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魔法少女をあきらめない! ~筋肉神に愛された少女~  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第七章

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第92話 聖女は未来を振り返る

交換日記[筋肉神]


ちっ、筋肉もない、なよなよした聖女を選びおって!

リリフレイアのやつ、あいもかわらず見る目がないな!

 ドレスを着た女の子は、自らリリアンと名乗りました。


 リリフレイアの聖女リリアン。雪のように白い肌と、雪のように白い髪の少女。長さは肩のあたりまでだけれど、白く輝く髪はとても綺麗です。


 神様なんて胡散臭いし筋肉キモいしうるさいし、基本的にどうでもいいと思っているわたしでさえ、彼女の作り出す神聖にて清浄な空気は神々しいと感じました。

 それは、アリアーナの聖女レーゼ様が醸し出すものによく似ています。


「聖女様」


 あわてて膝を折ろうとしたメルさんを、リリアン様は小さな手で制します。


「やめろ。面倒だ」

「はっ」


 メルさんはリリアン様を守るように彼女の斜め前に立ち、わたしたちのほうへとあらためて向き直ります。

 リリアン様はわたしとアデリナを交互に見つめ、首を左右に倒して一言、こう呟きました。


「あらためて。リリフレイアの聖女リリアンだ」


 アデリナが静かに返します。


「アデリナ・リオカルト。シーレファイスの第一王位継承者で、剣士をしている」

「七宝蓮華です。異邦の魔法使いです」


 リリアン様が眉をひそめます。


「逆じゃないのか? おまえが剣士で、おまえが魔法使いだ。そうだろ?」


 わたしとアデリナは言葉に詰まります。けれどもすぐに、アデリナはぶっきらぼうに言い放ちます。


「実際の役割はあんたの言うとおりだ、リリアン。だが、あたしたちにも事情がある」


 リリアン様が一拍を置いて、くっくっと小さく笑います。


「神の趣味か。くだらない事情だな。ずいぶんと」


 あら?

 わたしとアデリナが、同時に目を見合わせました。


「え? え? もしかして、リリアン様も?」

「わかるのか?」


 リリアン様が眉をひそめてうなずきます。


「残念ながらな。おまえたちの気持ちは、よ~くわかる」


 会話の意味のわからないメルさんは、ただただ困惑していました。


 つまり、リリアン様は筋肉神と魔法神の、あのふざけた気持ちの悪いストーカー気質な性格のことをいっているのです。


「リリフレイアもか?」

「ああ、うちはちっと違う」


 リリアン様が白髪に手を入れて、困り顔で後頭部をぼりぼりと掻き毟りました。

 この方、態度が少しアデリナに似ています。見た目の格好や美しさに依らず、とっても男の子っぽいのです。背は低く、線も細くて華奢なのだけれど。


「ああ、説明がめんどくせえなァ……」


 言葉遣いも、慣れてきたのか雑になり始めています。


「いいか? 一回で信じろよ。信じねえ場合、証明する方法は一つしかねえ」


 わたしもアデリナも、何が何やらで戸惑ってしまいます。

 そんなわたしたちを尻目に、リリアン様は言ってのけました。


「ぼくはオトコだ」

「……は?」

「……えぇ?」


 何言い出した、こいつ……。


 目が点になりました。

 どう見ても可憐な少女です。いえ、そこら歩いてる有象無象の少女に比べても、圧倒的美少女といわざるを得ません。

 くりくりとした大きな瞳も、長い睫も、ふっくらした柔らかそうな頬も。


 凝固したように動かなくなったわたしたちの前で、リリアン様はため息をつきます。


「ちっ、これだから。ああ、ほんっとめんどくせえな」


 お、おとこって、男性のことでしょう……か?


