冒険者ギルドと登録と見知らぬ街並み?
暗い街角のベンチでうずくまりながら私は考えます、どうしてこうなったのかを。
"デジャブです…"
まるで初めてこの世界に来た時森に放り出された様な心情で遣る瀬無さと共に思わず呟いてしまいます。
「どうすればいいんですか…」
簡単に言うと迷子です、段々と人気が無くなって行くのを感じながら嘆息します。
事の始まりはわけのわからないものでした。
初めは良かったのです、シャルルちゃんの解説と共に街を巡ってそして最後に"冒険者ギルド リース支部"と書かれた看板がでかでかと飾られた建物の前に着きます。
夜にも関わらず腰に剣やらポーションやらを括り付けた人達が出入りしている様は如何にも冒険者ギルドという様でした。
「着いたよ、ここがギルド。」
そう言いながらギルドに入っていくシャルルちゃんに私も付いていきます。
そしてホールらしき所に踏み入った瞬間、私は感じました。
"騒がしい…です…"
あるものは品定めをするように壁一杯に貼られた紙を凝視し、あるものはカウンターらしき所で受付に怒鳴りちらして、またあるものは設けられたテーブルでジョッキを仰ぎながらトランプの様なカードゲームに興じでいます。中には剣発怒張の雰囲気で今にも殴り合いそうな輩共から、しかしそのすぐ隣には肩を組みながら大声で歌う酔っ払い二人。
"まるで酒場です…"
百人百様の混沌とした絵図の中その全てが決して不快ではない騒音となり私を渦巻きます。
「驚いた?まぁ此処は夜になるといっつもこんな感じだからね〜もういっそのことバーにでも改装すればいいと思うよ。」
と言うシャルルちゃんに賛同しながら人混みをかき分け前に進みます。そして酔っ払い共の溜まり場を抜けようやくカウンターへ到着しました。
「あ、今日はトトちゃん受付やってるんだ。」
と嬉しそうに言いながらシャルルちゃんが行く先の受付嬢は褐色肌が特徴的な黒髪のお姉さんでした。
元は書類にペンを走らせていた彼女もこちらの声を聞き顔を上げます。
その顔を見た瞬間、私は一瞬奇妙な違和感を感じました。
"汝が深淵を覗き込む時、深淵も又汝を見ているであろう。"
かの偉大な哲学者の言葉が脳裏に浮かびます。其れ程迄にその眼は暗く、昏く、黯かったのです。その幾重にも重なり合った闇は、まるで万仭の崖を見下ろす様な、そしてその淵から見上げる様な、そんな不思議な目でした。
しかしそんな感覚は一瞬で過ぎ去ります、瞬きを一つする間にその化物じみた眼は跡形も無く消え後に残ったのはやや疲れて仏頂面ながらも優しいそうな年上のお姉さんの顔でした。
"錯覚でしょうか…"
疑問を持ったのも束の間、胸のしこりはすぐに会話に流されていきました。
「…今日は随分遅かったじゃない。」
と紡がれた言葉はまるで鈴を転がすような音色でした。
「ちょっと事情があってね…あ、そうそう忘れる所だった。トトちゃん、今からギルドカードの発行って出来る?」
おおぅ、そういえば忘れてました、不法入国(?)でしたね私。
そしてそれを聞いた彼女は私を見て、深い溜息を吐き
「出来るけど……もうすぐ上がりだったのに…」
後半小声で呟かれた言葉は考えないでおこう、いえほんとごめんなさい…
「まぁまぁそこをなんとか。」
「良いよ別に…それで、βカードはともかくA?それともB?」
と意味不明な事を聞いて来ました。
「Bだと思うよ、取り敢えず用意ぐらいはしてね。」
シャルルちゃんもまたイミフな返し、そして心底面倒臭そうな顔でトトさんが席を立ち何処かへ行ってしまいました。
「あの…βとかA、Bってなんなんですか?」
一応聞いてみましょう。
「うん?あぁティレスちゃんは知らなかったか…、ギルドカードは何種類あってね、簡単に言うと普通のがαで特殊なのがβ、固有スキル無しがA、有りがBって所かな?まぁ大きなジャンル分け以外にも色々分化してるけどそこら辺は知らなくてもいいかな、あんまり意味ないし。」
と説明してくれました。
「そうなんですか…」
"ていうか固有スキルって…検査とかされるんですかね?見せちゃあかん様な気がしますが…"
まぁ心配しても仕方ないですね、なる様になれです。
そして五分程した後トトさんが戻って来ました。
「準備終わったわ…ついて来なさい…」
と言いながらカウンターから出ていく彼女、ついて行こうとした矢先急にトトさんが首を傾げ聞いて来ました。
「…シャルル、これ以上遅れると遅刻するわよ?後にあの爺さんに文句言われるのこっちだし…さっさと行って来たら?」
との事です。そういえば当初の目的はそっちでした。
