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魔法少女をあきらめない! ~筋肉神に愛された少女~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第七章

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第90話 リリフレイアの女騎士

交換日記[魔法神]


魔法がなければナマニクがヤキニクになっていましたなァ?

役に立たん筋肉とは大違いですなァ? ん? んん? 筋肉神んん?

 眼下に広大な森を見渡し、わたしたちはナマニクさんの背に乗って飛翔します。

 右を見ても左を見ても、前方を眺めてさえ、森、森、森。


 しかしレアルガルド大陸に存在する、わたしたちが通ってきた魔法の森のようなまがまがしさは一切感じられません。

 樹木はひしめき合うこともなく自身のテリトリーのみで枝を広げ、生い茂る枝の隙間を縫って陽の光は腐葉土や草花を照らし出しています。

 ところどころには馬車の通る道のようなものもあり、猛獣はいても魔物は存在しません。


「空気がおいしいですねえ」

「そうだな。野生のカレーンゴなんかも採れるらしいぞ。むろん、農家が育てたもののほうがうまいが」

「ええ!? あんな味が自然発生してるの!? 品種改良の代物かと思ってました」


 ナマニクさんも心なしは目を細め、気持ちよさげに空を飛んでいます。いつもよりはずっと低空で、空と雲は遙か上。


「結界を破ったのに、警備がかけつけてくる気配さえありませんね」

「ああ、もう見張られてるからな」

「ええ……」


 アルタイル門であった、遠見の魔法でしょうか。

 わたしにはどこから見られているのかさっぱりですが、どうやらアデリナには魔素の流れが見えているようです。


「追ってこないのは、飛行手段に乏しい国だからだ。それに、あたしたちの進路からすでに目的地は割り出されている」

「ということは?」

「リリフレイア神殿にはさぞやたくさんの聖鉄火騎士団が詰めているだろうな」

「……いきなり攻撃されたりは?」


 アデリナが肩をすくめます。


「さてね。大丈夫じゃないか? アリアーナが世界の調律を保つ天秤の神であるように、リリフレイアは悪と見なす存在に対して正義の鉄槌を下す神だから」

「わたしたちって正義に見えるんでしょうか。現在進行形で結界破って侵入してますよね。それに悪を滅する教義って、アリアーナ神なんかよりもよっぽど相当過激に聞こえるのですけど」


 アデリナが事も無げに付け加えます。


「ま、遠距離攻撃なら全部防げるよ。たぶんな」

「たぶん……」

「例外もある。魔法や弓ならあたしの結界が破れることはおそらくない。だが、レーゼがやるような神の奇跡を使われた場合はお手上げだ。あれに魔素の流れはない。どこから雷に撃たれるかわかったもんじゃないし、わかっていたところで対処が難しい」