「結局、どいつもこいつもキンタマ見せなきゃ信じやしねえんだよな……」


 お、おおぅ? キンタ……。


 あわあわしているわたしたちを尻目に、リリアン様はドレスの背にある編み上げ紐を自らの手でしゅるりと引っ張って解いた――あたりで、メルさんに両腕をがっしり押さえつけられました。


「お待ちを! リリアン様!」

「なんだ、めんどくせえ。放せ、メル」

「なりません! 筋肉もないのに痩せこけた男が誇らしげに脱ぐなど、恥を知りなさい!」


 そこはどうでもいいじゃないですか……。

 てか、筋肉好きなんだ、メルさん……。


「うるせえ! 脱ぐぞ、ぼくは! 誰の前でも、どんな場所でも脱いでやる! これ以上女扱いされてたまるかっ!」


 しかし聖女の細腕と、女性とはいえ騎士団副長の鍛えられた腕では力の差は歴然で、シッチャカメッチャカに揉み合いながらも、みるみるうちにメルさんの手によって背中の編み上げ紐は結ばれてしまいます。

 しかも、固結びに。あれじゃもう切らなきゃ脱げませんね。


 リリアン様とメルさんは、互いにぜぃぜぃと荒い呼吸をしながら睨み合っています。けれど、呼吸が整うと同時にリリアン様がわたしのほうを向きました。


「つーわけだ」

「はあ……」


 ちょっと頭の整理がつきません。

 混乱するわたしの横で、アデリナが首を傾げながら口を開けます。


「あんたが男だとして、聖女なんてやれるのか?」

「やれるわけねえだろ! アホか! 百億万歩譲っても大主教だ! 言い方に気をつけろ、ダボが!」


 言い過ぎだと思います。自分で聖女と名乗っておいて。


「つまりだ。早い話が、戦女神リリフレイアは変態なのだな?」

「そうだ! あいつはショタとかいわれる変態女だ! ぼくのように成長の遅い女顔の男の子ばかりが、代々の聖女に選ばれてる! 女装までさせられてだぞ! クソ! 二十歳になったら絶対やめてやるからなッ!! 他のガキ見つけろ、クソ女神め!」


 うっわ~……どん引き……。


 これが世界最大宗教リリフレイアだなんて。ああ、でも地球でも、最大宗教の過去は大体が血塗られたろくでもないものばかりでしたね。


「今やめられたらどうです?」

「魔王や黑竜を放置して、神の奇跡を手放してどうする! ぼくだってやめられるもんならやめてるに決まってるだろ!」

「……ごもっとも」


 口は悪いのに、案外まじめなんですね。


「ふん、まあいい。とにかく、ぼくは男だ」

「あ、はい……」


 正直、まだ信じられません。でもそれを口に出すと、また脱ごうとしかねないので黙っておきます。というか、脱がなくてもスカートをたくし上げて下着をずらせば見えちゃいますしね。

 おちん……。……。ん、んんぅ……。


「えっと、話を戻しても?」

「ああ。好きにしろ」

「では、魔王とのことなのですが……」


 リリアン様はドレスの胸のあたりで両腕を組み、表情を引き締めます。


「リリフレイアとしては、魔王と和平交渉とまではいかなくとも、停戦は願ったり叶ったりだ。先ほどアデリナのいっていたカダスの件は、たしかに見過ごせるもんじゃねえ。最優先事項は魔王より黑竜であるべきだ。魔王軍は領土を広げようともしていないからな」


 リリアン様のその言葉に、アデリナがふいに眉を顰めました。


「カダスの件だと? あんた、立ち聞きしてたのか?」

「立ち聞きなど必要ない。面倒だ。こちらの手の内を明かそう。戦女神リリフレイアの奇跡は、自在に操れる炎と、近い過去や未来ならば見えてしまう目だ」

「後者は意味がわからんな」


 リリアン様が少し困ったような顔をしました。


「七英雄の剣聖リリエムを知っているか? いや、知っているな」

「もちろんだ。あたしと同じ剣士として最も尊敬している騎士だからな」


 つっこみません。めんどい。


「やつがなぜ剣聖と呼ばれるようになったかだが、それは類い希なる剣技を使っていたことや、大きな炎を操っていたからってだけじゃねえんだよ。そんなもんは大した力でもねえ。レアルガルド全土をくまなく捜せば、リリエムに匹敵する戦闘力を持つやつも一人二人は見つかるだろうよ」

「ならば、何が原因だ?」

「やつには、少し先の未来と、少し前の過去が見えた。剣士にとって、これほど都合のよい能力はねえだろ」


 敵の太刀筋がすべて読める、ということでしょう。

 たしかに。

 もしそんな能力がわたしに存在していたとするなら、魔王だって倒せたかもしれません。たぶん、甚五郎さんにだって勝てるでしょう。たとえ力や技量で、彼らより遙かに劣っていたとしても。