「…そうだけど、ティレスちゃんはまだ始めて来たばかりだから先に行っちゃうのは無理。ゴートさんには私から言っておくから。」
なるほど、そう言う事でしたか…
「よかったら先に行ってもいいですよ、道さえ教えてくれればこっちが終わった後私から行きますから。」
"私の都合で引き止めるのも申し訳ないですし、正直スキル検査とかされるんだったらシャルルちゃんに見せる訳にはいかないですね…"
「それにこの子を連れて行ったところで適性が無かったらどうせ待機でしょ…?私が面倒見るからさっさと行って来なさい…後でゴートの爺い煩いんだし…」
とトトさんがフォローを入れてくれます、そしてシャルルちゃんも少しの逡巡の後同意してくれました。
「それじゃあティレスちゃん検査終わったらここで休んでて、私も今日は挨拶だけだから多分すぐ帰ってこれるから。」
と言い残しダッシュで走り去るシャルルちゃん、恐らく時間ギリギリだったのでしょう。
「相変わらずね…あの子は…それじゃあ私たちも行くわよ、えっと…ティレス…だっけ?」
そう言いながら二階へ続く階段を上がる彼女に続き私も階段を登って行きます。
そして着いた二階は下の混沌とした空気と打って変わった静かな廊下が続いていました。
「そういえば…貴女シャルルといつ知り合ったの?あそこの子、他はまだ小さかったはずだけど…。」
と歩きながら急に聞いて来たラーさん。
「ちょっと色々事情がありまして…これから孤児院に厄介する事になりました。」
まぁ無難に答えておけば問題ないでしょう。
「ふぅん…まぁ下手な詮索するつもりは無いわ…着いたわよ。」
と廊下の角を何回か曲がった後に着いたのはなんの変哲も無い部屋。
「座って、それじゃあいくつか質問させて貰うわ。」
と招かれるままに部屋に設けられた椅子にトトさんとテーブル越しに座ります。その手元にはペンと白紙が一枚。
「まぁ別に無理に答えなくてもいいわよ、素性を隠して登録して来るやつなんてざらにいるから……そういえば説明とかはいる?要望次第ではギルドカード申請の際の注意点とかも説明するわ…これが一番面倒なのよ…」
との事です、いやまぁ説明は欲しいんですけど…
「あぁ、別に貴女を煙たがってるわけじゃないんだけど…ごめんね、最近はちょっと忙しいから愚痴が多くなっちゃってね…」
そして欠伸をかみ殺す様に目を細め涙を掬うトトさん。どうやら冒険者ギルドは結構なブラック会社らしいです。
「えっと…迷惑じゃなかったら少しは説明欲しいです。色々分からないことが多すぎて…」
正直忍びないですが私にとっても必要な事なので心を鬼にして(?)説明プリーズです。
「じゃあ最初から説明しますか…まず一つ目、ギルドは冒険者を守らないし冒険者の個人の問題に対する責務を負わない。要するにどっかの誰かに喧嘩売ってもギルドは関与しない、後ろ盾になる事もない。これだけは覚えておいてね。最近はそこら辺勘違いしてるお馬鹿が多いのよほんとに…」
なるほど、つまり免責釈明という事ですか。
「さてそれじゃあ具体的な物の話をしましょうか…ギルドが冒険者に提供できるのは大きく分けて二つ。一つ目は依頼の提供、内容は多岐に渡るけどその土地の需要で結構変わるから注意した方がいいわ…ギルドはあくまで仲介、依頼を提供することはない…とまぁそんなの建前でギルマス個人の名義での依頼がギルドの依頼って認識でいいわよ…。」
そして一息つき何処からか取り出したコップで水を一口飲むトトさん
「そして二つ目、依頼に問わず冒険者は持ち物を“一定の価格”でギルドに買い取らせる事が出来るわ。」
"一定の…ですか。"
「そこに義務は生じないんですよね?」
一応聞いておきましょう、前の狼さんは結局持ってこれませんでしたが以降もギルドとの金銭関係はあるはずですので。
「これはまた鋭いわねぇ…確かに買い取りやさっき言ったギルマスの依頼などに対して冒険者側は一切の義務を負わないわ。だけど…“好意による提案”を拒否した場合は、さっさと他の支部に拠点を移した方が良いかも知れないわね…とまぁあくまで私の妄言でよこれは…」
そう言いながら、さっきまでの疲労困憊を体現した様な顔に始めて微笑を浮かべるトトさん。
「あぁ、可笑しい訳じゃないんだけど、貴女の質問を聞くと類は友を呼ぶとはなんなのかよくわかるわ。シャルルが始めてうちに来た時を思い出しすよ…」
そしてより濃くなる笑み。
「シャルルちゃんが私と同じ事を…?」
「そうね…貴女よりもっと露骨だったわ…第一声が“じゃあギルドより高値で買ってくれる奴がいるならどうするんだ”と聞いて来たわね…一瞬言葉に詰まったわよ…」
