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魔法少女をあきらめない! ~筋肉神に愛された少女~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第七章

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第91話 魔法少女は懇願する

交換日記[筋肉神]


お乳と大胸筋なら、私は大胸筋を取る!

 聖鉄火騎士団第七戦乙女隊副長メル・ヤルハナさんについて中央神殿へ辿り着くと、その中庭では騎士様たちが訓練に明け暮れていました。


 その様子は実戦さながらで、刃こそ削られているものの鎧も剣も本物です。

 男性騎士が女性騎士を剣で吹っ飛ばし、容赦なく追撃に氷の魔法を放ちます。一度は背中から転がった女性騎士さんでしたが、すぐさま起き上がって氷塊を剣で薙ぎ払うと、気合い一閃で男性騎士さんへと突きを繰り出しました。


「すごい迫力だな……」


 アデリナの呟きは、打ち合う金属音によって掻き消されました。

 女性騎士さんの突きを盾で受け止めた男性騎士さんは、怯むどころかさらに力任せに踏み込み、女性騎士さんの肩当てを剣で薙ぎ払って、再び彼女を吹っ飛ばします。

 大地を転がった女性騎士さんは、どうにか膝を立てます。が、そのときにはすでに男性騎士さんは距離を詰めていて。


「そこまで!」


 一方的になりそうな試合にストップをかけたのは、メルさんでした。

 女性騎士さんと男性騎士さんが同時に兜を脱ぎ、メルさんに頭を下げます。両方とも若い方でした。

 メルさんは男性騎士さんに尋ねます。


「強いな。貴様、名は?」

「第三部隊所属のルドラ・ネイと申します! メル副長殿!」

「今度わたしの訓練に付き合ってくれないか」


 ルドラさんが大あわてで両手を振りました。


「と、とんでもない! 私ごときでは副長殿の相手は務まりませんよ!」

「……そっか。残念だ」


 へえ、メルさんってそんなに強いんだ。


 がっかりしたように、メルさんが肩を落としました。次に女性騎士さんのほうを向いて、短いブラウンの短髪頭に軽い拳骨を落とします。


「あうンっ! も、申し訳ありません!」

「ナイカ、おまえは全然だめだ。力に頼りすぎだって何度言えばわかるんだ。ルドラのような大柄な男を相手に、力比べを挑むやつがあるか。だから簡単に押し返され、体勢が崩れる」

「うう……。で、では、どうすれば……」

「押されたら引けばいい。相手の体勢を崩すには押して引いてかき混ぜて、むちゃくちゃにしてやるんだ。わたしの師匠だったやつは末期の黑竜病を患ってがりがりに痩せ細っていたが、わたしは一度だってやつから一本を取ったことがなかった」


 メルさんが苦笑いを浮かべます。


「それは騎士見習いだった頃のわたしが、負けん気ばかり先に立って、真正面から力に対し力で立ち向かおうとしてたからだ」


 メルさんのお師匠様……。黑竜病を患っていたんだ……。黑竜……病……?


 何かが引っかかります。今、何かが頭の中で結びつきそうになったのです。

 そっと盗み見ると、アデリナは大きく目を見開いていました。その喉が大きく嚥下されます。

 そんなわたしたちを余所に、メルさんはお説教を続けていました。


「逆にいえば、技があれば力などさほど必要とはしない」


 う、耳が痛い言葉ですね……。わたしは大体力任せにぶん殴ったりねじ曲げたりへし折ったりしてきたので……。


 甚五郎さんは力も技も備えたレスラーですが、わたしはまだまだ未熟です。彼に足りないのは髪の毛くらいのものなのでしょうね。あんな一本だけ残すくらいなら、もう潔くハゲちゃえばいいのに。


「メル副長には力も技もあるじゃないですかぁ……」

「バカ。どっちも中途半端なんだよ、わたしは」


 メルさんが苦々しく顔をしかめました。


「わたしは最強の力を持つやつを知っているし、最凶の技を持つやつも知ってる。やつらに比べたら、わたしの剣技など児戯に等しい。東方島国の田舎勇者にさえ劣る」


 前者は間違いなく甚五郎さんですね。後者はお師匠様でしょうか。

 なんだか今のメルさんは、苦笑いなのに機嫌が良さそうです。きっとお師匠様や田舎勇者さんは、ステキな方だったのでしょうね。甚五郎さんはただの筋肉ハゲだけど。


「と、悪い、ナイカ。今は客人を案内しているところだった。じゃあな、サボるなよ」

「サボりませんよ……」


 可愛らしく拗ねるナイカさんの頭をぽんと叩いて、メルさんは先ほどまでよりも幾分機嫌の良さそうな顔でわたしたちを振り返ります。


「行くぞ」

「はい」


 多くの騎士様たちが修練する中庭を越えて、わたしたちはリリフレイアの中央神殿へと足を踏み入れます。

 中庭とは違って建物内はとても静かで、少し冷たい空気が溜まっていました。澱んでいるわけではないのです。わたしは基本的に神様なんて信じていないし、あのキモ筋肉のおっさんは存在さえおもいっきり否定してやりますが、神殿内はとっても清浄で厳かな雰囲気に包まれていました。

 廊下を歩けば、修道女たちがせわしなく行き来しています。


「すまんな、騒がしくて。リリフレイアは統治領域以外にも多くの信者を抱えていて、彼らが目と口となり、レアルガルドで起こるあらゆる事件や悪の発生を、この中央神殿に情報として上げ、一括処理しているんだ。だから見ての通り、いつも忙しない」