 つまり、聖女の奇跡は防げない、ということでしょう。


「とはいえまあ、奇跡といえど発生源となる雷雲は必要だ。あからさまにあやしい雲が集まってきたら、ナマニクを降下させればいいだろう」

「なるほど……」

「だがこれまた困ったことに、リリフレイアの奇跡がどういったものなのか、あたしは知らん。雷ならば雷雲を避ければ問題ないが、他の自然現象となるとお手上げだ」

「まあそれも不意打ちされたらの話ですよね。わたしたちは戦いに来たわけではありませんし、運良くレーゼ様みたいに話の通じる方かもしれません」

「まーな」


 二人そろって不安げな笑みを浮かべます。


 なぁ~んでこの大陸の人たちって、まず喧嘩を売ってくるんでしょうねえ。なんだか新しい国に行くたびに、一度捕らえられているような気がします。


 そんなこんなで陽が傾く頃――。


「見えてきたぞ」


 夕暮れ時の空は赤く、その下に森に囲まれるようにして、三角屋根の多く見受けられる白を基調とした街並みが見えてきました。

 その中央にはアリアーナ神殿塔とは正反対の、横に長く広がった二階建ての教会らしき建物があります。


「あれがリリフレイアの中央神殿だ」

「……」


 拍子抜けでした。

 思ったより簡素な街並みです。それこそ、一都市国家に過ぎないシーレファイスと変わらないくらい。

 この街がレアルガルド三大勢力の一つとは到底思えません。それに、聖鉄火騎士団とやらの集団も見えません。


「よし、ナマニク。降下しろ」

 ――グァア。


 ナマニクさんが徐々に高度を下げていきます。その間も、リリフレイア神殿に変化はありません。美しい森の小さな広場に、ナマニクさんが足をつけました。

 わたしたちはナマニクさんの背中から森の地面へと飛び降りて、固まっていた身体を思い思いにストレッチで解します。


「蓮華、気配はあるか?」

「ありません。魔素は?」

「ないな。もちろん遠見の魔法を除いて、だが」


 どうやら危険はなさそうです。気配というより、息をひそめる鳥や獣といった、森の息吹なら感じられるのですが。


 わたしたちは進行方向の街並みを遠目に眺めます。距離は直線でおよそ三キロといったところでしょうか。

 リリフレイア神殿国に、首都という概念はないそうです。ただただ、聖なる中央神殿があるに過ぎない、と。


「行くか」

「はい。ナマニクさんは森で待っててくださいね。明日明後日には戻りますから」

 ――ゴゥグゥ。

「獲物を獲る際は、あまり派手に動かないように」

 ――グゥゥ。


 知らない人が聞いたら、ただの獰猛なうなり声ですが、わたしたちにはそれが肯定の返事なのだともうわかっています。


 わたしはアデリナと目を見合わせてから、ナマニクさんに背中を向けて歩き出しました。

 森に危険はありません。魔物がいないのです。ナマニクさんを除いて、ですが……。

 ほんとに不思議です。結界一つで外の世界とこんなにも変わってくるだなんて。


 腐葉土を踏みしめ、馬車の通る道らしきところに出て、わたしたちは歩を進めます。往来の旅人はいません。

 無人の街道を進むと、壁や正門はおろか衛兵さんさえもなく、いきなり切り拓かれた街並みが現れました。


 地面は舗装されていないため、森と街の境目はあやふやです。まるで甚五郎さんの額と頭皮の境目のように、あやふやなのです。


 けれどもたしかに、そこには人々の暮らしがありました。

 子供たちがチョウチョを追いかけて遊ぶ横で、川で洗濯をする老婆。買い物籠を持って足早に歩くおばさんに、森の恵みである鹿を木に吊して運ぶ二人の男性。


 静かで質素な田舎町。そんな印象でした。

 わたしたちを見ても、警戒の視線を向けてくる人さえいません。この街は平和そのものなのです。


 これにはアデリナも驚いたようでした。

 これがアリアーナ神権国家さえも凌ぐと言われる軍事力を誇る国、リリフレイア神殿こ……く――むむ、どこからかよい匂いが漂ってきていますね。

 視線を回すと、老婆が屋台のようなお店で串刺しにした鳥の丸焼きを売っていました。


 これは……。お宝発見かも。 


「おい」

「ひっ!?」


 露店の食べ物に気を取られていたわたしは、真後ろから突然かけられたその呼びかけに、びくりと肩を跳ね上げます。


 恐る恐る振り返ると、そこには赤く長い癖毛の騎士様が立っていました。肩幅は少々広く、腕もやや筋肉質ではありますが、歴とした女性です。


 あわわ、また逮捕されちゃう……!


「ち、違うんです! わたしまだ何もしてません! ちゃんとお金もお支払いしますし――」

「結界、破ったろ?」


 ほぐぁぁぁ!?


 アデリナは彼女の腰に吊された剣を一瞥して、氷のような視線を、燃えるような赤い瞳へと向けました。


「なんだ、あんたは?」


 いつものごとく横柄な態度に、赤毛の騎士さんがムッとしたようにあからさまに眉をひそめます。


「なんだとはなんだ。偉そうに」

「何がだ」

「なんだその態度は」

「どの態度だ」


 ちょっちょっちょ! 早い! 犯罪者化するにはまだ早いです! 穏便に!


 二人とも同じくらい横柄だからか、おかしな空気になりそうです。

 わたしはあわててアデリナの前に出て、彼女を片手で制しました。


「あ、あの、なんでしょうか? わ、わたしたちに用ですか? け、結界の件は謝りますから、ここは一つ穏便に――」

「はぁ? おまえたちこそ、用があって来たのだろう」


 アデリナが再びわたしの前に、ずいっと出てきます。大きな胸をぐいっと突き出して、騎士様を威嚇するように。


「礼儀を知らんやつだな。まずは名乗れ」


 胸の先っちょを触れ合わせるように、赤毛の騎士様もまたぐいっと胸を反らせます。


「ふん、おまえが先に名乗れ」

「話しかけてきたほうが名乗るべきではないのか」

「おまえの決めたルールなど知らん」


 ちょっちょっちょ! アデリナが二人いるみたいなことになってます!