なるほど、どうやら昔のシャルルちゃんは今とは結構違うっぽいですね…
「そこら辺の話は本人にでも聞いて頂戴…それじゃあ続きね、先の二つがギルドに入るメリット、まぁつまりデメリットもちゃんとあるわけよ…一つ目は手続き料、ギルドに依頼する際、そしてその依頼を受ける際、どちらも一定の手続き料を取られるわ…そしてギルドは己への依頼を冒険者以外が解決する事は禁止してる、正直依頼人側に対する制約だから冒険者達にはあんまり関係はないわね…」
「しかしそれでは抜け穴が多過ぎるのでは?」
"コンタクトを取れた後依頼を破棄する事もできる筈ですし…"
「そうね、だけど実際こんなルールで今まで順調に回って来たからね…後は諸々の裏事情…っとこれは私からは言えないけどね。これ以上喋って後でギルマスにとやかく言われるのもやだし…」
どうやら思った以上に闇は深い様です、怖い。
「とまぁこれがギルドについてよ。他にも色々あるけど正直知らなくても支障をもたらす程ではないわ。まだ聞きたい事はある?」
大体は出尽くしたっぽいです、カードの方はシャルルちゃんから聞いてますし…
「もうありません。」
「そう、それじゃあ次に移るわよ…はいこれ。」
そして渡されたのは紙とペン。
「貴女が開示できる範囲内でステータスを記して頂戴。年齢、名前は必須項目よ。」
"自己申請…?"
「それじゃあそれ以外全部答えなくても良いんですか?」
もしそうなら願ったり叶ったりです、私のステータスには面倒な所が多すぎます。
「もちろんいいけど…だけど全く開示しないとある程度の能力を要する依頼には弾かれるから注意しなさい。もしスキルとかに問題があるなら同じような効果の他のスキルでも書いておけばいいと思うわよ、例えばネクロマンシーA…みたいな人に知られたら不味いスキルを召喚術Cとでも書いておくとかね。後レベルの高さとBカード申請の際の固有スキルの有無は検査させて貰うわ…安心して、ただあるか無いかだけで詳細までは聞かないから。」
"つまり当たり障りない物を記載すればいい訳ですか…私みたいな訳ありの人ギルドに結構いるんですかね…"
まぁ確かにこの申請は便利です、というわけで渡された紙に逐一に書いていきます。
"スキルは…召喚術あるって言っていましたし、それでいきますか…"
触手限定の召喚術なんて嫌すぎますが今のところはそれを隠れ蓑にするしかないですし
"こんなところでしょうか…"
名前:ティレス
年齢:8
スキル:召喚術C
空間移動D
再生C
"スキルがちょっと変な奴程度に思ってくれればいいんですがね…"
そしてその紙をトトさんに渡します。
「ふぅん…まぁこれでいいわね。次は固有スキルの検査ね。」
"そう言えば…"
「固有スキルと普通のスキルの違いって何ですか?」
まぁ大体は予想つきますしあまり聞きたくないのですが、念のために。
"ぼろが出るのも嫌ですしね。"
「…固有スキルは天授の技でスキルは自分で習得した技能の事よ。固有スキルが発現する理由は多様だけど大体は種族的な原因ね…それにしてもそんな事も知らなかったの?小さな子でも知ってそうなもんだけど…」
"だから聞きたくなかったんですけどね…"
こういった異世界では常識中の常識を一々聞くのは必ず変に思われますし…
例えるならば前世で「小学校は何年通うの?」と聞かれ"なんでこんな常識知らないんだろう"と思いながら「六年だよ。」と答えてあげるのと同じです。
"どっかにスマホでも落ちてないですかねぇ…Wiki大先生が懐かしいです…"
とそんなあほらしい事を考えてる内にトトさんが持ってきたのは硝子のように透明な小さな玉でした。
「これは…?」
「それをもってみなさい…固有スキルがある場合は自動的に変色するから。」
なるほど、これなら確かに具体的には知られませんね…というわけです持ってみます。すると…
"真っ黒です…"
指先が玉に触れた瞬間透明だったそれは一瞬で墨染になったかのように黒くなりました。
「これはまた見事な単色ね…」
と言葉に少なからず驚愕をにじませるトトさん。
「えっと、これはつまりどういうことなんでしょうか…?」
「いや、普通の場合これは複数の色が織り交じった感じに染まるからね…まぁ取り敢えず固有スキルはちゃんとあるっていうことで…」
そして真っ黒に染まってしまった玉を何処かにしまうトトさん。
「次は何をすればいいんですか?」
というか冒険者一人登録するのにどれだけかかるんでしょうか…私の常識外れが時間のかかる大体の原因である事は否めませんが。
「うん?あぁ、もう貴女にしてもらうことは無いわ。後はこっちの作業よ…少し待っててね。」