 リリフレイア神殿国って国際刑事警察機構(インターポール)みたいなものなのでしょうか。それとも、国連かしら。


「その地域を治める国の手に負えない悪の組織や、正当な理由のない反乱などには、このリリフレイア中央神殿から派兵された騎士らが、鉄槌を下しにいくことになっている」

「黑竜やアラドニアの魔王は健在のようだがな」


 アデリナの挑発に、けれどもメルさんはため息を返すだけでした。


「……耳が痛い。黑竜は未だ所在をつかめず、魔王は――」


 言葉が途切れます。

 このときの彼女の視線は、わたしたちではなく、もっと遠くを見ているように思えました。


「レアルガルド全土の常闇の眷属を吸収した魔王軍は、あまりにも強大だ。リリフレイア神殿国とアリアーナ神権国家を合わせても、到底勝てはしない。無論、だからといって野放しにしてるわけではないが……」


 アデリナは容赦なく続けます。


「あんたはずいぶんと部下から信頼され、腕も立つらしい。隊を背負う隊長ではなく、副長というのも都合がいい」

「アデリナ?」

「所在のつかめん黑竜は仕方がないが、なぜアラドニアの国境線、つまり魔王軍との戦いの前線に立っていないんだ?」


 メルさんが眉を顰めます。


「貴様、何が言いたい?」


 アデリナがふいに声を落としました。


「あんたが師と呼ぶ人物は、魔王だな」

「――ッ!?」


 その言葉に、あからさまにメルさんの顔色が変わりました。

 左足を引くと同時に、メルさんが腰のロングソードの柄を右手でつかんで抜刀し――。


「く……!」


 半分まで刀身が露わになったところで、わたしは彼女の右手をつかんで、力任せに強引に納刀させました。

 かしん、と、剣の鍔が鞘口を打ちます。


 抜かせません。こんなところで。


「おまえたち、何者だ……ッ」

「名乗ったろ。シーレファイスの王位継承者と、ヘンテコな怪力異邦人だ。それ以上でもそれ以下でもない」


 いえいえ、アデリナは一回も名乗ってませんし。あと、わたしの紹介がだんだん雑になってきている気がするのですが。


 いえ、そんなことよりも。

 そっか。さっきの違和感がようやく繋がりました。

 黑竜病。最凶の剣技。国家機密に触れる異邦人。

 それらすべてが、魔王に繋がっているのです。付け加えるなら、腕の立つ彼女が前線に派兵されていないのは、彼女自身が魔王との戦いを拒んだからかもしれません。


「聞いてください、メルさん。わたしたちはあなたの敵ではありません。中央神殿内で言葉に出すのは憚られますが、わたしたちはリリフレイアの聖女様だけではなく、魔王とも話をしたいと考えているのです」


 メルさんの燃えるような赤い瞳がわたしに向けられます。


「なんのために!」

「黑竜を討つためです!」


 わたしは真正面から彼女の視線を受け止めて、力強く言い放ちました。


「……正気か?」

「当然です!」

「黑竜を討つのに魔王の手を借りたいと?」

「はいっ」

「魔王とは対極にいる聖女をも巻き込んでか? リリフレイアは今、アラドニアと戦争をしているのだぞ!」


 睨み合います。視線を逸らしてはいけない気がしたのです。

 アデリナが静かに呟きました。


「レアルガルドの情報を一括管理しているリリフレイア中央神殿だ。カダスの悲劇を知らないとは言わせないぞ。おまえたちは絶対悪に滅ぼされるあの国を救えなかった。リリフレイアだけじゃあない。アリアーナもだ。――正義の鉄槌(リリフレイア)天秤の調停(アリアーナ)も、もはや役を為してはいない」

「もう人間同士でいがみ合っている場合じゃないのは、リリフレイアだって気がついているのではありませんか! 魔王の力が必要なんです!」

「……」


 メルさんが押し黙ります。

 どれくらいそうしていたでしょうか。やがてメルさんは、長い息を吐いて肩から力を抜きました。


「蓮華、もういいぞ」

「はい」


 わたしはメルさんの右手をつかんでいた手を放します。彼女はもう、抜刀しようとはしませんでした。

 まあ、最初から彼女に殺気はなかったんですけどね。騒ぎになるのを抑えるために、抜刀の邪魔をしただけです。


「……わたしに……魔王との橋渡しをしろということか……」

「そうです。聖鉄火騎士団副長というお立場の都合上、とてもまずい行いであることは承知しています。けれど、この機会を逃せば黑竜を止めることはできなくなるんです」


 わたしの言葉を、アデリナが続けます。


「そしてレアルガルドは滅亡する。リリフレイアとアリアーナがアラドニアと戦って、三国が疲弊して得をするのは黑竜だけだ」


 メルさんがわずかに目を伏せました。


「わたしが魔王に師事したのは、もう何年も前のことだ。それに、期間もわずか数週間あまり。魔王はもうわたしのことなどおぼえていないかもしれない」

「それでも、可能性があるなら手繰りたいんです! どうか――」


 その声は、メルさんに懇願するわたしたちの背後から突然聞こえてきました。


「ふぅん。いいんじゃないか、メル」


 気配も、おそらくは魔素の流れもなかったのだと思います。わたしとほとんど同時に、アデリナが振り返ります。驚愕に目を見開いて。


 そこには、わたしたちと同じくらいの年頃の、真っ白な髪と肌をした不思議な女の子が立っていました。


「やあ、初めまして。ぼくがリリフレイアの聖女だ」


 その子は淡い色をした華やかなドレスの裾を指先でつまむと、淑女がそうするように微かに膝を曲げて挨拶をし、無邪気な微笑みを浮かべたのです。

 そうして付け加えて。


「不本意ながら、ね」



交換日記[アデリナ・リオカルト]


く、あたしの胸はまだお乳ということか……早く大胸筋になりたい……ッ!



交換日記[魔法神]


ならんでいい。



※更新速度低下中です。

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