 わたしは尋ねます。


「つまり、その力が今、リリアン様にも宿っているということでしょうか?」

「そういうことだ。だからアデリナを一目見たとき、メルとカダスの件で言い合いになった少し前の状況も見えていた」


 アデリナが剣呑な調子で呟きます。


「そんな能力があるなら、防げたのではないのか。カダスの悲劇を」

「悪いが無理だな。ぼくの視界なんて、せいぜいが中央神殿内くらいだ。世界全土を見守れるようには、人間の目はできちゃいねえよ」


 そっか。視界にあるものの、それも近々の過去と未来しか見えないんだ。

 そして、わたしの死の運命を見ていないことから、見える過去と未来は誤差数分が限界といったところでしょうか。


 だからロンドレイの騎士リリエムは、聖女ではなく剣聖として伝わったんですね。


 ……リリエムさんも、やっぱり女装してたのかしら……。七英雄で唯一まともな人だったと聞いていたのに、なんか切ないですねえ……。


 それにしても、神ってやっぱろくなやつがいませんね。アリアーナ神はまともなのかしら。レーゼ様に不満はなさそうだったけれど。


「とにかくだ。アラドニア魔王軍と停戦にこぎ着けるなら、試してみる価値はあるとぼくは思う。そのためにメルが必要なのであれば、連れていってくれてかまわない」

「リリアン様! それでは中央神殿の守りが手薄に――」

「うぬぼれるなよ、メル。ぼくはおまえより強いぞ。聖女である限り、これでも当代の剣聖だからな。それとも、おまえが残ってぼくが行くか?」

「そんなことをあなたにさせられるわけがないでしょう!」


 リリアン様がメルさんの背中をぽんぽんと叩きます。


「そういうことだ。……そんなわけで蓮華にアデリナ、こいつをしばらく貸してやる」


 メルさんが剣呑な様子で口を開け、閉ざし、苦しげに吐き捨てました。


「ああ、もう! 言っておくが、わたしが同伴したところで、あの魔王は絶対に己の矜持を曲げたりはしない男だからな! それに、やつはわたしなど比べものにならんほどに強い! 問答無用で殺されても文句は言わせないぞ!」

「知ってます。わたしたちは黒の石盤遺跡の写本をめぐって一度魔王と戦い、完膚無きまでに叩きのめされたことがあるので」


 メルさんが息を呑みました。


「な――っ!? く、黒の石盤遺跡だと!?」


 あからさまにメルさんの顔色が変化します。リリアン様は先見をしていたのか、小さく喉の奥でうなっただけですが。

 わたしは目を見開きます。


「メルさんは知っているんですか? 黒の石盤遺跡に記されていた内容を! あれは魔術書なのではないのですか!?」

「…………そうか……。……魔王(あいつ)は、まだ……」

「お願いします! 教えてください!」


 メルさんがゆっくりと首を左右に振りました。


「あんなもの、読むんじゃない……。次の世代に伝えちゃいけないものだ……」


 アデリナが静かに尋ねます。


「記されているものは、それほどの大魔法、大魔術なのか? たとえばレアルガルドが崩壊するほどの」


 わたしたちはギョッとしました。

 アデリナの言葉の内容もさることながら、メルさんの赤い瞳から涙が一筋こぼれ落ちたからです。


「違う……。あれは……もっと……根源的な……」

「メル。やめろ」


 けれどもその言葉は、リリアン様に遮られて。


「いいか、よく聞け、おまえら。石盤遺跡の中身が世に出れば、人が人を信じられねえ世界になる。そいつはカダスで起こったことなんかより、よほどの悲劇を生み出すぞ。だからもう詮索はするな。魔王はそうおまえたちに言わなかったか?」


 リリアン様も、知ってるんだ……。


「言われました。でも……」


 わたしが魔法少女になれる、最後の手段だから……。


「魔王のその言葉はひどく正しい。もしもおまえたちが石盤遺跡の内容を追っているのだとしたら、もうよせ。あんなものを追いかけるのは。でなければ――」


 そうして少女の姿をした少年は、呟くのです。


「――人の形をしたまま、人間ではいられなくなるぞ」



交換日記[魔法神]


あの戦バカ女神は、可愛い美少年であればなんでもよいらしいですぞ?



※更新速度低下中です。

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