「し、七宝蓮華です! リリフレイアの聖女様にお目通り願いたく参りました!」

「おまえには聞いていない。あたしはそっちの大層な剣を背負った剣士に聞いている」


 なんだと~ぅ……。


 アデリナが目を剥いて、リリフレイアの騎士様と睨み合います。唇が触れ合いそうな距離で。

 まるでコンビニ前のヤンキーです。


「あんたが名乗ったら教えてやる」

「いいや、おまえが先だ」

「あ、では、わたしの合図で同時に名乗ってみたらどうでしょうか。ね? こんなところで喧嘩するより、ずっと建設的ですよ~」


 何言ってんの、わたし……。


 ところが、騎士様もアデリナも笑顔で食いつきます。


「いいだろう」

「いいぞ」


 わたしはごくりと生唾を飲んで、「さん、はい!」と言いました。


「……」

「……」


 びゅうと風が流れます。


 こいつら……。まとめて頭をどついてさしあげようかしら……。


 やがて、赤毛の騎士様が舌打ちをして背中を向けます。


「ついてこい。聖女様がお待ちだ」

「あ……」


 案内してくれるんだ……。


 レーゼ様があらかじめ伝えてくださったのでしょうか。ううん、魔導機関電信(エンジンフォン)が魔王のおかげで使えなくなったのだから、ナマニクさんより速くここへ辿り着ける通信手段はないはずです。それこそ、古竜でもなければ。


 赤毛の騎士様が歩きながら呟きます。


「おまえ、たしかシチホー・レンゲといったか」

「はい。えっと、七宝はファミリーネームで、蓮華がファーストネームです」


 小柄なわたしは、彼女を見上げながらこたえました。

 ざ、ざ、鎧の足甲が舗装されていない地面を踏みしめる音が規則正しく聞こえます。


「ふん、異邦人か」


 驚きました。


「どうしてそれを?」

「面倒な事情があって詳しくは話せないが、似たようなやつを何人か知っている。両方とも、名前が逆だった」


 人数は誤魔化したつもりでしょうが、両方なら二人ですね。


「羽毛田甚五郎さん?」


 赤毛の騎士様が少しの戸惑いの後、咳払いをしてうめくような声を出しました。

 微かに赤面しているように見えたのは、夕陽のせいでしょうか。


「むう。ま、まあ、一人はな。もう一人は国家機密に触れるため、何も話せん。さっきのは失言だった。忘れろ。おまえも探るなよ。リリフレイアを敵には回したくないだろ」


 機密。ということは、たぶん魔王ですね。

 だとしたら、この人、勇者と魔王の両方を知っている……!?

 何者なのでしょう。


「わたしは聖鉄火騎士団第七戦乙女隊副長メル・ヤルハナだ。おまえたちを中央神殿まで案内する」


 うわっ、えらい人でした! 危ないところです!

 わたしまでアデリナと同じ態度を取っていたら、十中八九またまた投獄でしたね。セフセフ!


「はい。戦乙女隊……というのは?」

「リリフレイアは女神――戦女神だ。だからリリフレイアではわたしのような女騎士も珍しくない」

「でも、そこの副長さんってことは、メルさんって相当すごい人なのでは……」


 メルさんが物憂げなため息をつきながら、苦笑いを浮かべました。


「……そうでもない。騎士になって以来、自信を失うことばかりだ」


 ほんの少し、空気が弛緩したように感じられました。

 わたしが視線をアデリナへと向けると、アデリナは好きにしろとばかりに唇を尖らせます。


「こっちはアデリナ・リオカルト。シーレファイスの王位継承者です」

「…………知ってるよ」


 知ってる!? なんでそんな意地悪するのっ!?



交換日記[筋肉神]


私ならばナマニクのケツを蹴って吹っ飛ばせたが?

よしんばヤキニクとなったとて、綺麗に平らげて我が筋肉の一部にできたが?



交換日記[ナマニク]


グァァ……。


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