままどっかに行ってくれたら嬉しいんですが…ミイラさんに色々聞きたいですし…!?”
ドス…
そんな私の考えを打ち砕くかのようにおもむろに振り上げられる奴らの腕、その先に掴まれた短剣の切っ先は彼らの中央へ…
ドス…ドス…ドス…
十数人が一斉に短剣を振り下ろす音は異様なまでに統一されていました。
ドス…ドス…
そして空く穴から止め処なく流れ出す赤い液体がやがて地面に水溜りを作っていきます。
ドス…ドス…
もはや原型を留めないほど突き刺された人型、先程の黄色い酒の様な物と血が混ざり合った液体の飛沫は壁にすら飛び付き、部屋を埋め尽くしていきます。
ドス…
一斉に止まる音、投げ捨てられた短剣がカランと地面に転がり、そしてぞろぞろと階段に向かって歩き出すローブの集団。
“見つからない見つからない見つからない…”
微動だにせずに扉の裏で念じた功が奏したか、奴らは別段他所を気にかけることもなく階段を上っていきました。
“あれの後を追うのはまっぴら御免です。”
キィ…と上で金属が軋む音…鉄格子の門が閉じられた音でしょう。
“助かった?”
辺りを静寂が包む。
そして漸く私は身を隠していた扉から出る事が出来ました。
「酷いです…」
部屋の中央の異様なまでの存在感を放つ吊るされた人型…いや、人型などではもう無い只の肉袋の様なそれに、触る勇気など私にはありません。
「うぅ…鼻が曲がりそうです…」
酒と血の匂いがどんどん充満していきます。
「さっさと出て行き…!?」
と先程の集団が消え去ってから反応が無かったスキルが突然何かがいる事を伝えます。
“一人じゃない、大きすぎます…一匹?だけ…こっちに向かって来てる…”
キィ…
鉄格子の軋む音、もう一度木箱の後ろに身を隠れます。
そして見えた“者”に思わず声を上げそうになりました。
“大きい…三メートルぐらい…蟻?それとも蜂…?”
一見すると昆虫的な外観をしたそれは、しかしよくよく見れば更に他のソースが混じっている事がわかります。
一見女王蟻の様な翼を持つけれど、その皮膚は甲殻の滑った光ではなくまるで人の様な皮膚に覆われ、翼も蝙蝠が持つ骨に薄皮を貼り付けた様な物、唯一蝙蝠と違うのはその先端についた鉤爪でしょうか。
そして何よりアンバランスなのは、トカゲの様な頭についたその瞳でしょう。何故ならば、確かにその目にはある種の思惑が見て取れたからです。
“だけどこんな怪物が何をしに…”
黙ってやり過ごす、それしか無いのでしょう。
しかし私は失念していました。
“え?”
獣が、人より物探しに劣るはずがあるのでしょうか。
グシャ…
身を潜めた木箱がいとも簡単に壊された瞬間、そんなシンプルな道理を私は悟りました。
「………」
交差する視線、一瞬でフリーズアウトする思考、固まった体は身動ぎ一つできません。
血液が逆流する様な錯覚に襲われます、いつかの狼さんよりも更に絶望的な状況でした。
「………」
己には永劫とも思える静寂は、しかし結局の所精々数秒であったのでしょう。
「オマエ ダレ…?」
甲高い子供の様な子供の声、その巨躯との異様なミスマッチに不覚にも思ってしましました。
意外と可愛い…と。
ついに気が触れた前哨なのかもしれませんが、問われれば答えるのが人の性。例えそれが人ならざる者の問いかけであっても。
「私はティレスと言います。あなたこそ、誰ですか?」
言葉を解し、そしてすぐに襲ってこないのならば恐らく明確な敵意は無いのでしょう。
そして私が問いかけた後、目の前の異形は復唱する様に何処ともしれない発声器官から声を出します。
「…アナタ、ダレ?……」
まるで困惑する様に頭を振りながら俯くそれを見ていると段々と先程までの恐怖が引いていく気がしました。
“意外と友好的…かも?”