そして部屋をでていくトトさん。
"さて手持無沙汰になりましたが…"
正直トトさんが帰ってくるまでやる事がありません。
"シャルルちゃん何してるんでしょうかねぇ…"
脳裏に浮かのは綺麗な銀髪の彼女。
"それにしても私も私で何故シャルルちゃんに執着してるんでしょうか。"
出会った時から根拠のない愛着のような物は感じましたが…
"異世界で初めて逢えた言葉の通じる個体だからか…異形の共鳴か…案外一目惚れかもしれませんね…前世の性的指向は覚えてないですが。"
まぁ本当に好きになったらその時です、今は此処で生きてくことをまず考えましょう。
そしてそうこうしている内にトトさんが帰ってきました。
「それでは、これをどうぞ。」
と渡されたのは黒光りする薄いカードでした。正面に白い文字が表示されています。
"あれ…読めない"
翻訳さんが死亡しました、どうやら意味のない文字は翻訳してくれないようです。
「これがギルドカードよ。表面には貴女のランクが表示されているわ…あぁ、忘れてた。そのままだと使えないのよそれ。カードに体液をつけて頂戴…血でも唾液でもいいわよ。」
との事なので指先をペロっとした後カードにつけてみると白い読めない文字の隣に小さく3と表示されました。
"というかいい加減面倒なのでこの文字はEに決定です、どうせ一番低いんですし。"
そして読めない文字改めてEの隣に表示されたこれは恐らく私のレベルでしょうか?
「それは貴女のレベル、レベルアップした時は同じ方法で更新できるわよ…これからはそのカードを見せれば大抵の街には入れるわよ…あとどの支部でも使うことができるし様式も変わらないわ。」
これでようやく不法侵入者では無くなりました、偉大な一歩です。
「あぁ。もし紛失したらもう一回登録することもできるけどその場合ランクとかは上書きされるからできる限りなくさないように。後一応言っておくけど、もしカード登録者と保持者が違う場合ギルドが発見次第没収になるわけだから。」
「はい、分かりました。」
恐らく自分の体液で…云々は不正防止の為にあるのでしょうね。
「さて、それじゃあ貴女はこの後どうするの?シャルルに会いに行くなら場所教えるけど…」
と聞いてくるトトさん。
「う~ん…シャルルちゃんには此処でまてって言われたんですが…」
「まぁ、好きにすればいいわ、私は仕事に戻るから…」
「はい、ありがとうございました。」
そして踵を返し一階へ戻るトトさん、私も一階に戻りますが依然としてそこは変わらなく混沌と喧騒に満ち溢れていました。
"うぅ…酒臭いです…少し外で待ってますか…"
そして正門までついたところで目の端にふと止まる見知った銀色の光。
"シャルルちゃん…?"
慌てて門を出ますが既に彼女はいません、そして踵を返した瞬間
「は?」
ギルドがあった、あったはずの、あらなければいけないはずの所には発光原理が謎の街灯に照らされた夜だというのに依然と人がごった返す道路と見知らぬ街並みのみ、ギルドなんてどこにもありません。
そして前を向けば小さなベンチが一つ。
"…???"
未だにわけわからなく頭を抱えてたい気分ですが取り敢えず座ります。
"教会はまだ見えます…"
あの外でも中でもよく見える教会があるのでまだ街の中のはずです。
"だけどどうして…"
そしてする事もなくベンチに座りながら今に至る私がいるわけです。
「どうすればいいんですか…」
救援は待ち望めない状況です、そして辺りはもう真っ黒、光源は道端の街灯のみ。
"やばいです…ショックでいままで動けませんでしたが、誰か探して道を聞かないと…"
しかし先程までは多かった人も今では人っ子一人いません。
"あ、そう言えば探査使えましたね…スキルなんざ完全に忘れてました。"
しかしあれは生物にしか反応しません。
"この際人を見つけられるだけで良しとしましょう…"
そして私は時空操作を使います、というかこれの用途今のところ探査だけですね….ギルドまで一っ飛びとかできないんでしょうか…
"お…人が結構集まってる所があります。"
そう遠くありません、直線なら精々200mぐらいです。
"どの道ほかにあてはないのです、行ってみましょう。"
そして私は立ち上がり夜の街に足を運ぶのでした。
・・・・・・
そして少女が立ち去ったベンチに一羽のクロトキが舞い降りた。
「精々失望させないで頂戴…」
風とまじりあい流されるどこからともなく聞こえた声、しかしそこには誰一人としていない。
そして飛び立つクロトキの羽音を最後に、そこは今度こそ静寂に包まれた。




