柱と行列と検問のおっさん?
更新間隔長くなりそうです…
さて、こうして漸く異世界初の街デビュー(?)する私です、シャルルちゃんと他愛の無い会話をしながら歩く事早一時間、さっきまでは自己主張が結構激しかったお天道様もすでに水平線近くです。
“それにしてもまだ着かないんでしょうか”
孤児院を出たばかりの時はまだ疎らに木々も見えましたが今は周囲は一面の野原と延々続く一本道のみ。
「まだ着かないんですか?」
と隣で歩くシャルルちゃんに聞いてみます。
「うん?そろそろだよ?あぁそういえばティレスちゃんは此処初めてだったっけ。」
うんうんっと何かを納得したように頷く彼女に私は首を傾げるしか有りませんでした。
「ほら、あの坂道の上、見えるでしょ?あそこら辺にある柱。落陽の門って言うんだよ。」
と彼女の指差す先には確かに二つ石製の柱がありました。
「見えますけど…門ですか?道標とかじゃなく?」
ただ道端にポツンと立ててある柱は流石に門には見えないです。ちなみに柱の先は坂で見えません。
「ふふっ、着いたら分かるよ、ほらはやく行こ。」
と私の手を取り小走りになるシャルルちゃん。
「あぁ、待ってください。」
赤い空の下、彼女に引かれながら私もまた歩みを早めついていきます。
“銀髪、綺麗ですね…”
夕焼けに照らされ緋色に煌めくその髪を追いかけながら落陽の門と彼女が呼んだ柱にもだんだん近づいていきます。
沈みゆく太陽の余光は既に霞のように淡くなり、地に落とす私たちの影もまた段々と暗闇に溶けていきす。
“近くで見ると大きいですね…”
遠くではよく分からなかったこの柱も近づくにつれ確かにその威容を感じ取れます。凡そ20mとかなりの高さで、直径も2mぐらいはあります。
“日が…”
そしてとうとう最後の光が地平線に飲み込まれ、辺りの影が更に昏く、濃くなっていきます。唯一未だに色彩を失っていないのは遠方の赤が抜けきっていない夕焼け空のみ。
“暗いです…”
そして既に落陽の門も目前という所でシャルルちゃんが急に止まってしまいました。
「どうかしました?」
と聞くも
「う~ん、ティレスちゃん初めてだし、どうせならって思うんだよね~」
と意味不明な返事しかもらえませんでした。
「???」
首を傾げ疑問を表してみます、すると彼女は何を思ったのか私の後ろへ回り込み両手で目隠ししてきまた。
「あの…これはいったい…」
「いいからいいから、先に進んで?あ、目はちゃんと瞑ってね?」
いえ、進むのはいいんですけどこのままではまずいというか。
“近いし色々当たってます…むしろ当ててると考えればいいのでしょうか…?”
しかしシャルルちゃんは私の邪な思惑などお構いなしにグイグイ押してきます、まぁ私も悪い気はしないので二人三脚っぽく先に進んでいきます。そして十数秒か進んだ後「ここらへんでいいかな?」と手を離してくれました。
「あの…もう目はあけてもいいですか?」
一応聞いておきます、シャルルちゃんが何をしたいのかは分かりませんが乗って悪い話ではないと思いますし。
「うん、もう開けていいよ~」
との許可が出たので、私は恐る恐る瞼を開けました、そして
「……」
暗と明が切り替わる瞬間、私は一瞬言葉を失いました、それ程までに私の目の前に映る景色は幻想的でした。
元は坂道に隠されていた遥かな遠方に咲く血のような残陽、それに照らされ赤色に染め上げられた下り坂は先程までの暗さと強烈なコントラストを成しています。
“あれが3区…”
坂道の下には蜿蜿した川が日光を受け黄金色に輝き、それを跨ぐ様にその街は有りました。外側の数々の民家、内側の資産家や貴族たちが住むであろう豪邸と中央にそそり立つ一際目を引く美しいゴシック様式の教会、その全てを此処から俯瞰できます。
“大漠孤煙直、長河落日円…”
煙突から上がる縷々の炊煙は私に前世でいつか読んだ事がある漢詩を脳裏に浮かばせました。かの詩人が砂漠で見た落陽もこの様に美しかったのでしょうか。
「ふふ、言葉も出ないって感じだね〜」
と隣で言う彼女に私は反論できませんでした。
「まぁ初めて此処に来た人は大体こんな感じだから、3区は元々森が有った一番外側だからね。この柱は昔森の入り口だったんだよ、だから門。」
「そうですか…ならこの傾斜も?」
「そう、森林の跡地。それであの川はリース運河、あの教会見えるでしょ?あれはこの国で一番大きい教会なんだって、それにこの夕焼け景色もあるし旅行に来る人も多いんだよ。」
と言いながら下に歩くシャルルちゃんを追いかけ私もまた歩きだします。そして数百歩ぐらい歩いたところで先に人と馬車の行列が見えました。
その先頭には何やら馬車の荷物を卸す幾人の兵士と商人のような出で立ちの男が一人。
「あちゃ~検問待ちか。これ結構かかるんだよね」
「検問…?」
「そう、検問。個人や少人数なら引き留められる事なんてよっぽど怪しいか緊急事態以外はないけどこういう大規模の商隊は正規に発行された通行証がないと検問を通らないといけないんだ。こんな時間だから流石にないと思ってたんだけど。」
如何やらこの行列は特例のようです。
「しかしそれなら私達には関係ないのでは?」
それとも私って凄く怪しいのでしょうか。
「う~ん、原則的には誰でも入る時は身分証明できる物を見せなきゃいけないんだよ、ギルドカードとか通行証とか。まぁ正直そのまま入ってもだれも気にはとがめないと思うけどティレスちゃんは初めてだし一応は…」
そして少々逡巡するシャルルちゃん。
「検査しなくても入れるのならさっさと入ってギルドカードを作ればいいんじゃないですか?」
如何やら異世界であろうと形式主義は蔓延るようですね。まぁ私のようなのには便利ですが。
「それもそうかな…」
「それに急がないとギルドの依頼遅れちゃうかもしれないじゃないんですか?私の事はどうにもなりますよ。」
正直此処で道草食いたくありませんしね。
「それじゃあ…そうしよっか。」
そして私達は行列を無視して先頭まで行きつきます。
「おお?シャルルじゃないか、今日もまたゴートの旦那の手伝いか?」
先頭の集団を横切る時、どうやら知り合いがいたようでシャルルちゃんに挨拶してきました。
「うん、そうだよ!ガイルさんこそ仕事頑張ってね。」
ガイルさんとかいう兵士さんです。めっちゃごついマッチョなおっさんです、上半身裸で汗を流しながら荷物を運ぶ様はむさ暑苦しいったらありゃしないです。
「おうよ!それでその子は誰だい?友達か?」
「そんなところ、それじゃあそろそろ行くね、じゃないと遅刻しちゃう。」
そして再開される私達の歩み、そしてようやく私達は石製のアーチにつきます。
‘リースへようこそ!’
と彫られたアーチを見上げ、私は少々感慨します。
“ようやく異世界生活の第一歩ですよ。”
「それじゃあ最初はギルドに行くよ、ティレスちゃん。」
そして私はそう告げるシャルルちゃんの声の中恐らくは長い間世話になるだろう街の中に最初の一歩を踏み出しました。