「ヒャー、バー…ピャー?………」
なんとも言えない擬音のようなものを言いながら悩むそれは、あの狂徒達よりもむしろまともに見えます。
そしてようやく悩み終えたように頭をあげるそれは、瞳を輝かせながら、その名を口にしました。
「
………ビャーキ!アナタ ビャーキ!」
…一人称を分からないのでしょうか、どうもあなたを己を指す言葉だと思い込んでいるようです。
「それで、ビャーキ…?さんは何を?」
どうも人には発音しにくい綴りですが、翻訳機能がなんとかしてくれると信じて私は目の前の者とコミュニケーションを取ります。
「ナニ……?……アナタ タベル!」
「食べる?…あれをですか?」
この地下室で他に食べれる物など無いですし、きっとあの哀れな生贄ミイラの事でしょうけど。
「イイニオイ!……オマエ タベナイ?」
そして唐突に露骨な警戒心を宿す瞳。
「いや、私は食べませんよあんなの…」
いや自分も既に人とは言えないが感性ぐらいは残ってるつもりです。
「タベナイ…アナタ タベル!」
そう聞くが否や首をクルっと曲げ奥に這って行くビャーキ。
グチャ…
“聞こえない聞こえない…”
心を無にして待つ事十分程度。ようやく終わったのか、なんとも言えない咀嚼音が消え、また地下室から這い出てくる巨躯。
「オナカ イッパイ…」
満足したようにそういう彼は、私に向き直りました。
「まだ何か…?」
理性があるとてやはり人外、敵意がないにしろ流石に深く関わりあうのはやめときたいです。
「オマエ ゴシュジンノニオイ……」
“御主人…?”
こんな怪物に御主人呼ばわりされる程の存在と交流したことなど流石に…
“ありましたね、そういえば…だとしたらこの子は神話生物…?”
あの神によって色々吹っ飛んだ記憶には残っていないですけど。
「ゴシュジンノトモダチ………コレ ヤル」
そう言って血塗れた大口からぺっと何かを吐き出すビャーキ。
「これは…?」
血と唾液に汚れた筒の様な石製の物体が地面に転がります。
色々な液体がこびり付いてそうな得体の知れない物を貰うのもどうかと思いますが、いつか役に立つかもしれないので拾っておきます。
“ってあれ?”
それに触れた瞬間、淡い藍光となりそれは消えました。
“まさか…”
己のステータスを確認してみると、所持物の欄には確かに見慣れない文字が書かれていました。
魔の石笛
“笛だったのですか…”
相変わらずこの所持物とやらはよくわからないです。収納、取り出しと共に謎が多い。
“今は取り敢えず置いときますか…”
「ソレフク アナタクル!」
そう言い残して、のっそりと地下室の出口へ向かうビャーキ。その後に私も続きます。
そして己の身体より小さい出口から四苦八苦して抜け出すビャーキ、外の置物はは来た時同様出入り口を隠す様に置かれてました。恐らく先程の者達が並べ直したのでしょう。
“一応直しておきますか…”
私はともかくビャーキの図体が押しのけたガラクタは一目で分かるくらいです。
取り敢えず“身体”を顕現させ触手でそれなりに片付けておきます。
「…アナタ カエル!」
そうしている内に表路地に出て翼を広げ飛び立とうとするビャーキ。通行人がいたらショック死するのではないんでしょうか。
「はい…ああそれと、あなたって一人称じゃないんですよ?」
短い間だったが正直ビャーキに対する好感度はかなり高いので、一応教えときます。
「イチニンショウ…?ナニ…?」
まあ恐らく人語を解したばかりの彼に一人称は難しいでしょう。
「いえ、何でもありません。それじゃあ、さようなら。」
「サヨナラ…?…gllgya―!」
そしてよく分からない鳴き声を残し飛び立つビャーキ、風圧に一瞬よろめきそうになる。
「gllgya―!gllgya―!」
同じ鳴き声で何度も鳴きながら一瞬で空の彼方まで飛び去って行きました。
“さよならとでも言っているのでしょうかね…”
奇妙な出会いもあるものです、そして向き合うべきは私自身の問題。
“さて、どうしましょうか。”
初めから、激動の展開に見えて実はなにも進展してない状況です。依然としてギルドへの帰り道も此処に飛ばされた理由も分からないまま。
“付近に人は居ないみたいですし…”
夜も更けて来た今頃、街中をうろついている輩がいたらそれはそれで怖いですけど。
“まあ今の私の状況だと盛大なブーメランですが…”
しかし正直取る術無いのが現状です。
“大人しくさっきのベンチに戻りますか…人は結構多かったですし。”
そこで朝まで過ごす他無いでしょう。このまま人探しをしても精々先程の二の舞です。
“幸い道は覚えてますし…”
事が穏便に解決事を祈り、今のうちに突然消えた言い訳でも考えておきましょう。




